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学生っていいな  作者: 近江 仙
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恋敵

 恋敵


 初めて見たときから素敵だと思った。

 むさ苦しい男子たちの中で一人異色な人。

 硬い髪質の清潔感のある短めの髪。中肉中背よりやや筋肉質で、整った顔が生み出す表情は誠実さを常に纏っている。

 教員たちにも礼儀正しく、砕けた口調の中にも丁寧さを感じる。


 一目ぼれだった。気が付いたら彼を目で追っていた。


「・・・かっこいいよね。」

 友達の間でも話題に上がるようになった。


 これはいけない。話題に上がってもし、誰かが狙っているなんてことになると、それは早く名乗り出た者の勝利で、その後いかに彼を好きになっても後から来た悪役としてグループ内では扱われる。


「・・・私、彼のことが好き。」

 だから、真っ先に言っておく。

 女友達のグループ内では、付き合っていなくても最初に狙った人が一番手だ。


 彼のことをしっかりと見て、しっかりと調べた。

 男子高出身で成績は優秀。真面目で兄弟構成は二歳下に弟と年の離れた妹。つまり女性慣れしてないと私は判断した。

 分け隔てなく接する彼の行動の中にも女性に対して非常に紳士的に見える部分が多かったからだ。それは紳士的ともいえるが、距離を置いているともとれるものだった。


 彼と近付くにはサークルには入っていない。そもそも彼は勉強が好きなようだ。


 なら、私も彼と同じように勉強をしよう。

 取る授業や資格も調べた。

 馴れ馴れしいカズキという男子学生をから色々聞いた。


「尊敬されればいいんじゃないの?」

 ふと友達が昼食中に言った。


「え?」


「だからさ、彼、勉強できるじゃん。なら彼を上回るようにすればいいでしょ。」


 当然のようにいうが、彼女の言うことは難しい。

 高校時代優秀で大学で成績を大幅に落とすものは多いが、それは遊び惚けてだ。彼は優秀であった上に大学でも真面目に勉強している。対して自分は推薦でこの大学に来た。受験が終わるとすぐに遊び、もちろん大学でもだ。今のところ週一で合コンに行っている。

 好きな人はいるが、ちやほやされるのは好きだ。だからそのために行く。


 でも、やっぱり好きな人と付き合いたいし、一緒に過ごしたい。


 彼と示し合わせているわけではないが、放課後に勉強する。

 その時に自分が優秀だとアピールできればいいのだ。


 授業のノートなんて見せられるものじゃない。先生の話について行くのが精一杯で、メモもままならない。


「じゃあ、きちんと取っているノートを借りればいいじゃない。」

 女友達との相談でその結論が出た。そして、それをカズキを通して実行した。


 その結果は分からなかったが、そのノートをさりげなく使って一緒に勉強してから彼の様子がおかしかった。


 まず、放課後に会うことが無くなった。勉強してそのあとご飯を一緒に行くことは沢山あったが、示し合わせていたわけではないから、外で約束することもなく、ただ、会わない日々だ。


 まさか、自分より頭のいい女は苦手なのではないか。

 アプローチの手段が裏目に出るとは思わなかった。


 自分の所属する工学部の女子を見て自分を鏡で見る。

 清楚さを心掛けた服装に控えめな化粧、トップコートだけのネイルにアクセサリーはネックレスだけ。何よりも私は美人だ。


 しっかりと狙えば彼を落とせる。そもそも私はもう彼に落ちているのだ。


 彼の家の場所は分かる。だって、カズキから聞いたからだ。

 そして、彼を大学で見かけて後をこっそりとつける。特に彼女ができたわけではないのは分かる。なら何故私になびかないのだ?

