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村人☆リスペクト  作者: 深抹茶
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旅立ちの日・2

「フローディはどうなんだ? いつも村人Aになりたいと言っていたな。何故だ?」

「ボク、は……」

 何故、村人Aになりたいのか。その理由はいつでも心の中にある。しかし、何故村人Aにそこまでこだわるのか。その疑問はいつも自分の中に持っていた。大切なきっかけがあったのは覚えている。でも自分は本当にこの道を選んでもいいのか。フローディはいつも迷っていた。それでも。

「ボクは誰かを護れるような、自分の大切なものを守れるような人間になりたいんだ」

「護るためにはそれなりの実力が必要なんだぞ?」

 暗にまだまだ実力不足だと言われた。しかし、今、視線を逸らすわけにはいかない。大切な夢なんだ。譲れない。そんな彼に母が優しく、しかし確固とした芯のある声音で語りかけた。

「旅立ちなさい、フローディ」

「母さん?」

「ユーリエくんは剣士だから、あなたは魔法使いね」

「ちょっと待ってよ」

「あなたたちの世界はまだまだ狭いわ。もっとたくさんのものを見て、感じて、それから考えなさい。夢は変わっていくものなのよ」

 いつまでも村人Aになりたいなんて言って心配してたの。と言いながら自分の荷物をひっくり返す母。しばらくガサゴソやったあと、なにやら一冊の本を取り出した。タイトルには『魔道書~入門編~』と書かれている。すっとフローディに差し出されるそれを手に取りぱらりと開く。タイトル以外にはなにもなかった。さらに一ページ進める。

「前に占い師兼魔女という人から預かったものよ。必要な時に渡しなさいと。持ち主のレベルに合わせて呪文が浮かび上がる優れ物らしいわ。それに入門編が終わったら勝手に応用編に変わるらしいから」

 魔法使いの必需品ですって、なんてうきうきしている母親。そんな本呪い以外のなにものでもないじゃないか。それと同時に差し出される荷物。旅の生活が長くて、自分の荷物は自分で持つようにしているため、常に準備は万端だ。必要なものは揃っている。

「ちょっと待ってよ、旅立つのは決定なの?」

 それでもなお食い下がろうとするフローディに、父がすっと袋を差し出した。

「ここに3000ゲムある。これで自分たちにあった装備や道具を揃えなさい」

「ありがとう。って違う!」

「さぁ、行こう! フローディ!!」

 ユーリエはフローディの袖を引っ張り扉へ向かう。フローディの願いも虚しく扉は開かれ、外へと押し出された。

 にこやかに手を振って見送る両親。パタリと扉が閉められると、母はそっと手を降ろし、深く息を吐き出す。

「寂しくなるわね」

「そうだなぁ。しかし俺たちのパーティにいても二人の成長は遅くなる」

「……あーぁ。まだまだ子どもだと思っていたんだけど」

「子どもの成長は早いからな。ま、あいつらが強くなったら、また一緒に冒険すればいいさ」

「そうね……」

「そんなに寂しいなら、もう一人くらい作るか?」

「もう、何言ってるのよ」

 子どもたちのこれからを考え、両親は顔を見合わせて微笑みあった。彼らにも最高の出会いと冒険が待っているようにと、願うばかり。


***


 フローディはユーリエに引っ張られるのが嫌になり自分で歩いた。宿屋を出る前にユーリエの部屋にも立ち寄ったのだが、そこでもなぜか激励された二人は装備品と薬草を破格の安さで手にいれた。二人の旅に必要なものは大方揃い、あと必要なのは武器だけである。

 町の武器屋に入るとユーリエは気軽に店主へ声をかけた。店主は振り返り二人に気づくと人のいい笑みを浮かべながらカウンター越し訊ねる。

「ユーリエとフローディじゃないか。どうした?」

「武器作ってくれよ」

「なんだ、ユーリエ。また壊したのか?」

「ちげーよ。今日はフローディの」

「なにぃっ!?」

 武器屋の店主は驚いてカウンターを飛び出してきた。本当なのかと真剣な表情でフローディ肩を掴みながら詰め寄る店主に少し引きながら頷いた。あとには「両親に追い出されたんだ」とも続ける。店主は俯いて震えだした。

