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村人☆リスペクト  作者: 深抹茶
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手紙・1

 二人はその日の報告と報酬の受け取りにギルドを訪れていた。今回のクエストは森に増えた黄林檎の収穫といった比較的簡単なもの。人の頭ほどある大きさの実を三十個ほど収穫するクエストは、簡単ではあるが手間のかかるものだった。ガラガラと台車を引きながらギルドへ入る。

「おねーさん、終わったよー」

「あら、じゃあ荷物はあっちに運んでもらえるかしら」

「わかりました」

 受付嬢に声をかけると、商人ギルドの方を指差された。二人は台車を適当な場所へ止め、再び受付に向かう。途中ですれ違った者たちに声をかけられるほど、二人はフロンゲントにすっかりと馴染んでいた。

 報告を済ませて報酬を受け取る。一連の流れが完了し、今日はもう帰ろうかと二人が受付に背を向けたときだった。

「だから、それがどうしてかって聞いてるの!」

「あの、どうしても駄目ですか?」

 聴こえてきたのは二人の少女の声と、謝罪を繰り返す受付に立つ男の声だった。先に気づいたのはユーリエだ。珍しい光景なのに加えて少女たちが必死なのが気にかかった。フローディのマントをしっかり掴むと少女たちの方へ近づき声をかける。

「どうかしたんですか?」

「ゆー、りえ……くるし……」

 ふとユーリエがフローディの方を見ると真っ青な顔で首もとのマントを引っ張っていた。ごめんとユーリエがマントを離せば、大げさなくらいげほげほと咳き込んでいる。そんな二人を片方の少女は訝しげに、もう片方の少女は怯えながら伺っていた。ごほんと咳払いをすると、ユーリエはギルドの男に視線を向けた。つられたように少女たちも男に視線を向ける。フローディまでもが男を見たものだから、男は激しく挙動不審に陥り、あ、だのう、だのと意味のない言葉を発すると、また小さく、すみませんと謝った。

「なにかあったの?」

「私たちはタムレイドまで手紙を出しに来たのよ」

「でも、断られてしまったんです」

 タムレイドはシルフィアの隣国マネットにある町だ。国境からすぐの場所にあり、普段なら手紙を出すのを断られるような場所ではない。戦争中ならいざ知らず、現在シルフィアはマネットの属国のようなものなので、そんな不穏な気配はない。

「何故配達できないんですか?」

「じつは、街道に人食いモンスターが出没していて、レベル10以下の人間は通行禁止になっているんです。配達人たちは他の重要書類の運送で手一杯でして……」

 ちらちらとこちらを伺う男の視線から察するに、重要書類とはおそらく先日ラフトでフローディたちが発見した穴のものだろう。確かに一流の配達人たちなら人食いモンスターなど苦にも感じずに手紙を配達してくれるはずだ。しかしその配達人たちが出払っている以上、手紙を配達できるような者がフロンゲントにいないのも頷ける。

 フローディは嫌な予感がしていた。それはもうびしばしと。そもそも自分の幼なじみはお人よし過ぎる面がある。冒険家には向いてないんじゃないの? そんな彼の予感は的中していた。

「じゃあ、オレたちがその手紙を届けます」

「やっぱりね!」

 逃げようとしていたフローディの腕をしっかりと握り、ユーリエは少女たちに頷いて見せた。戸惑う二人の様子とユーリエの顔を交互に見て、逃げるのを諦める。見上げたユーリエの表情は、笑顔なのにどこか硬かった。また面倒なことでも考えているんだろうと、出かけたため息を飲み込む。

「でも、ご迷惑じゃ……」

「なら、ギルドに正式なクエストとして登録してください。それをオレたちが引き受ければ何の問題もない」

 受付の男もそれに頷いたことで少女たちは安心し、気の強い方が受付を始めた。ユーリエもそれに習い、クエストを受けるための書類を完成させていく。フローディはその間に内気な少女に近づいて声をかけた。

