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学生っていいな  作者: 近江 仙
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木を隠すなら

 木を隠すなら


 俺の友達にカズキというやつがいる。あいつは顔が広くて調子がいい。そして、何かしらやらかすが憎めない。

 この前もアプローチ中の女子とトラブったみたいだが、気が付いたら何事もなかったようだ。

 そんな憎めないカズキだが、俺はどうも気に食わない。

 その一つに真面目じゃないくせに友人関係で単位を乗り切っているところ。あいつの真面目友人筆頭のジュンイチも気に食わないやつだが、あいつは真面目で勉強家だからカズキとは違う部類で気に食わない。ジュンイチの話は置いておこう。とにかくカズキが気に食わない。

 俺は内心気に食わないと思いながら気が付くと奴と楽しく過ごしている。

 カズキと俺は、学部は同じだが学科は違う。幸いなのか不幸なのか接点は多くない。


「おーい」

 そんなことを考えているとカズキが俺の元に走ってきた。


「これから部活?真面目だな~」

 へらへら笑うカズキだが、彼も部活に所属している。


「そっちは部活いいのか?」


「ああ、だって今日の講師の先生嫌いだもん。」

 カズキはケロッとして言った。サークルならまだしも部活で外部講師を呼んでいるのにサボるのはどうかと思う。


「そっちはどう?」

 カズキは俺の部活の方を気にかけていた。

 それもそうだ。カズキは吹奏楽部という意外な部活に所属しており、俺は軽音楽部だ。

 皮肉なことにカズキはサックスで俺もサックスだ。

 俺はアルトサックスだが、カズキは器用にソプラノ、アルト、テナー、しまいにはバリトンまでこなせるらしい。本命はアルトサックスだと言っていたが気に食わない。


「別にいつも通り合わせるだけだし・・・・」


「そうかー。」

 訊いたくせに興味がなさそうなのが腹立つ。



「そうだ。この前貸したやつ・・・」

 カズキが声を潜めて話し始めた。

 誰かが聞いているわけではないが、彼が話し始めたことは聞かれたくないことだということはよくわかる。


「・・・データ、コピーしたから今度USB返すよ。」

 俺ももちろん声を潜めた。

 俺も聞かれたくない話だ。



 数人の友人と部活の後遊ぶ約束をし、とにかく家に帰った。

 俺の通う大学は大学が町を成り立たせているようなところで、基本的に大学の周りに学生が住んでいる。だから自分のアパートに帰るのも気楽なものだ。忘れ物をしてもすぐに取りに帰れるし朝も余裕だ。ただし、そのせいか朝寝坊して遅刻する者が多い。


