【冬の童話祭2019】逆さ虹の森~リスとキツネの願いごと
昔々、ある森に立派な虹がかかりました。
その虹は逆さまで、珍しい虹がかかったその森は、
いつしか「逆さ虹の森」と呼ばれるようになりました。
これは、リスさんとキツネさんの、小さくて大きな旅路の物語です。
はじまり、はじまり。
※「冬の童話祭2019」参加作品
-----------------------------------------------------
(C)KAMOGAWA.Ahiru (2018) All Right Reserved. / (C)賀茂川家鴨(2018)
禁無断転載:「小説家になろう」関連サイトと「賀茂川家鴨の小説王国」、身内用フォルダ、追記等にあるもの以外のサイト等に転載されていた場合、無断転載です。
木々の隙間から逆さ虹と朝日が差し込んでくるころのことです。
茂みの奥で、ごそごそと物音がしています。
通りがかったキツネさんが茂みを観察していると、コロコロとどんぐりが転がり出てきました。
「おやー? なにかいるのかな?」
どんぐりを追いかけて、小さなリスさんがコロコロとでんぐり返しをしてあらわれました。
大の字に伸びたリスさんは、キツネさんと目が合います。
「で、でかい!」
「いやいや、私より逆さ虹の森のほうが大きいよー」
キツネさんににらまれたリスさんは、たべられるのを恐れて、一目散に逃げ出します。
リスさんは、茂みに頭を隠しましたが、お尻と丸い尻尾が隠れていません。。
「そんなにおびえなくても、とって食べないから、安心しなよー」
リスさんは、足をじたばたさせて、もがいています。
「んー? 抜けなくなっちゃったのかな?」
キツネさんは、リスさんの尻尾を咥えて、茂みに座らせました。
「おお、助かった! ありがとう!」
「あんまり急いだら危ないよー。見た感じはリスさんかな?」
「そうそう。そういうお前はキツネだな? よろしく!」
「よろしくー。それで、さっきは何をしていたのー?」
「ふっふーん。命の恩人には、特別に教えてやろう。どんぐりを集めて、ドングリ池に行く準備をしていたんだ」
「ふーん、ドングリ池ねー」
「ここから東にまっすぐ進んで、根っこ広場とオンボロ橋を渡った先に、ドングリ池があるんだ。そこにどんぐりを投げ込むと、願いごとが叶うらしい」
「へー。すごいねー」
森の誰もが知っている逸話でしたが、キツネさんは、なんとなく知らなかったふりをしてあげました。
「どんぐりを集めて、ドングリ池に行く準備をしていたんだ」
「なら、連れってあげるよー。結構遠いよー?」
「なぬっ! それは助かる! さっそく出発しよう!」
リスさんは頬袋にどんぐりをたくさん詰め込んで、キツネさんの頭にしがみつきます。
「入れすぎじゃないかなー」
「でえじょうぶ、まだ入るから」
「よくしゃべれるねー」
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
「いこうかー」
*
キツネさんはちらりと天を見上げました。
「東はたぶんこっちかなー」
キツネさんとリスさんは、深い森の奥を目指して、のんびりと進んでいきます。
「おおー、方角がわかるとは、さすがキツネだなぁ」
「キツネだからねー」
*
やがて、たくさんの木の根っこが飛び出す、根っこ広場にやって来ました。
「やあやあ、根っこ広場についたよー。……んー?」
リスさんは葉のついた小枝で、キツネさんの三角のお耳をつんつんしていました。
「くすぐったいからやめてよー。それに、あんまりはしゃぐと落っこちちゃうよー?」
「ごめんなさい」
「よしよし。それで、リスさんは、どんなお願いごとをするのかなー?」
「そ、それは……ぎゃあ!」
キツネさんは足を止めます。
「どうしたのー?」
とっても長いへびさんの頭が、リスさんの目の前にあらわれました。
へびさんは、木の枝からにょろりと体を伸ばしていました。
「やあ、へびさんかー」
「しゃしゃ。ここは根っこ広場。うそつきは根っこに捕まるぞ」
「らしいねー。リスさん、どんなお願いごとをするのか、本当のことを教えてくれるかなー?」
「そ、それは……」
ヘビさんは、舌をしゅるしゅると出し入れしながら、地面にぽとりと落ちます。
木が揺れて、りんごもぽとりと落ちます。
「うそつきは根っこに捕まっちゃうんだってー」
「ぐぬぬ……。でも、願いごとは秘密にしないと叶わないらしいから、教えられない……」
「そうかー。じゃあ、しょうがないなー」
リスさんはキツネさんの毛に顔をうずめました。
「木の根っこに捕まるのはいやだーっ!」
「しゃしゃ。捕まるのはうそつきだけだ。現に捕まっていないじゃないか」
「あれ、本当だ」
「しゃっしゃ。森はすべてお見通しというわけだ。この先に進むなら、橋には気をつけるといい」