「お、おじさん? 大丈夫?」

「おっちゃんどっか痛いのか?」

「そうじゃない、嬉しいんだ」

 搾り出すような声で呟いたあと、店主はがばっと頭を上げた。心なしか目には光るものが見える。うわぁ……。二人の心が一致した瞬間だった。

「そ、そんなに?」

「バカ野郎!! あの、いつも『村人Aになる』って聞かなかったあのフローディが。杖を買えって言っても『別に戦わない』とか言って、落ちてる木の棒を振っていたフローディが! どれだけ説得しても杖を握りすらしなかったあのフローディが!! 旅に出るんだぞ!?」

「そこまで言わなくても……」

 これが喜ばずにいられるか、と叫びながら店主は奥へ走っていった。どうしたんだろう? と不信に思った二人は顔を見合わせる。奥からがたがたと物音が聞こえ、ついに気でも触れたのかと不安に思う。その音すら消えてしんと静まり返ったときは本当に恐怖だった。しかししばらく待つと、店主はなにやら長い箱を二つ持って出てきた。

「なに? それ」

「これはな、おまえらがいつか旅立つ日のために作っておいたものだ」

 店主が箱を開けると中にはそれぞれ杖と剣が収められていた。

「冒険家ってのは普通、自分専用の武器を持ってるもんだ。それを各地で拾ったり貰ったり買ったりしたもので鍛えて、自分オリジナルの武器を作っていく」

「へぇ。知らなかった。それは?」

「これはお前らの武器だ。随分前から用意しててな。最初に旅立つならルースターだろ」

「……おじさんは、ボクらがいつか旅立つって思ってたの?」

「そりゃな。おまえらの親父たちもぶっ飛んでるだろ? 子どもが生まれてまで冒険家を続けるなんて、そうはいねーよ。だからな、おまえらもいつか旅立つって、この町の人間なら大体のやつは思ってる。俺もその一人ってだけだ」

 持ってみろと言われ、二人はそれぞれ杖と剣を手にする。本人に合わせて作ったとの言葉通り、それは驚くほど手に馴染んだ。今まで持っていた武器より遥かに軽い。

「ほら、行ってこい」

 店主はフローディとユーリエの背中を、出口に向かって優しく押し出す。振り返りながらフローディは店主に声をかけた。

「おっちゃん、お金……」

「あ? んなのはいらねーよ。旅費にでも取っときな。土産話、期待してるよ」

「……っ、ありがとう、おっちゃん! よし、フローディ行こう!!」

「あ、うん。ありがとうございました!」

 走り出すユーリエに置いていかれないよう、フローディは足を動かす。優しく店主に見送られながら、二人は武器屋を後にした。


「はぁー……」

「どうした?」

「なんか、吸い付いてくる感じが面白いなぁって」

「だなぁ」

 二人は自分の手にした武器を眺めた。今まで一般向けの武器しか手にしたことのない二人にとって、不思議で仕方のない感覚である。フローディはそうだと思い出して荷物から魔道書を取り出し手に持った。

「魔法使いっぽくない?」

「いや、お前魔法使いだし」

「そういえば武器に名前ってないのかな?」

「名前? あー、自分だけのらしいし、勝手につけてもいいんじゃないか?」

「んー……じゃあ……あ、『たま』」

「はぁっ!?」

「うん、ボクの武器の名前は『たま』で」

 決まったことに満足して、一人で頷く。もう気になることはないとばかりに歩き出す。納得がいかないのはユーリエだ。武器に名前をつけることには賛成したが、そんな名前にするなんて誰が許すか。

「ちょっと待て!!」

「もー、何?」

「なんだよ、その名前は」

「え、よくない? たま」

「よくねーよ!!」

「あー、もうこの町ともお別れか。寂しいなぁ」

「話を聞けーっ!!」

フローディはユーリエの叫びをさらりと聞き流し、すたすたと町の出口へ向かって行く。右手には「たま」と名付けた杖を振り回し、左手には『魔道書~入門編~』を抱えて。町の外に出るのは嫌だし、敵と戦う覚悟も無い。圧縮の魔法が掛かっていても荷物袋は当然重いし、慣れない杖だって持っているには違和感がある。けれどこうなってしまったらしょうがない。そんなフローディの様子にユーリエはため息を吐きつつ苦笑して追いかける。お互いに相手を振り回しながらも、結局は相手に甘いのだ。少しくらいなら外の世界を見るのも悪くないかもしれない。目指すは『最強の村人A』。決意も新たにフローディは歩き出した。彼の夢は依然として健在である。



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