船旅・2
翌日、朝日が昇ったのと同時にそれは起こった。船内に爆音が響く。船員たちが慌てて外に飛び出す。フローディとユーリエも互いに顔を見合わせてすぐに武装。甲板に出てみれば何か巨大なうねうねとしたものが船を襲っていた。右に、左にと揺らされる船の上では立っているのがやっとで、その正体は全く分からない。波が大きく甲板に打ち付ける。積み荷が床を滑っていくのが見えた。
「クラーケンだ!」
船員の一人が叫んだと同時に足首を吊し上げられ、海の中に落ちていく。上がる悲鳴にぎゅっと目を閉じることしか出来なかった。海底から姿を表したの巨大な生き物。フローディと同じくらいの大きさの目が、船をぎょろぎょろと覗いている。
クラーケンは大きな烏賊型モンスターである。中級に位置するモンスターで、大型船一隻とほぼ同じくらいの大きさだ。単体で行動する種であるため、幸いにも一匹の姿しか見えない。
ユーリエとトルナモは剣を抜き、船員を捕らえている腕を切り落とす。助けた船員に他の船員も連れて船内へ避難するように指示を出した。全員が中に入るのなど待たずに戦闘が始まる。
「『サンダー・プリズン』!」
キクラがクラーケンを雷の檻に閉じ込める。が、すぐに壊されてしまう。怒りを感じたのかクラーケンはキクラに目をつけ、触腕を伸ばす。
「『アップ・テンポ』!」
マキナが全員にスピードを上げる魔法をかけたので、キクラはぎりぎり触腕をかわした。触腕を切り落とそうとトルナモが走り、大剣を振り下ろす。ぶつりと音をたてて触腕が切れる。クラーケンは叫び声を上げて腕を引っ込めた。残った他の腕でトルナモを捕まえようと躍起になる。
「『ウッド・ランサー』!」
フローディが甲板から伸ばした木の枝で別の腕を一本押さえ、ユーリエがそれを切り落とした。しかしその切り落とした腕は、それだけで意思を持っているかのようにユーリエに襲い掛かる。紙一重でそれをかわして空中に飛び上がる。それを追いかけようと腕は動く。
「『ファイア』」
飛び上がる寸前に魔法をぶつければ、腕は真っ黒に焦げ、しばらく痙攣したあと動かなくなった。
「『アップ・ブレイク』」
ザイークが攻撃力の上がる魔法をユーリエとトルナモにかける。ユーリエは床を蹴って跳躍するともう一本腕を切り落として着地する。嫌がるようにクラーケンはぶくぶくと海中へ潜った。
落ちた腕はやはりそれだけでうねうねと動き、近くにいたマキナへと襲いかかる。ユーリエは側にあったロープで腕を絡めとると行動を止め、剣で粉々に切り刻む。
「あ、ありがとうございます」
「礼はいい、来るぞ」
まだ七本残っている。全員の緊張がピークに達したとき、三本の腕が一気に浮上し、船に絡みつこうとした。
「『アップ・マジック』」
「『クリティカル』」
ザイークとマキナがフローディの魔法を補助、魔法陣を展開していたフローディは即座に発動する。
「主砲展開。『ファイア・キャノン』発射!」
「照準確定。『アイス・ランチャー』ぶちかませぇ!」
フローディとキクラが三本全てに向かってありったけの魔法をぶつける。繋がったままの腕は多少ダメージはあるものの、まだ動くだけの余裕を見せる。怒ったように三本の腕がキクラ、マキナ、ザイークに向かった。
「『ウィンドハリケーン』」
最後の力を振り絞ってフローディが爆風を巻き上げる。クラーケンの巨体が海上に引きずり出された。それを見届けることなくフローディの視界は暗転する。ユーリエが倒れるその身体を受け止めに走る。その横でトルナモが飛び上がり、振り下ろした剣の衝撃波をクラーケンの頭に叩き込んだ。
クラーケンは大きな頭を振りかぶり、海の中へと消えていく。海中に逃げられてしまっては追いかける術はない。残念だが、クラーケンを倒すことは出来なかった。