「どうも、ありがとうー。気をつけるよー」
へびさんは、りんごをひと呑みにすると、茂みの奥に去っていきました。
*
道中、コマドリさんたちの合唱を聴きながら進んでいくと、水の流れる音がしてきました。
「ここがオンボロ橋?」
「みたいだねー。でも、ところどころ板が抜けてるねー。壊れちゃったのかなー?」
一陣の強い風がふくと、橋がぐらぐらと揺れました。
コマドリさんたちは歌います。
「オンボロ橋は渡れない。渡れない、渡れない。おくびょうクマさん渡れない。渡れない、渡れない」
「んー? クマさん?」
「うぎゃあ! でかい!」
リスさんはキツネさんの毛にしがみついて、顔をうずめ、ぷるぷると震えています。
大木の裏から、のっしのっしと、茶色いクマさんが姿をあらわしました。
「あ、あの……僕、クマです」
*
「リスさん、キツネさん。僕に力を貸して下さい!」
「任せとけ!」
リスさんはキツネさんから飛び降りて、頬をぽんと叩きました。
「クマさんは向こう岸に渡りたいのかなー?」
「はい。向こう岸には、おいしいハチミツがとれる木があるらしいんです」
キツネさんは、尻尾の先でクマさんの頭をつつきます。
「そっかー。どうして渡れないのかなー?」
「その……下を見ると、とても怖くて……」
「んー、下?」
「何かあるのか?」
崖下をのぞきこむと、木1本分ほど下のほうで、大きい川が穏やかに流れています。
リスさんは木登りで高いところに慣れているので、ちっとも怖くありません。
「なーんだ。これくらい、平気、平気! ほら、着いてきなよ!」
リスさんは、オンボロ橋のロープを伝って、向こう岸までたどりつきました。
「おーい、はやくー!」
リスさんは向こう岸で尻尾を振っています。
クマさんはキツネさんにお尻を押されながら、橋の前までやってきました。
「うう……。僕に渡れるでしょうか?」
「渡ってみよーよ」
「重くて落っこちないでしょうか」
「渡ってみないと、わからないよー」
「は、はい……いきます!」
クマさんは、おそるおそる、木の板の上に前足を乗せました。
キツネさんは後ろで励ましながら着いていきます。
リスさんは向こう岸で日向ぼっこをしていました。
「すごーい、あと半分だよー」
「あと、半分……ひえっ」
クマさんの踏んだ板が抜けて、クマさんはこけてしまいました。
オンボロな木の板は、川に流されていきます。
コマドリさんたちは歌います。
「おくびょうクマさん渡れない。渡れない、渡れない。橋の間で宙ぶらりん。宙ぶらりん、宙ぶらりん」
「ひええ……」
「ど、どうしようかー」
リスさんが寝返りをうつと、クマさんが頭から橋にはさまっているのが見えました。
「なぬっ! なにをどうしたら、そうなるのか!」
リスさんは飛び起きると、ロープを伝ってクマさんのもとに駆けつけました。
キツネさんと一緒に引っ張りますが、クマさんは動きません。
それどころか、クマさんを挟む木の板が、みしみしと音をたてて割れてしまいました。
「あっ」
あわや、クマさんは川にまっさかさま!
ざぶん、と水しぶきがあがります。
「クマが、落ちてしまった……」
「落ちちゃったかー。でも、元気そうだよー?」
「ぬ?」
クマさんは、川を泳いで、崖をよじのぼってきます。
*
リスさんたちは、びしょぬれのクマさんと日向ぼっこをしています。
「みなさんのおかげで、渡ることができました。ありがとうございます」
「クマはすごいのだ。川を泳げるのか」
「クマさんが自分の力で渡ったんだから、もっと誇るべきだと思うよー」
「そ、そうですか……?」
リスさんはキツネさんの頭に乗ると、頬からどんぐりをひとつ取り出しました。
「どんぐり、食べる?」
「えっ。その、僕は……」
キツネさんは、リスさんの頭を、ふさふさの尻尾で撫で回します。
「クマさんは、どんぐりを食べないんじゃないかなー? ……およ?」
「ありがとうございます。ひとつ、いただきます」
クマさんは、どんぐりをぽりぽりと食べると、その場で寝そべりました。
「ちょっと疲れたので、もう少し休んでからハチミツを探したいと思います」
「そっかー」
「リスさん、キツネさん。ありがとうございました。またお会いできたらいいですね」
リスさんはふんぞり返ります。
「なーに、ドングリ池で願いごとをかなえたら、またすぐに遊びにいくからな!」
「リスさーん。願いごとの話は秘密じゃなかったのー?」
「クマはいいやつだから教えてやる!」
「そっかー」
ドングリ池の逸話は、森中の動物たちが知っていることです。
もちろんクマさんも知っています。
「ドングリ池に行くんですか?」
「そうだよー」
「今、ドングリ池は、こわーいアライグマさんがナワバリにしているみたいです。コマドリさんたちが歌で教えてくれました」
