ホーリードラゴン・3
ルースターの入り口で若いドラゴンに降ろしてもらい、その背中を見送る。周りは一気にざわめいた。ドラゴンの背に乗ってルート山を下山するなど前代未聞だ。それになぜか大量の土産まで持たされている。しかしフローディとユーリエの姿を確認し、その両親の功績を思い出せば、そんなことをしでかしてもおかしくはないかと、次第に熱は冷めていった。
武器屋に行こうと広場を横切る二人を呼び止める声がして、二人は振り返る。立っていたのはマキナだった。
「あれ、一人?」
「はい。他のみんなは買出しとか、荷物整理です」
「そうなんだ。それはそうとどうしてルースターに?」
「あなた方が赤い石を手に入れたと聞いて……」
赤い石って……と少し考えて、しばらく前に手に入れた宝玉を思い出す。これのことかと、身につけていたそれを、ユーリエは差し出した。
「はい、これです」
マキナは嬉しそうに石を受け取った。その瞬間、宝玉は淡く光り始める。何事かと見守る二人に、マキナは笑って説明した。
「この石は、私の欠片なんです」
二人が手に入れた赤い宝玉は、マキナの記憶の欠片だった。悪魔に奪われたそれらは、世界中に散りばめられて、さまざまなモンスターの中に埋め込まれているらしい。宝玉を埋め込まれたモンスターはなぜか凶暴化して、世界中で混乱を巻き起こしているのだ。パブオの砂蛇の一件のように。
「だから、探していたんです」
「そうだったんだ、ごめんね」
「いえ、あなた方でよかった」
「それは返すよ」
「ありがとう」
マキナは微笑むと手にした宝玉を口にし、飲み込んだ。二人は目を見開いて驚くが、それをした本人は至って平気そうである。
「大丈夫なの?」
「はい、もう慣れました」
にっこりと笑うマキナ。本当に大丈夫そうだとほっと息をついた。そういえばとユーリエはマキナに向き直る。
「そうだ、ホーリードラゴンが、『望むならここに来い』って」
「勇者に伝えろって言ってたね」
その伝言にマキナは頷いた。きっと山へ行くのだろう。二人に伝言を頼むなんて、あのドラゴンはどこまで見通していたのか。
仲間に相談するというマキナと分かれて、二人は武器屋に戻ってきた。これで武器を直してもらうことが出来るとユーリエは嬉しそうだ。相棒が成長するのは確かにすごく嬉しい。大量の荷物を持ったまま、武器屋の扉を開いた。
「ただいまー」
「おじさん、貰ってきたよ!」
「おう、帰ったか。っておい、何だその量は!」
店主は持ち帰った物の量の多さに目を見開く。ほんの少しでよかったのだが、相当の量がある。売ればかなりの値がつくことは間違いない。必要な分だけ受け取って後は好きにしろというつもりだったのだが、二人は初めから武器屋に置いてくつもりだったらしく首を横に振った。冒険をしてはいるが、その都度いらないものを売って生活しているために金には困っていない。邪魔になるので荷物は極力減らしたい。
「……分かった。最高のものを作ってやる!」
「ありがとう、おっちゃん」
「おじさんありがとう」
これだけの素材を置いていくのだ、今回も金は受け取れないと二人は武器屋を追い出された。何でもユーリエの武器を直して二人の武器を強化するには最低一日はかかるらしい。フローディのたままで預けてしまったので、二人は宿への道を歩いていた。
「なんか、なつかしいね」
「だな。そんなに時間たってない気がするけど」
二人がこの街を旅立って、まだ一年も経っていない。その間にたくさんの出会いと別れがあった。でもまだまだ終わりじゃない。まだ見ていない場所はたくさんあるのだ。
「今でも村人になりたいのか?」
「もちろん。この夢は変わらないよ」
世界を見るのも、悪くは無いけど。なんて心の中だけで呟いて、フローディは微笑んだ。自分がこんな風に考えるようになるなんて思わなかった。それにユーリエがこんなことを聞いてくるようになるなんて思いもしなかった。自分たちの成長を感じて、少しだけ歩くスピードを緩めた。




