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村人☆リスペクト  作者: 深抹茶
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砂漠・2

 クエストを受けてから五日ほどかけて、二人はパブオまでやってきた。ここに来るまでに二人ともレベルが一つ上がったため、現在のレベルはユーリエ・レベル24、フローディ・レベル18である。この国へ来たのは、実は初めてではなかった。子どもを連れて砂漠の国はきついだろうに、やってのけた両親には頭が下がる。

 そのためか、あるいは別の噂のせいか、二人の検問は非常に軽く済んでしまった。マネットですら簡単だと思ったのに、ステータス帳を見せて名前を記入するだけで終わったのだ。

 タルビテは砂漠の国だけあってとても熱い。そのはずなのに、氷の花びらの効果か二人は暑さをほとんど感じなかった。そればかりか夜になっても寒さを感じない。氷の花びらの効果に新しい発見をして喜んだりもした。

 砂漠での戦いに慣れていないため、初めとても苦戦したが、連戦を繰り返すうちに慣れていき、なんとか足を取られずに済むようにはなった。だがやはりいつもどおりというわけにはいかない。何とかならないかと試行錯誤はするものの、どうにもならない。二人はこんなところで大自然の偉大さを知った。


 パブオに到着すれば、待っていたとばかりに歓迎を受けた。そして休む間もなく派遣された探索隊と共に砂嵐の発生ポイントまで進む。二時間ほどで辿り着いたそこは、驚くほど何もなかった。しかしそんなのはこれから調べればはっきりすることだと息巻いて隊員たちは魔方陣を展開する。全ては無理だが、少しずつ砂漠の砂を掘り返そうというのだ。護衛だけだと思っていたのだが、それにはフローディも借り出されてしまった。しぶしぶ隊員の一人に教えられた通り、魔方陣を展開する。『魔道書~入門編~』を片手にフローディの出したそれは常人より遥かに大きく、一人で半径三メートルほどの規模だった。隊長の掛け声に合わせて魔法を発動するも、誰も何も見つけられずにいた。


 ニ・三回で疲れてしまった隊員もいるが、そんな中フローディは息も切らせずに、もう何度目かになる魔法を発動した。正直帰りたいだけなんじゃないかとユーリエは思う。フローディの足元の砂が宙に浮いた瞬間、巨大すぎる何かが砂の中から飛び出してきた。

「フローディ!」

 さすがに疲労が激しかったのか少し反応の遅れたフローディを庇って前に飛び出すユーリエ。巨大な何かの牙を剣で弾き返して、すばやく体の前に構えなおす。

 飛び出してきたのは砂蛇といわれる下級の蛇型モンスターだ。首の辺りから膨らんでいるのが特徴で、ずんぐりとした体型は鈍そうに見える。しかしその動きはすばやく簡単には捕らえられない。牙には毒もあり、獰猛な肉食モンスターとして有名である。本来なら全長一メートルもあれば大きい方なのだが、二人の対峙したそれは、軽く十五メートルほどの巨体だった。突然変異か、それともまた黒い穴のせいなのか。詳しくはわからないが、こいつが暴れているから砂嵐が起きたのだということだけは明白である。

 ゆらゆらと遊んでいるかのように鎌首をもたげ、砂蛇はじっとユーリエを見つめる。ユーリエもそこから動けず、砂蛇を睨むしかなかった。先に動いたのはどちらだったか、砂蛇はユーリエに向かって飛び掛る。ユーリエは剣を片手に持ち替えて左に飛ぶ。そのまま砂蛇の後ろに回りこみ、砂蛇の背中に両手で剣を突き刺そうとした。しかしそれに気づいた砂蛇は砂の中に潜ってしまう。

 どこから飛び出してくるのかわからない緊張感の中、フローディは隊員たちに出来るだけ後ろに下がるようにと指示を出した。隊員たちも自分たちの敵う相手ではないと心得ているのだろう。下手に動くことなく、素直に後ろへと下がる。

「どうする? ユーリエ」

 ユーリエの後ろまで走り、背中合わせに立つと、周囲を警戒しながら、二人はじっと待つ。

「おびき出したい。いけるか?」

「任せて」

 フローディは先ほどと同じ魔方陣を展開し、魔法を発動する。二人の周り半径三メートルほどの砂を一度空へ吹き飛ばした。そこに潜んでいた砂蛇は怒って再び飛び出してくる。ユーリエは斬りかかろうとするが、砂に足を捕られ、思うように動けなかった。その少しの反応の遅れのせいで、砂蛇は再び地中に潜ろうとしている。

「『ウォーター・レイヤー』!」

 力任せにフローディは砂へと水系の魔法を叩き込んだ。砂が濡れたことで硬くなり潜りにくくなったのか、砂蛇の動きが鈍くなる。そこにユーリエが剣を振り下ろす。しかし予想外にその鱗は硬くほんの少しの傷しかつけられない。砂蛇は再び地中へと潜ってしまった。

「ちくしょー、硬い。ふつうの砂蛇とは違うってか」

「どうしよう……」

「方法がないわけじゃないさ」

 ユーリエは頬に伝う汗をぐいっと拭ってフローディに作戦を伝える。

「そんなの出来るかな?」

「出来るさ。お前なら」

 フローディの力を世界一信じているユーリエは、にっこり笑うと再び駆け出す。フローディとわざと距離を取り、剣を鞘に収め手放した。

 そんな恰好の獲物を逃がすはずもなく、砂蛇は大きな口を開けユーリエに襲い掛かる。その瞬間を待っていたとばかりにフローディは魔法を発動した。

「『フローズン・クリエイト』!」

 凍れと念じながら発動した魔法は、砂蛇の口に当たり開いたままの状態で凍りつかせていく。しかしここは砂漠。いくら氷の花びらの力を借りていても、長くは持たない。そもそもこんな場所で氷系の魔法を発動できたことが奇跡に近かった。

「ユーリエ!」

「わかった!」

 砂蛇の巨体を半分ほど凍らせたところでフローディがユーリエに限界を知らせる。ユーリエはそれに答えて、鞘に収めた剣を引き抜く。居合いの要領で放たれた斬撃は凍りついた砂蛇を捕らえ、ものすごく綺麗に二枚に下ろしたのだった。

 力を使いすぎたためか、それとも緊張が解けたのか。フローディはその場にぺたりと腰を下ろしてしまう。マントにつけていた氷の花びらを引き抜いて直接頬に当てれば、火照った体には冷たくて気持がよかった。レベルの上がった音がしてステータス帳を見れば、二人のレベルがひとつずつ上がっていて、目標達成だなんて笑いあった。


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