分岐点・1
時は遡ること、十一年前。ある有名な一組のパーティがレルナンドを訪れていた。レルナンドは子どもの適正検診がとても発展しており、彼らもまた自分の子どもたちのための訪問であった。
先生の話を聞く家族は二組。椅子に座らされた子どもたちは大切だけれど退屈な話にあくびを溢す。
「ユーリエくんは、魔剣への耐性が強いようです。また、フローディくんは精霊との相性がいいみたいですね。他の子と比べて魔力もとても強いようですし……」
退屈で退屈でしかたない。あとは結果を聞くだけなんだから、遊びに行ってはダメだろうか。レルナンドに来たのは初めてで、まだ見たことのないものがたくさんあるのに。ユーリエは母親の服の裾を引いて尋ねる。それを見てフローディも母の服の裾を引いた。母親たちは仕方ないと笑う。
「絶対に夕方までには帰ってくること」
「はぐれたら?」
「「ぎるどにかえる!」」
「よろしい。行っておいで」
母親たちに見送られ、二人は手を繋ぎながら外に飛び出していった。
***
ユーリエとフローディは市場に来ていた。珍しいものがたくさんあって、活気のあるいい市場だ。しかしそれ故に人が多い。はぐれないようにとしっかり握っていた手は、人の波に飲まれいつの間にか離れてしまう。気づけば互いの姿は見えなくなった。
「フローディ?」
大きな声で名前を呼びながら市場を歩くユーリエ。きょろきょろと周りを見ていたため、前方は不注意だった。どんと、人にぶつかり慌てて謝る。見上げれば体格のいい青年が立っていた。彼は屈んでユーリエと視線を合わせる。
「なんだぁ、ガキ。迷子か?」
「ガキじゃねぇ、ユーリエだっ!!」
「へえ、俺はレオンだ。で、親は?」
ガキといわれたことにむっとしつつ唇を尖らせる。レオンはそんな態度にくつくつと喉の奥で笑う。
「とうさんとかあさんは先生のとこ。ひまだったから出てきたんだ」
「ああ、適正検診か」
少し悩んで、レオンは立ち上がった。なんだろうかとユーリエはそれを見上げる。ふっと笑うとレオンはユーリエの頭を撫でた。
「来いよ、ユーリエ。ギルドまで連れてってやる。どうせ帰り道もわかんねーんだろ?」
言われたことは確かに正論だった。フローディを捜すのに夢中だったから、自分の歩いてきた道など覚えていない。小走りでレオンの横に並んで歩くユーリエ。見上げるのが辛くなるほどの身長差が悔しくて、いつか追い抜いてやろうと密かに心に誓う。
「レオンって冒険家なのか?」
「いや、俺は傭兵だ」
父親よりも歳の近い大人とこうして隣を歩くのがなんだか楽しくて、ユーリエはニコニコと笑った。レオンもそれを無碍にはしない。
「ようへー? って、何するんだ?」
「商人が他の町に行く護衛したり、荷物運んだり、ま、色々だな」
「楽しい?」
「助けを求めて手を伸ばしてる奴がいるんだ。手を差し出してやりたいじゃないか」
そんなもんなのかとユーリエは頷いた。自分の両親たちとはまた違った考えなんだと思うと面白い。しかしそれならば尚のこと、他の場所へ行ったりはしないのだろうか。
「冒険はしないのか?」
「基本的にはレルナルドが拠点だな」
「ふーん。なんで?」
「なんで、か。そうだなぁ……」
レオンは少しだけ足を止めて、どこか遠くを見ている。なんだかその顔が泣きそうに見えて、ユーリエは聞いてはいけないことだったのかと慌てた。自分まで泣きそうになっているユーリエを見てレオンははっとした。謝るように笑って頭をぐしゃぐしゃに撫でる。
「お前にはまだ早いよ」
ほっとした。けれど質問を流されたことに気づいて、ユーリエがむくれて見上げても、レオンは笑っているだけで質問には答えてくれそうになかった。
「お前はどこから来たんだ?」
「どこ?」
「家のある町は?」
「うーん、ない!」
「は?」




