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居ないけど居るのよ @エレベータ

今回のお題はエレベータです。


 私の友達が大学に入って一人暮らしを始めた時の話だ。

 郊外の新興住宅地、と言えば聞こえは良いが実際の所はそのまた卵。実態は田んぼやら更地の真ん中にその子の住むマンションがぽつねんと立っているだけだった。

「新しくて綺麗だし、家賃も安い。

おまけに駅から5分なんで、すごく便利。

大抵のものは駅のコンビニで買えるしね」

 とは、その子の弁。

 ならば、お宅拝見、となり私はもう一人の親友とその子の家に遊びに行く事にした。

 駅のコンビニでスナック菓子やプチケーキ、ジュースにちょっとお洒落なワインを購入し、女三人で意気揚々と凱旋帰宅。

 その子の家は5階にあった。

 降りてきた空のエレベータに二人が乗って、私が足を踏み入れると、


ブーー


 重量超過の警告音が鳴り響いた。

「うっそ!」

 私は思わず叫ぶ。

 あり得ない。エレベータには二人しか乗っていないのだ。例え二人がはち切れんばかりのコンビニ袋を両手に握っていたとしても、私が乗って警告音が鳴るなどあってはならない!

 私はもう一度エレベータに足を踏み入れる。


ブブーー


 警告音が鳴り響く。心なしかさっきより大きく聞こえた。

「このエレベータ!壊れている!!」

 私は猛然と抗議する。

 中の二人はニヤニヤ笑いながら意味深な目配せをしていた。

「分かる。分かってるから」

 いや、分かっていない。お前達が今、心の中で考えている事を私は全力で否定したいのだ!

 私は三度、エレベータに乗り込もうとした。


ブーー ブブーー


 けたたましく鳴る警告音。

 断固拒絶の様だ。

「仕方ないから階段で来て。

荷物は持ってってあげるから」

 エレベータに乗ってる二人はそう言うと私からコンビニの袋をもぎ取った。

 警告音は鳴らない。

 私は何か言おうと口を開いたが、黙って閉じる。この敗北感はなんだろう。今となっては何を言っても虚しさしかない。

 私は閉まるエレベータの扉を見送ると一人、階段を昇る。

 やや息を切らせ気味に5階を昇りきる。

「あんた達、なにしてんの?」

 5階の廊下ではエレベータで先に着いていた二人が互いに抱き合い、へたりこんでいた。

「エ、エレベータに何か居る!」

「はぁ~?」

 私はエレベータを見るが、勿論誰も乗ってはいない。ただ、床に転がったコンビニの袋があるだけだった。

「誰も居ないじゃん」

「居ないけど、居ないけど居るのよ」

 誰も居ないエレベータを震える手で指差しながら、その子は金切り声で叫んだ。

「意味わかんない事言ってないでコンビニの袋、取ってきなさいよ」

 私の言葉に、二人は目を丸くする。

「「絶対に嫌!!」」

 ハモるほど嫌がるって……何なのよ、と思いながら私はエレベータの中に足を踏み入れる。

 すると、音もなくエレベータの扉が閉まった。

「えっ?」

 私は慌てて振り向くと《開》ボタンを押す。 しかし、反応はない。

 私はボタンを何度か押してみた。

 だが、扉はやはり開かない。

「どうなってるのよ」

 ふっとエレベータの室内灯が消え、暗闇に包まれる。

 と、微かな空気の流れが首筋を伝う。

 小さな吐息。

 誰かが背後で身じろぎする気配。

 エレベータが闇に包まれると同時に私の回りでそんな感覚が押し寄せてきた。

(なに?)

 私は少しパニックになりながら周囲を探る。

勿論誰も居ない。何も無い。

 私はエレベータの全てのボタンを連打する。

やはり、反応はない。

 足を組み替えるような気配。

 クスクス笑い。

 不快感を示すような舌打ちや唸り声。

 が、聞こえた気がした。

 私は慌てて携帯を取り出し、ライトをつける。

 白い光が室内を照らす。

 誰も居ない。

 そうだ。当たり前。ただの気のせいだ。

 落ち着くんだ。

 パネルにある緊急時のボタンを押せば、すぐに誰かが助けに来てくれる。

 何も心配することなんて無い。

 私は自分に言い聞かせる。

 ああ、だけど私は見てしまった。

 エレベータに備え付けられている鏡。

 車イスの人が後方を確認するために備えられている鏡を。

 鏡に映る私の横に男、女、老人、子供がところ狭しと立ち並んでいた。

 私は回りを確認する。

 誰も居ない。

 鏡を見る。

 虚ろな目をした人々がすし詰め状態で映っていた。


 私はもう一度室内を確認する

 居ない。


 鏡を見る。

 居る。


 居ない。


 居る。


 そう……


 居ないけど居るのだ。



2018/01/20 初稿

2018/01/24 誤字修正。文章一部変更。

2018/08/17 形を整えました


エレベータの話。

どう終わらせるのか悩ましかったです。


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