 数日待ったが、彼と放課後勉強していたのが嘘のように関わることが無かった。これはもう避けられている。なら、弁明しなければならない。

 いや、こんな美人に迫られたら誰だって落ちる。私は彼の家に向かった。


 入念な下調べと早めの行動がものを言う恋愛の駆け引きを経験している私は、少し早めに彼の部屋の前に着いた。

 彼が帰って来るまで少し時間があるから、彼の部屋の郵便受けに詰まっている雑誌を見ていた。男子学生に必要のない脱毛の広告だ。後は新聞購読の案内とかだ。


 ガタン

 何かを落とした音に、私は急いで見ると、彼が帰って来ていた。


 驚いた顔をしていた。目を真ん丸に開いていて可愛い。かっこいいと思っていたけど、こんな母性本能を擽る表情をするなんて、もっと好きになっちゃう。


「・・・ねえ、最近何で勉強しないの?」

 少し猫なで声で彼に訊く。

 彼は何か言い訳を考えているのか困ったように首をひねった。


「・・・・ちょっと、忙しくて。」


「もしかして・・・・彼女出来たの?」


「・・・・そうでないけど・・・その・・・」


 戸惑う彼を見て私は確信した。

 彼は女慣れしていないのだ。というより、アプローチに気付いて困惑していただけだ。


「・・・・ねえ、私ってあり?」

 少し間をおいて聞くと彼は急いで部屋の中に入った。

 おそらく照れているのだろう。


 彼の色んな表情を見てもっと好きになってしまった。これではもう、合コンに行くことはないだろう。


 何としても彼と付き合いたい。

 物事は積み重ねだ。コツコツと積み重ねる。共に過ごした時間が長いほど離れがたくなる。これは持論だが、とにかく彼と接することが一番だ。


 何度か彼を待って数回話したが、彼はシャイなのか内気なのか、可愛く照れている。


 待ちきれなくなって、彼を追い込んで告白することにした。

 付き合ってしまえばこっちのものだ。彼のように誠実な人は、付き合うとよっぽどのことが無い限り別れることは無い。


 友人に助っ人を頼んで彼の部屋の前で待った。

 私たちを見た彼の顔と言ったら可愛いことこの上ない。


 急いで部屋に飛びこんで、私たちは止める暇もなかった。

 仕方ないからチャイムを数回鳴らすと荷物を持った彼が出てきた。


「・・・・私、あなたのことが好きなの。」

 退路を友人が塞いでくれたおかげで、私は彼の前に立って告白できた。


「・・・それはありがたいけど・・・」

 困ったように俯く彼を見て私は初めて別の可能性を考えた。


 まさか、恋愛対象として見られていないのか?


 考えたこともなかったが、彼の様子を見るとそれが濃厚だ。そんなこと、赦せるはずがない。


「・・・彼女でもできたの?」

 思わず責めるような声色になった。

 彼は私の声を聞いて驚いて怯えた顔をした。


「誰か付き合っている人いるの?」


「・・・これは、その」

 何やら困っているようだ。


「・・・・他に好きな人がいる。」

 彼は考え込んで私の目を見て言った。


 だが、私は知っている。この彼の言葉は嘘だ。彼と接する女子はみんなチェックしている。というより、彼は女子とほとんど話していないはずだ。


「嘘でしょ。だって・・・」

 私は彼がここ数日話した女子の名前を挙げて、彼女らが恋愛対象になることはないことを強調した。


「・・・と・・・とにかくいるんだって。だからごめん。」

 彼は急いで私たちから逃げるように走り去った。


 全く女として見向きもされなかった気がした。

 呆然とする私に友達は励ますように肩を叩いた。


「・・・ねえ、もしかして大学以外で会っているのかもしれないよ。・・・今だって持っていたの、お泊りセットでしょ?きっと女のところだよ。」

 友達が一人彼の持っていた荷物のことを言った。私ももちろん気付いていた。だが、考えるのが怖くて見ないふりをしていた。


「・・・どんな女だが、見てやる。」

 私はまだ追い付けると判断して彼の後を追った。



 彼は走りながらもきちんと信号は守っていた。やっぱり律義だなと想い更に好きになった。

 彼の位置が見える場所を取り、約10メートルは離れて後を追った。


 大学近くの結構大きなアパートに着くと彼は階段を上がった。

 同じアパートに入ると彼にバレるからそのアパートの近くに階段が露出している別のアパートがあった。その階段に上り、彼が入ったアパートの様子を窺った。

 運よく廊下部分は外から見える造りで、私は三階に中る場所に座り、廊下に彼が出てくるのを待った。


 彼の姿を確認するまでの間、私は彼の気になる人となりうる人間を考えていた。

 ここは大学の近くだから同じ大学の生徒のはずだ。だが、同じ工学部に私に勝てる女子はいないはずと首を振った。なら、生物学部か?女子が多い学部を考えたが、彼がそんなところまで人間関係を伸ばしていないのを私は知っている。


 彼が出てきたのは二階の廊下だった。

 慌てて六番目のドアのチャイムを押して、早く会いたいのかドアを叩いていた。

「ッチ・・・」

 その必死な様子に私はつい舌打ちをしてしまった。


 そして扉は開かれた。部屋の住人を確認すると彼は縋りつくように駆け寄った。


「信じられない。」

 自分が見たことのない彼の一面を見せる人物に苛立った。いまいち顔が見えない。



 少し見やすい位置に移動して私は愕然とした。


「・・・はあ?」

 そこにいたのは見たことのある人物だった。下の名前は覚えていないが、苗字がジゾウだった。


 私の誘いを断るのは相手がいるからに決まっている。同じ学部の女子は私の敵ではない。

 これは事実だ。だからこそ、これらを踏まえたうえで私の誘いを断る理由に該当する事態に私はショックを受けた。


 なぜならジゾウは男子学生だ。


 ジュンイチは私の誘いを断ってあの男に会いに行った。それはただの友達ではない。だって私の誘いを断ったのだから。


 これらの事実から私ができることはただ一つだった。


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