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 高校二年目が始まって一月ほど経過した頃の日曜日。水城は書店へと行った。

 中間考査とそれ以降の勉強に役立ちそうな参考書、及び問題集を物色する事が目的である。

 それらは学校から配布された物が既にあり、中間考査の問題等はそこから選出される事になる筈なので、本来なら新たに購入する必要はない。しかし、水城は一年の頃から自身が買ってきた学校配布の物よりほんの少しだけ難しい教材を主軸にして勉強し、学校で配布された物は前日に使うに留めるというスタイルをとっていた。

 自身で購入すれば身銭を切ったという感覚がより強くなるため元を取ろうとするし、学校配布の物と違ってこれさえやっておけばという安心感がないので考査終了まで焦燥感に駆られ続ける事になる。この方法で入学時は中の下程だった順位を上の中程度まで跳ね上げたが、難しい教材を使用している故に回転率が悪くなりがちであり、定期考査の対策ではなく純粋な勉強になってしまうため、学校配布の物を使いこなしている生徒には僅かに届かないでいる。

(できればもっと別の方法で勉強に対するモチベーションを維持したいんだがなぁ)

 などと思いながら本棚を眺めていると、隣から人の気配がした。

 ちらりとそちらの方を見てみると、水城と同年代くらいの女子であった。英語の教材を探しに来たらしく、中身を確認しては戻してを、しきりに繰り返している。

 水城も数学の教材探しに戻ろうと思ったが、どうにも隣の女子が気になってしょうがない。

 どこかで見たような顔だが、誰なのかが思い出せない故である。

(間違いなく知っている人だが名前が出てこないな。誰だったっけ……)

 と悩んでいると、当人から

「水城君?」

 と声をかけられた。声もどこかで聞いたような声であるが相変わらず彼には思い出せない。

「久しぶりだね、元気にしてた?」

 と彼女は水城が知っている事を前提にさらに話を進めてくるので、とりあえず無難な返しをして思い出すまでの時間を稼ぐことにした。

「まぁ、おかげさまでな」

「羨ましいねぇ、私は昔ほどの元気はないよ。学校も遠いし、中学の時に仲が良かった友達とも時間の都合がつかなくてあんまり会えなくなっちゃったし、それに……」

 そう言うと彼女は少し考え込むような素振りを見せた。

「それに?」

 と、水城が答えを促すと、

「交通費がやたらとかかるようになった」

 と、すっとぼけた返答が返ってきた。この女子高生は真意を隠した返答をしたのだが、水城は気づいていない。

 ただ、この一連のやりとりで彼は彼女のことを完全に思い出した。

 自分の中学の頃の知り合いで、少し離れた高校へ通い、一年会わなかった人間にも気さくに話しかけてくるこの人物について心当たりがあるどころか、ついこの間思い返していたまである。

 気づかなかったのは薄いながらも化粧をしていたことと、カットソーにワイドパンツという中学では見慣れなかった服装をしていた事が要因であろう。

 そのため、

「今さらだけど、私のこと覚えてる?」

 と聞かれても、

「そりゃ、アルバムに忘れるなって書かれたからなぁ。寺元さん」

 とすんなり答える事が出来た。

「それで覚えていてくれたんだ、ありがとうね」

「そういえば……」

 ーーどういった理由で俺のしおりやアルバムにコメントをしたんだ?

 話の流れでつい喉元までそんな言葉が出かかったが、

(これは失礼もいいところだな)

 と、思い直し、

「何を買いに来たんだ?」

 と、彼女が何を買いに来たかなど見れば分かるのに聞いた。

「英語の教材で何か良さげな物が無いか見にきたんだよ。水城君は数学?」

「俺は数学と理科関係が駄目だからその辺を探しに来た」

「私がちょうど苦手なジャンルが逆なんだね。私はどちらかと言えば文系が苦手」

 寺元は少し考えるような素振りをした後、重ねて、

「ねぇ、教え合いっこしない? 得意科目と苦手科目がお互い逆なら、お互いの弱点をカバーし合えると思うんだけど」

 と言った。

 しかし、寺元は偏差値が高い遠くの高校であり、対して水城は近くの普遍的な高校である。とても教えるような水準には至っていないように思える。

「寺元さんの苦手と俺の苦手は多分水準が違うと思うぜ。苦手と言っていた文系科目だって俺よりあんたの方が上かもしれない」

 と、その事を正直に言うと、

「そんなことはないと思うよ。田舎の高校の選択肢って元々少ない上に家からの距離にも左右されがちだから、偏差値以上の実力を持った生徒も結構いるでしょう? 何と無くだけど、あなたもその類じゃない?」

 との事であった。

 水城何か返答しようと思ったが、これ以上参考書売り場で話は続けられそうにない。

 店内に、特に参考書売り場近くの漫画コーナーに客が増えて来たのである。

 今までは邪魔にならないよう小声で話していたのだが、こうなっては小声であっても他者に聞こえてしまうだろう。

「外に行こうか、ここで話し続けるのもお店に悪いし」

 と、言って寺元は参考書を一つ手にとってレジへと持っていく。

 それに追随するように、水城も数学の問題集と収集していた漫画の新刊を持ってレジへと向かった。

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