表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
村人☆リスペクト  作者: 深抹茶
21/47

悪魔・3

 フローディが目を覚ますと、辺りはもう真っ暗だった。起き上がろうと手を動かせば、がしゃんと鉄の嫌な音が響く。自分の寝かされているのは紛れもなくベッドで、あれ? これってどういうことだ。なんて部屋を見渡せば見たことのある黒い穴。

「これって……」

「それを知ってるの?」

 ぞくりと肌があわ立って、視線を逆に向ければディレイがうっそりと笑って立っていた。何とか距離を取ろうともがくが繋がれているのは腕だけではなかったらしい。暴れた足からも鎖が嫌な音を立てるばかりだった。そうこうしているうちにディレイがベッドへと上がってくる。フローディの上に乗り上げたところで、その姿がぐにゃりと歪んだ気がした。

「何?」

「ああ、この姿ももういいかなって」

 少しずつ、少しずつ歪んでいって最終的にディレイの姿は全くの別人になってしまった。頭からは角が、背中には真っ黒な羽が見える。というか、性別すら変わっているのではないだろうか。ワイシャツだけを羽織った上半身は豊かなバストが揺れている。

「どちらさまですか?」

「反応うっすーい。おもしろくなぁい」

 不満の声を上げる彼女。気を取り直すように咳払いをして、フローディの首にそっと手を掛ける。顔を歪めた耳元に唇を寄せて囁いた。

「あたしの名前はぁ、アスモデウスって言うの。色欲の悪魔。若いオスっていいわよねぇ。おぃしそぉ」

 機嫌よさそうに尻尾を揺らして、アスモデウスは手に少しだけ力を込める。息がしづらくなって目を細める。自然と目が潤んできた。その表情が嬉しくてしょうがないとでもいうように笑って頬をぺろりと嘗め上げる。

「ね、さっきも言ったようにあたしって悪魔なんだけどぉ」

 答えを返そうにも声が出せない。フローディは呼吸することに集中しつつ、アスモデウスの言葉に耳を傾けた。

「悪魔ってねぇ、魔力の補給はモンスターを食べるか、魔力の高い人間を食べることで行なうの。ちなみに私は魔法使いがだぁいすき。子どももおいしいけどねぇ」

 あの男はまずかったわ、なんてぺろりと唇を嘗めてフローディの首から手を離した。はっはっと荒い呼吸が部屋に響く。

「まあ、食べる前に楽しませてもらうけどね」

 まるでいただきますとでも言うかのように口を開けて首筋に顔を埋めた。


***


 目を覚ませば、ユーリエは粗末な床に転がされていた。体中が痛いなんて不満を漏らして、周囲を見る。大体予想していたこととはいえ、地下牢があるのまでは想像していなかった。手足はロープで縛られていて自由に動かせなかったが、前で縛られているためもぞもぞとしているうちに少し緩んだ。これならいけるかと、ブーツから隠しナイフを取り出して少しずつロープを切る。

 しばらくぎこぎことやっていればぶつりと音を立ててロープは千切れた。すっくと立ち上がって、自分の閉じ込められた部屋を見渡す。鉄格子の内側には何もなく、硬いごつごつとした岩ばかり。空気を入れるためか天井に近い場所には鉄格子のはめ込まれた窓がある。向こう側には見張り用だろう机と椅子。そして壁際には二人の荷物と武器が立てかけてある。

 これ以上得られる情報はないだろうと再びロープを軽く腕に巻きつけて、壁にもたれかかる。しばらく待っていると、メイド姿の少女が入ってきた。手には食事が湯気を立てて用意されている。ちらりとこちらを見て少女はユーリエに声をかけた。

「大人しくしていてください」

「お前たちは、なんでこんなところでおとなしくしてるんだ?」

 少女は答えず無表情のまま鉄格子の向こう側から料理を差し入れてくる。ユーリエはため息をついてそれを見た。

「ま、いいや。食べさせてくれんだろ?」

「え?」

「だって縛られてるし」

 予想外だったのか少女は目をぱちくりさせて、縛られているユーリエの腕と顔を見る。ようやく表情が崩れたことに少し笑って、じっと次の行動を待った。少女は少しだけ迷って、やがて意を決したように中へ入ってくる。

 少女が背中を向けた瞬間にユーリエはロープを解き、少女の腕を捕らえ壁に押し付ける。カシャンと食器の落ちる音がした。

「なあ、あいつの目的は何だ?」

「存じ上げません。でも……」

 言いづらそうにしている少女の言葉をじっと待つ。ぎゅっと目を閉じて覚悟を決めたのか、少女はおずおずと口を開いた。

「お連れの方が、危ないかもしれません」

「どういうことだ?」

「公爵様は、人間ではないのかもしれないんです」

 突拍子も無いことを言っているのは自分で分かっているのだ。だからこそ思い過ごしならいいのだが、と少女は前置きして、消えた旅人のことを話す。二人の前に訪れた旅人はユーリエと同じように鉄格子に閉じ込められていた。しかし彼は捕らえられた数日後に、公爵が地下に降りてから姿を消したのだという。誰も入らないよう言われていたために現場を視た者は居ないが、地上に出てきた公爵の服には、赤いものが付いていた。

「それ以来、私たちは公爵様に逆らわないと決めたんです」

 少女は俯いてぎゅっと悔しそうに唇を噛み締めた。ユーリエはラフトで出会ったあの悪魔を思い出す。奴らは人間を食らう。もしもディレイが悪魔なら……。最悪の状況まで想像して、ユーリエは少女の腕を離した。そして彼女を安心させるように頭を撫でたあと、口止めして上階へ向かわせる。それを見送ると、無防備にも牢のそばに置かれていた装備を身につけ、自らも階段に足をかけた。親友が骨だけになってはいないようになんて縁起でもないことを祈りながら。


***


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