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家族連れかよ @長距離トラック

テーマは長距離トラックでございます。


 その日、高速は酷い渋滞でニッチもサッチもいかなかった。

 ラジオの情報では20キロ以上の渋滞。

 原因は旅行中の家族を乗せたワンボックスが運転を誤って横転、大破したらしい。


「ったく、勘弁してくれよ」

 神崎(かんざき)(たもつ)はちっとも動かない前の車を見ながら悪態をつく。

 夫婦と子供二人が犠牲になった痛ましい事故ではあるが長距離トラックの運転手としては正直、同情より腹立たしさの方が先に来る。

「しゃーねーだろ。

渋滞抜けたら取り戻すしかねーさ」

 相棒の川部(かわべ)はそう言うとごそごそと身をよじる。

「なにしてるんだよ?」

「仮眠だよ。この調子だと夜通し走ることになるから今から寝てくんだよ。」

 運転席の上にある仮眠室への入り口であるハッチに上半身をいれながら川部は言う。

「渋滞が終わったら最初のSA(サービスエリア)で一度起こしてくれ。

そこで用足ししたらもう休憩なしで走り続ける事になるからな」

 川部はそう付け加えた。

「了解」

 ハッチから手だけを出して手を振る川部を見送り、保は答えた。

 ハッチが閉められるのをミラーで確認すると保は前を見た。

 車は1ミリも動いていなかった。


 2時間位してようやく車が動き始めた。

 それでも人が歩くくらいのノロノロ運転だ。

もう延着確定だった。

 30分ほど走ると事故の現場を横切った。ワンボックスカーの残骸や散乱した部品が道路の横に片付けられていた。警察官や作業者たちが何人も立ち働いている。

 ワンボックスの破損具合を見ると乗っていた人間がどうなったかはなんとなく想像できた。

「このクソッタレが」

 保は横目でそれを見ながら小さく舌打をした。

 丁度、到着時刻の遅延のペナルティの事を考えていたのだ。

 幸いなことに事故現場を抜けると徐々に速度は普通に戻った。

 SAが見えたので入る事にする。

「おーう!着いたぞ」

 保は大声で川部に叫ぶ。

「用足ししとけよー。

俺は食い物とか買い出ししとく」


 ビニール袋を片手に保は運転席に滑り込むとエンジンをかける。ハッチは空いたままになっていた。

「おーい、帰っているか?」

 保は大声で叫ぶ。

 ハッチから白い手がブランと出てきてユラユラと揺れた。

「OK」

 保はトラックを発進させる。

 さっきの渋滞が嘘のようにスイスイと走れた。

 保は遅れを少しでも取り戻そうとアクセルを踏み込む。

 突然、携帯が鳴り出した。

 《川部》と表示されていた。

(仮眠室から電話って、あいつ、何やってんだ)

 と、保は思った。

『お前!俺を置いていくってどういう了見だ!

寝ぼけてんのか!!』

 携帯に出たとたん川部の怒鳴り声が聞こえてきた。

「え?置いていくって……

お前、え?仮眠室に居るんじゃ」

 ミラーで仮眠室のハッチを確認した保は絶句する。

 女がハッチから顔を出し保を恨めしそうに睨んでいた。

 額がザックリと割れ、割れた傷から真っ赤な血が流れ出ている。

 血はだらりと下がる女の長い髪をつたい、ぽたり、ぽたりと赤い雫になり後部座席に落ちる。

「何てこった……」

 保の頭にさっきのワンボックスの残骸がフラッシュバックの様に甦る。

 ハッチから顔がもう二つ現れた。

 男の子と女の子の顔。

 携帯を持ったまま保は忌々しそうに呟いた。

「ああ、くそっ。家族連れかよ」





2017/12/09 初稿

2018/08/17 形を整えました


長距離トラックの仮眠室と言うとトラック野郎の後部座席エリアをカーテンで仕切ってある奴をイメージしてましたが最近のは運転席の上にあるんですね。

白いカバーみたいな奴です。

自分、空気抵抗を押さえるものとばかりに思っていました。

(風切りだけのやつもあります)


交通事故には皆さんも気を付けて下さい。





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