「アライグマさんがいるのかー。どーもありがとー」
キツネさんはうんと伸びをしました。
「よーし、休憩したらいくぞー」
「おー」
*
「たぶん、東はこっちだよー」
リスさんとキツネさんは、森の奥へと一直線に進んでいきます。
やがて、奥まで続く広い池が見えてきました。
リスさんはキツネさんから飛び降り、草地を踏みしめます。
「ここか?」
「ここがドングリ池だよー。上から見ると、どんぐりの形になっているらしいねー」
「そうなのか? キツネは物知りさんだな! ……あれ? どうして知っているのだ?」
「そういえば、ここに、こわーいアライグマさんがいるらしけどー」
「アライグマ? そんなことより、さっそくどんぐりを投げ入れよう!」
リスさんが口の中に前足を入れると、茂みから灰色の丸い生き物が走り出てきました。
「わっ」
「ぎゃあっ。お、おい、お前ら! ここに何しにきやがった!」
「そ、それは教えられない!」
「ああ~? なんだと? どうせお前らも、泉で願いごとをかなえに来たんだろ?」
「な、なんでそれを……」
「やあやあ、おでましみたいだねー。君がアライグマさんかなー?」
「ああ、そうだ。おれがアライグマだ」
リスさんはキツネさんの耳の裏側に隠れてしまいました。
キツネさんは、ひょうひょうとしています。
アライグマさんは、腕を組んで、ピリピリしているようです。
「どうしてそんなに怒ってるのかなー?」
「ああ? 怒ってねえよ。いつもこんな感じだ。それに、お前らはヒトじゃねえだろ?」
「そうだねー」
「ここに来る観光客みたいなヒトの連中が、泉にゴミを投げ入れないように見張ってんだ。どんぐりを投げ入れろっての。パンくずとか硬貨とか投げ入れてどうすんだよ。池が汚れちまうだろうが! パンくずを池に投げるくらいなら、オレにくれよ!」
「まあまあ。落ち着いてー。リスさんが怖がってるからー」
リスさんはキツネさんの耳の穴に顔をつっこんでいます。
「リスさーん。くすぐったいってばー。アライグマさんは、こわくないよー。……だめだこりゃ」
「けっ。しょうがねえなあ。ほら、オレは見張りに戻るから、さっさと願いごとをしやがれ」
「ありがとー」
アライグマさんは、宙を軽く蹴ると、茂みに戻っていきました。
「ほら、アライグマさん、いなくなったよー。はやく願いごとしなよー」
「ぐぬぬ……びっくりしたのだ」
リスさんは頬袋からどんぐりを全部出して、地面に山積みにしました。
「いっぱいあるねー」
「やっと願いごとができる……」
リスさんは、どんぐりを1つ、池に投げ入れました。
ちゃぽん、と音がして、波紋が広がります。
リスさんは、キツネさんに、
「ほら、キツネも。願いごと!」
「いやー、私は、しなくてもいいかなー」
「ふぇっ。どうして?」
「んー、秘密かなー」
「ぐぬぅ。気になる……」
「まあまあ。そのうちわかるってー。それに……まあいっかー」
キツネさんは、リスさんの頭を、尻尾の先でわしゃわしゃと撫でます。
ドングリ池には、逆さ虹が反射して、虹がかかっているように見えました。
*
リスさんは、余ったどんぐりを頬袋につめこんで、キツネさんの頭にちょこんと乗ります。
「次はどこにいこうかー」
「クマと遊ぼう!」
「わかったよー。じゃあ、クマさんのところに遊びにいこうかー」
*
こうして、リスさんはドングリ池で願いごとをすることができました。
はたして、リスさんの願いは、かなったのでしょうか。
キツネさんの願いとは、なんだったのでしょうか。
動物さんたちの旅は、これからも続きます。
めでたし、めでたし。
~ついき~
「リスさーん。はじめて『誤字報告』をもらったらしいよー」
「なぬっ!」
「リスさんがリコリスさんになってたみたいだよー。けもみみさんのほうと、ごっちゃになっちゃったみたいだねー。あと、キツネがキツになってたみたいだよー。んー……キツツキさんかなー? それからー」
「ま……まだあるのか?」
「あるねー。『根っこ広場に』が『根っこ広場だに』になっていたみたいだねー。根っこ広場が谷になっちゃうよー。このお話といい、けもみみさんといい、あひるさん、間違えすぎだよー。それからー、はやく、けもみみさん本編のつづきを書きなよー」
「キツネは、なにをいっているのだ?」
「こっちのはなしだから気にしなくてよー。……もう誤字脱字はないかなー? なんだか、この調子だと、まだまだ間違いが出てきそうな気がしてきたよー。みんな、教えてくれてありがとー」
「ところで、ごじほうこく? とは、なんなのだ?」
「まちがったことばを、なおしたよー、ってお知らせすることだよー」
「そうなのか? その、ことばは、どこにあるのだ?」
「んー? いま、ここにあるよー」
「わかんないのだ……」
「そっかー。ここにあるんだけどなー」