 部活まで一時間近く時間もある。先ほどカズキが言ったUSBを探した。


 授業の発表で使うUSBとごっちゃになっている。


「おいおい・・・危ない危ない。」

 万一間違ったら大変だ。


 カズキから借りたこのUSBに入っているのはいわゆるアダルト系の動画で、健全な男子大学生なら誰もが見る。と俺は思っている。

 大学生とは、人によったら初めて親の目から離れるという自由への羽ばたきだ。

 俺はその中の一人であり、たまに親が来て色々見るが、昔に比べたらずっと自由で、高校時代までは、パソコンは家族共有だからこんなもの見れない。


 カズキから借りたデータはもうすでにコピーしてある。新しいUSBを買わないといけないなと考えどれが借りたUSBかと確認してしっかりと別にした。

 買うなら少しド派手なで区別をつけようと思った。


 暫くパソコンにデータを入れるのは気が引けるが仕方ない。

 ただ、たまに来る親対策としてデータの名前を「授業資料 A」とつけて他のデータと別のところに置くが、データ自体は健全な様子を偽装する。


 ついでに今度授業で発表する実験の動画も分けておこうと授業用のUSBに保存したデータにわかるように名前を付けた。


 やはり区別はつけないといけない。俺は保守的なで安全策を何重にも張るのだ。


 作業中にスマホが鳴った。

『早めに来て合わせられるか?用事があって早めに帰る。』

 部活仲間からだ。

 どうやら今日の部活での合わせ練習を早めたいようだ。

 とくにやることもないし、俺は二つ返事で了承し、パソコンの電源を落として部活に向かった。




 大学生とはいいものだ。

 学生という自由な身分で親から離れ更に自由を謳歌できる。


 その謳歌のし過ぎで単位を落とし偉い目に遭っている先輩の話はよく聞くが、それも仕方ないかもしれないと思えるくらい楽しい。

 中身のない話題で沢山笑い、趣味の友人もサークルや部活で見つけられその深い話もできる。出会いを求めて合コンすることもできる。


 部活で音楽に没頭し、終わると友人と遅めのごはんとそのまま騒いでカラオケに行って、帰ると朝5時だ。


 まだ遊べそうな気がしていたのに自分の部屋に帰ると眠気が襲ってくるのが不思議だ。きっとアドレナリンでも出ていたのだろう。


 直ぐには寝ずにシャワーを浴びて髪が濡れたまま布団に潜り込んだ。


 もちろん今日も授業だ。授業は10時半過ぎからだから2時間ほど寝てから行こう。

 念入りに目覚ましをセットし、そのまま寝た。





 何を甘えていたのだ。一度目の目覚ましで起きるべきだった。

 友人からの電話で起きた。授業前に発表の打ち合わせをしたいのに俺がいないといわれた。

 そう言えばグループの役割を与えられていた。

 起きると10時過ぎだった。

 急いで服を着て顔を洗って、髭は仕方ない。

 パソコンとデータを持って、もちろん借りたUSBは持っていかない。



 教室に着くと同じグループの学生たちが俺を見て手招きをした。

 彼等の近くに座り一言謝り直ぐにパソコンを広げた。

 授業が始まるまで発表の内容についてお互いの情報を出し、誰がどの役割をするかを話していた。

「わりー。遅れた。」

 悠々と最後にやってきたのはカズキだった。彼も同じグループだ。

 もちろんこうなったら決まるのは

「お前が発表者な。」

 問答無用でカズキは発表者に仕立て上げられた。


 カズキは少し文句を言いながらも全員の視線を受けて不貞腐れながら頷いた。


 パソコンは持ってきていた俺のを使い発表する。


「じゃあ、頼んだ。」

 みんなカズキに押し付けて遅刻者がいたことを責めながらも内心喜んでいた。

 カズキは納得いかない顔をしていたが、遅刻してきた手前何も言えない。


 発表の順番が近づくにつれてカズキは俺に視線を送ってきた。おそらく助けを求めている。

 聞くだけ聞くかとカズキの近くに寄った。

「・・・何をすればいいの?」

 カズキの言ったことは信じられない言葉だった。こいつは何を聞いていたのか。

「はあ?」

 俺は呆れて発表の手順と内容、大体はメモに入力されているからそれを読むことと、わからないことがあれば助けるとまで約束してしまった。

 仕方ないからカズキと俺の二人で発表することになった。確かに俺も打ち合わせに遅れてきた。


 発表を始め、案の定、カズキは早々にわからなくなり俺に話しを振った。

「俺の補助に回れよ。」

 俺はため息をつきながらカズキと交代した。カズキは申し訳なさそうに肩をすくめていた。

 カズキはパソコンの操作に代わり、俺がレーザーポインターを持って発表する。


「今回の実験の・・・」

「どこ?」

 カズキが発表を中断させて尋ねてきた。

「え?」

「動画。どこにある?」

 カズキはパソコンを睨みながら訊いた。


「わかるように分けている。」

 それだけいい、カズキに探すように言った。



 ふと思い出したのは、実験のデータはUSBにいれていたことだ。


「あった!!」

 カズキが安心したように言った。


「待て!!それは・・・」


 カズキが再生した動画に教室は静まり返った。


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