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村人☆リスペクト  作者: 深抹茶
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砂漠・1

 キラキラと光る氷の花びらを眺めて、フローディは幸せそうに笑った。

 昨日までエクリネットでは、一年に一輪しか咲かない氷の花の展示が行なわれていた。毎年開かれているこのイベントでは、最後に氷の花の花びらをかけたくじ引きが行なわれている。当選するのは当然ながら花びらの枚数に応じた、たったの六人。しかし幸運にもフローディは、今年のくじ引きで当選し、見事に花びらを手に入れたのだ。

 中央広場の噴水に腰掛けながら、恍惚とした表情を浮かべるフローディ。そのままの気分で隣に座るユーリエに声をかける。

「綺麗だね。こんなに素敵な花の情報をくれた村人さんは――――」

「あー、はいはい。で、その花の効果ってなんなんだ?」

「最後まで言わせてよ」

 不貞腐れるフローディを放置してユーリエは鞄から氷の花の取り扱い説明書を取り出した。この花の情報をくれたのはタムレイドの案内人ではある。それに感謝はしているが、それを聞いてしまうとフローディの話はヒートアップし、最終的には町から出ないと言い出す。確かに重要な仕事ではあるし、好きなものを否定するのは心苦しい。心苦しいが、これだけは認められない。認めてはいけないのだ。

 説明書には氷の花の使用法や、効果が記されている。氷の花は身に着けているだけで体温を下げる効果があり、やけどには非常に良く効くらしい。氷で出来てはいるが、砂漠の熱でも溶けたり枯れることはない。氷系の魔法を発動させるときに効果を上乗せすることも出来るらしく、非常に便利だ。

 ユーリエはそっと花びらに触れてみた。ひんやりと冷たいそれはどこか心を落ち着かせてくれる。フローディは花びらに手を掛けると、ためらうことなく縦に裂いた。思った通りに綺麗に裂けて、満足し満面の笑みを浮かべる。

「はい、はんぶんこ」

「……ありがと」

 フローディから差し出されたそれを受け取ってユーリエは微笑んだ。羨ましかったわけじゃないけれど、特別なものを手にしているのはやっぱり嬉しい。

「うし、次はどこに行こっか」

「別に行かなくても、ボクはいいよ」

 うっとりとした表情のままそんなことを言い出すフローディ。ここ最近忙しかった反動が来ているのかいつも以上に絶好調だ。親元から離れるまで戦闘のせの字すら知らなかったような人間なのだから無理はない。しかし、いい加減諦めてくれないかな、なんて自分のことを棚に上げながらユーリエは思う。穏やかな時間もたまには悪くないけれど、やっぱり冒険に行きたい。とりあえず手ごろなクエストを受けようと、ユーリエはいつものようにフローディを引き摺ってギルドに向かった。


***


 マネットは大陸一の王国。その首都であるエクリネットのギルドには大陸中の情報が集まる。そのため、ギルドの規模も他の追随を許さない。

 ユーリエはフローディの手をしっかりと握って開いている受付に向かう。「次の方」と呼ばれて立ったカウンターの向こうに立っていたのは、昨日のくじ引きでフローディが壇上に立ったとき隣に立っていた人物だ。

「あら、昨日の」

「どうも」

「こんにちは」

 女性はにっこり笑って名前と階級を尋ねる。ユーリエがそれに答えると、女性は他よりも少しだけ大きめなファイルを取り出した。

「今日はどんなのがお望み?」

「簡単な」

「レベル上がりそうなやつで」

「オーケイ。ちょっと待ってねー」

「最後まで言わせてってば」

 ユーリエがフローディの言葉を遮ったことには何も言わず、女性はごそごそとファイルを引っ掻き回してクエストを吟味する。しばらくしてから一枚の紙を引き出した。少し皺が寄ったのは見なかったことにして、二人はその紙を覗き込んだ。そこに書かれていたのはマネットの隣に存在する砂漠の国タルビテのパブオからの依頼だった。パブオはタルビテにあるオアシスのひとつで、比較的豊かな町である。そのパブオで現在、原因不明の砂嵐が発生しているとのこと。今までも砂嵐が起こらなかった訳ではないのだが、これまで例にないほどの発生件数。今回は明らかに異常事態ということでこのクエストが依頼された。調査に加わり、原因を探って欲しいということだ。

「昨日氷の花びら、ゲットしてたわよね? ちょうどいいんじゃない?」

「そう、ですね。タルビテだったらそう遠くないし、行ってみるか」

「クエストにはこう書いてあるけど、たぶん護衛がメインになると思うから」

「わかりました」

 ふとフローディに視線を向ければ機嫌悪そうに睨まれたあと、思い切り視線を逸らされた。地味にショックを受けつつユーリエは書類にサインをして、タルビテへの証明印を受け取るためにステータス帳を開く。

「タルビテにしばらく滞在する?」

「まだ予定は決まってませんが……」

「なら、一応短期のパスにしておくわね。もしも長期滞在になったらパブオのギルドで発行しなおせばいいわ」

「わかりました」

 ぽんぽんと軽くステータス帳に証明印を押して差し出しながら女性は二人に笑顔を向けた。

「いってらっしゃい」

「いってきます」

「いってきまぁす」

 不満そうな顔をしていても挨拶だけはしっかりと返して、フローディはユーリエに引き摺られるがまま、エクリネットのギルドを後にした。


***


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