ホーリードラゴン・1
それは突然のことだった。ユーリエが止めを刺そうとサンダートータスの甲羅に剣を突き立てた瞬間、剣が折れたのだ。それはもう見事なまでに真っ二つに。幸いその一撃でサンダートータスを倒すことは出来たが、どうやってもくっつくことはなさそうだ。
「あー、どうしよう」
ユーリエは今にも泣き出しそうにヘにゃりと顔を歪め情けない表情で剣を見つめている。フローディもその見事なまでの折れ具合を確認したが、使い物にならないことを再確認するだけだった。他の武器はと持ち物を見直すが隠しナイフが三つほどしかない。
「とりあえず剣を直さなきゃね。ここからだとルースターが一番近いかな?」
「だな。絶対怒られる……」
頭を抱えて落ち込むユーリエに、フローディはかける言葉が見つからない。怒られるのは間違いないだろうから。
***
ユーリエの武器がナイフしかなかったのが災いしたのだろう。通常なら四半日ほどで辿り着ける距離なのに、ルースターに到着するのに丸一日もかかってしまった。嫌なことは先に終わらせたいと、真っ直ぐに武器屋へ向かう二人。恐る恐る扉を開けば、他に客はいなかった。
「こんにちは」
「ん? フローディにユーリエじゃねぇか! どうした?」
「実は……」
ユーリエがおずおずと剣を差し出せば、店主はしばらく固まったあと、叫び声を上げた。フローディはそれを予想して耳を塞いでいたのだが、ユーリエはあえてそれをせずに受け止める。店主はふうと息を吐き出して、ユーリエを見る。
「どんな無茶な使い方をしたんだか……。それに見たところ成長させてないみたいだしな」
「成長? 武器が?」
「な、お前らそこからか!?」
ぽかんと口を開いている二人を見て、店主ははあああとため息を吐き出す。どこから話せばいいかと考えあぐねて椅子に座った。出発する前に言ったはずなんだがな。ユーリエの剣を手に取り労わるようにそっと撫でる。
「いいか、お前ら。武器ってのは成長させるもんだ。自分のレベルに合わせて成長させなきゃ、武器が耐えられなくなるんだ。そして壊れる」
こんな風にな、と剣をカウンターの上に置きなおした。ユーリエは罪悪感が湧き上がって剣を撫でる。知らなかったとはいえ、無茶をさせすぎた。
「おっちゃん、直るかな?」
「もちろんだ。ついでにお前らの持ってるもので強化もしてやるよ」
「ありがとう!」
店主の言葉に手を取り合って喜ぶ二人。店主は咳払いをしてただしと続けた。
「直してやる。だからとりあえずユーリエの武器を直すためにルート山に行ってこい」
「ルート山?」
「なんで?」
「ユーリエの武器を直すには、ホーリードラゴンの卵の殻が必要だ」
ホーリードラゴンはルースターの近くにあるルート山に生息するドラゴンである。ものすごく大きいことと、とても賢い以外、その生態はあまり明らかになっていない。少し悩みはしたが、すぐに二人は顔を見合わせて頷きあう。店主はそれを見て満足そうに笑った。
***
店主から武器を借りてルート山に来ていた。荷物は宿屋に預けてきたためとても身軽である。自分の武器を手に入れるまでは一般のものを使っていたはずなのに、今はもう手に馴染まない。ぶんぶんと振ってみるが、しっくりこずに首を傾げる。ドラゴンと戦うことになったら嫌だなと顔をしかめた。
「襲ってくるのかな?」
「どうかな?」
そうならなければいいと思いながら、二人は山を登り始めた。
麓には木がたくさん生えていたのだが、中腹に差し掛かるころには道が開けた。少し歩いたところでユーリエの足が取られる。
「え?」
「ユーリエ!」
フリーディは慌ててユーリエに絡みつく蔦を引き剥がしてモンスターを見る。そこにはツタブドウに良く似たモンスター。しかしどこかが違う。
「何、これ」
「ブドウモドキだ」
ツタブドウは一本から十本までしか蔦を伸ばせない上に行動距離も短く、スピードも遅い。しかしブドウモドキは蔦を十五本以上伸ばすことが出来、とてもすばやい。行動距離もツタブドウよりわずかに長い。ユーリエは向かってくる蔦を難なく切り伏せた。フローディは火系の魔法を使って応戦する。
「『ファイア・カッター』!」
炎の刃がブドウモドキを切り落とし、じわじわと燃え、その動きを止めた。動かなくなったことを確認して近づけば、中央にはツタブドウに良く似た実が生っていた。
「おいしいのかな?」
「どうかな? 聞いたことないけど……」
フローディは実を一つ摘み上げて口に運んでみた。ものすごく辛い味がして、慌てて口から吐き出す。スパイスとしてはいいかもしれないが、単体でとなるととてもじゃないが食べられそうに無い。少しだけ持って行くことにして、二人は先に進んだ。
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