「あの手紙、そんなに大切なの?」

「……はい。実は祖母が病で倒れたそうなのです。一週間も経ったのにその後の経過報告が来なくて……。心配でいてもたってもいられなくなったので、二人で手紙を出そうと」

「そっか。優しいね」

 照れたように笑う少女にフローディは微笑んだ。二人は従姉妹同士で、とても仲が良く、祖母のことが大好きなのだと少女は嬉しそうに語る。少女とフローディは二人で互いの連れのことを話し合う。最近の面白エピソードまで差し掛かったところで、ユーリエが振り返った。

「おい、フローディちょっと来い」

「なにー?」

「マネットは、隣国とはいえその、証明印の発行が必要に、なるのです。すみません」

 簡単に入れるわけじゃないんだねと促されるままにステータス帳を出した。最後のページを開き、証明印の発行を待つ。男はステータス帳と数枚の書類を手にわたわたと奥に入って行った。隣に立つユーリエがふっと笑って言う。

「意外だな」

「何が?」

「もっと嫌がるかと思ってた」

「ほんとは嫌だよ。でも、あんな顔見せられちゃ、ねぇ」

「あんな顔って?」

「あんな顔、だよ」

 にやにやと笑いながらユーリエを見る。そこに二人のステータス帳を持った男が戻ってきた。なにか言いたそうな視線を向けながらも、印の入ったそれを受け取ったユーリエ。これで二人はいつでも出発することが出来る。

「報告はタムレイドのギルドでお願いします」

「わかりました」

「今日出るの?」

「いえ、明日の出発で結構です」

 確かに今日はもう夕暮れ。荷物の整理もすれば夜になってしまうだろう。必ず届けると少女たちに約束して二人は宿に戻った。


***


 翌朝、二人はフロンゲントを出発した。報告はタムレイドのギルドまでとのことで、荷物は全て持って出ている。もちろん依頼の手紙は大切にリュックのポケットへ。

 しばらくシルフィアには戻らないだろう。ギルドから二人の両親に電報を打った。宿を出る際にまたいつでもおいでと携帯食を分けてもらった。昨日のクエストの礼だと農家の人からは黄林檎の干したものを貰い、手紙の少女たちからは何故か護身用にとナイフを差し出された。そして町を出るときにたまたますれ違った村人Aに迷惑をかけた礼をすれば、少し待たされたあと、なぜかお別れにと弁当を渡された。フローディは感激していたが、ユーリエにとっては疑問が尽きない。またなにかやらかしていたんだろうなとは思うけれどそれも怖くて口に出せず、謎は謎のままである。というより謎のままにしておいた方がいいような気さえしていた。


 しばらく歩き空を見上げればちょうど太陽は真上に差し掛かっていた。そろそろ休憩にしようと、貰った弁当を広げながらタムレイドの方を見た。

「遠いねー」

「ま、一応他国だからな」

「マネットは久々じゃない?」

「そうだな。父さんたちも最近はシルフィアばっかりだったから」

 などと他愛の無い話をしつつおにぎりを口に入れていく。貰った弁当の中身はいっぱいのサンドイッチで、とてもおいしかった。

 森が先ほどから移動しているような気がして首を傾げる。まだ少し距離があるが、道を覆うように存在する森がこちらに幅を広げているように見えるのだ。それに森へ入っていく道の切れ方もなんだか不自然な気がする。

「ね、ユーリエ。あの森変じゃない?」

「森?」

 ユーリエがそちらを見れば、確かに森が広がってきているように見える。ユーリエは最後の一口を口へ放り込み、手を拭いて荷物をあさり出す。フローディもその間にさっさと弁当を片付け手を拭いた。

「あった」

 ユーリエが取り出したのはギルドから貰った街道に出没するというモンスターに関する情報の数々。その中の一つに書かれていたのは植物系のモンスターだった。すさまじい勢いで森が広がっているように見えるのは間違いなくそいつの仕業だろう。

「ヒクイト?」

「あぁ。肉食の植物系モンスターだな。火が苦手なはずだけど、森の中となるとやりにくいかもしれない」

 少し不安になりながら、フローディはもう一度森の方を見る。相変わらず広がる森は、そこに不気味に存在し続けた。



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