ホーリードラゴン・2
山頂に程近いところに、鳥の巣を大きくしたような、ドラゴンの巣があった。雲を下に眺めるそこはとても綺麗で、まるで空に手が届きそうなんて伸ばしてみる。青く、深い空はどこまでも続いていて、自分の小ささと、世界の広さを物語っている。
伸ばした手は当然届くはずが無い。けれど、ふっと腕ごと影に入った。
慌てて振り返れば、そこにはとても大きいホーリードラゴンが、興味深そうに二人を見ていた。二人は視線を逸らすことが出来ずにじっとドラゴンを見つめる。しばらくしてホーリードラゴンが口を開く。
『なんのようだ、人の子よ』
まさか言葉を発するとは思ってもいなかったので少し反応が遅れたが、冷静に答える。
「ホーリードラゴンよ、あなたたちの卵の殻を少しだけわけてほしい」
その言葉を聞いた瞬間にホーリードラゴンの瞳がキラリと輝いた。
『ただでとは言うまいな?』
いたずらっぽく尋ねるホーリードラゴン。二人は慌てて体中を探すも出てくるのはブドウモドキの実ばかり。ここに来るまでの道でたくさん倒したのだが、少ししか持ってこなかったためにそれもあまり多くは無い。
「あの、今はこれしかありません」
おずおずとブドウモドキの実を差し出すフローディ。ホーリードラゴンはそれを見てキラキラと目を輝かせた。
『本当か? 我らの種族はブドウモドキが大好物なんだ』
「それでしたら、ここに来るまでにたくさん倒しました。まだ道に落ちているはずです」
『それはありがたい』
ホーリードラゴンは辛党らしい。ユーリエの言葉にホーリードラゴンは大きく咆哮する。それに答えるように若いドラゴンたちが空へ飛立った。それを見送ったあと、ホーリードラゴンはすっと卵の殻を差し出す。
『これは礼だ』
ユーリエが殻を受け取った瞬間、先ほどの若いドラゴンたちのものであろう咆哮が下の方から聞こえてきた。大きなドラゴンもそれに答えるように咆哮する。何事かと見ていると、ホーリードラゴンはさらに卵の殻を差し出してきた。そのうえ鱗や髭まで付けられては目を白黒させるしかない。どういうことなのかと尋ねれば当然のことだと返された。
『そなたらは我らの思った以上にツタブドウを刈ってくれたそうだ。いや、ありがたい。これでも足りないくらいだ。何なら、この子をつけようか』
ホーリードラゴンは口に生まれてまだ間もないであろうホーリードラゴンを咥え二人に差し出した。くりくりと純粋な瞳でこちらを見られても、育てられない。そもそも親元から離すのはかわいそうである。慌ててそれを辞退すれば、すごく残念そうにしているホーリードラゴン。なんだかとても申し訳ない。
『本来ならば我が行きたいくらいだが、残念ながら我はこの種族の長。本当に残念だ』
どことなく両親に似た雰囲気を感じ取り、ただ楽しいことがしたいだけだろうと二人は思った。しかし口には出さないでホーリードラゴンから貰った大量の土産をどうするか考える。
「どうする? 全部は持って降りれないよね」
「そうだな。だからって貰わないってわけにも……」
『ふむ、確かに人の子たちには重過ぎるか』
ホーリードラゴンは再び空に向かって咆哮した。答えるように一匹の若いドラゴンが戻って来る。大量のブドウモドキを咥えている姿はどこか嬉しそうだ。
『これがそなたらを送っていく。乗るが良い』
「ありがとう!」
「悪いな」
若いドラゴンはまだ人の言葉を話せないのか、答えるように一つ鳴いた。二人が背中に乗ったことを確認すると翼を広げ、ばさりと羽ばたく。
『勇者に出会ったら伝えておけ。望むならここまで来いとな』
ホーリードラゴンの言葉に大きく頷いて手を振る。ありがとうと声を上げればいつでも来いと返された。機嫌よく笑うホーリードラゴンに見送られて、二人は登りよりも遥かに速いスピードで山を降りたのだった。
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