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良ければ、御一緒しませんか? @海上タクシー

 海上タクシーなるものをご存知だろうか?

 やや大型のボートで港から少し離れた島などに連れていってくれる輸送サービスの一つだ。電話などで呼べば5分ほどで来てくれる。大抵、一回幾ら、と言う料金体系になっているのでちょっと大きな島でフェリーなどの定期便があるようなところだと料金は割高になる。

 だが、一回の利用者が多くなれば人数割りで定期便の料金より安くなる場合もある。そうなると俄然海上タクシーの価値が出てくる。自由度が高まるし何よりも豪華な気持ち浸れる。お勧めだ。

 これは海上タクシーにまつわる俺の話だ。


「なー、これどう思うよ」

 それは、俺が友人と二人で旅行に行った時の話だ。

 俺たちは二人とも釣りが趣味で、小島に一泊二日の釣りに行くことにした。

 小島にはフェリーで渡る予定だったが、港の待合場でフェリーの到着を待っていた時、山崎(仮名)が壁の広告を見て突然変な事を言い出した。

「なー、これどう思うよ」

 山崎は同じ言葉を繰り返した。

 最初なんの事かと思った。

 山崎が指さしていたのは海上タクシーの広告だった。

《電話で直ぐに到着 料金3600円》と書かれていた。

「3600円は高いだろ。二人で割ったら1800円だ」

 ちなみにフェリーは、後、1時間ほど待たなくてはならないが大人が700円。半値以下だった。

「二人ならな。でも、7人なら一人頭500円ちょいだ」

「あん?何言ってる。俺たちは二人しかいないだろ。後の五人は何処から湧いてでてくる?」

「あそこ」

 俺の質問に山崎は窓の外を指さした。その指の先へと俺は視線を動かす。

 指さす先は待ち合い所の外の埠頭の一画だった。その埠頭の一画に奇妙な一団が佇んでいた。

 白装束に編み笠に杖。

 いわゆるお遍路さんの格好だ。

 そんないでたちの人が五人、埠頭のところで一列になって海の彼方をじっと眺めていた。何やら不気味な感じしなくもない。

「あの人たちがどうかしたのか?

知り合いなのか?」

「全然」

 俺の問いに山崎は首を横に振り、しれっと答える。

「だけど、あの人たち、さっきからじっと海の向こうの島を見てるみたいなんだ。だから、俺たちと同じにフェリーを待ってるんじゃないかと思ってね」

「それで?」

「七人で海上タクシーを呼べば、フェリーより安くなるんじゃないかなぁってね」

「そりゃ、そうかもしれないけど……」

 山崎の言いたいことは分かるが、俺は気が乗らなかった。なにか嫌な予感がする。

「止めといたほうが……」

「俺、行って、交渉してくるわ!」

 山崎は俺の言うことなど耳に入らない様子で勝手に宣言すると怪しげな一行に向かって走って行く。

「済みません~!

良ければ、御一緒しませんかぁ~」

 山崎はしばらく一行のリーダーとおぼしき人と話をしていたが、上機嫌で戻ってきた。

「やったぜ、交渉成立だ。

端数分は俺たちが出すって事にしたが、それでも俺とお前で550円。150円も得したぞ」

 山崎はホクホク顔で言った。

「ああ、そうか」と、俺は返したが、内心、150円のためにあんな怪しげな連中に声をかける山崎の気が知れなかった。

 俺はもう一度、白装束一行へ目をやり、ぎょっとなる。白装束の一行がこっちをじっと見ていたからだ。いや、違う。正確には彼らが見ていたのは山崎だ。嬉々として海上タクシーに電話している山崎を白装束の五人が暗い目で見つめていた。

 その異様な雰囲気に俺はぶるりと体を震わせた。


「お待たせしました」

 5分もしないうちに海上タクシーが到着した。

「お二人でしょうか?」

 海上タクシーの運転手(船長さん?)が舳先に現れ俺たちに聞いてきた。

「いや、いや、七人ですよ。あっちの……

あれ?」 

 ぶんぶんと手を振り否定して、山崎は埠頭の方、白装束一行が立っていた方、を指さそうとして固まった。

「いない……」

 呆然とした山崎の呟きにつられ、俺も埠頭の一画に見た。

 確かにいない。

 ついさっきまで一列に行儀よく並んでいた一行が忽然と消えていた。

「おいおい、マジかよ」

 山崎は焦ったように周囲を探したが見つからない。天に昇ったか、地に潜ったか、はたまた、海に飛び込んだか、影も形もなくなっていた。

「お客さん、乗るの?乗らないの?

乗らなくても料金は発生するよ」

 海上タクシーの人が少しイライラした感じで言ってきた。


 結局、俺たちは二人で海上タクシーに乗っていた。

 一人頭、1800円の出費である。

「全く、余計なことをするからこんなことになる」と海上タクシーの中でぶつぶつ文句を言っていたら山崎がキレた。

「俺のせいじゃない。あいつらが勝手にいなくなるから悪いんだろ!」

 そういい放つと俺から離れた座席、海上タクシーには十何人分の座席がある、に位置を変えると、頬杖をついてむっつりと窓の外に広がる海を眺め始めた。

 逆ギレと思いもした半面、俺も言いすぎたと反省して黙りこむ。

 二人だけのキャビンに険悪な沈黙が流れた。

 そんな時間が五分もたった頃だろうか。

「う、うわぁ!」

 突然、山崎がものすごい声をあげて座席を飛び上がった。

「どうした?」

「か、顔、顔」

 真っ青な顔で山崎は窓を指さす。

 俺は慌てて窓を見たがなにもない。ただ、海が見えるだけだった。

「窓の外からあいつらが覗いている」

 山崎はガタガタ震えながら言った。

「あいつら?あいつらって、誰だよ」

「お、お前、見えないのかよ!

さっきの白装束のやつらが窓の外からこっちを見てるだろ」

 俺はもう一度窓を見るが、やはり海しか見えない。第一、窓の外は直ぐに海だ。窓からこっちを覗くなんてできるはずかない。

「何、言ってるんだ。何も見えないぞ。からかってるのか?」

「か、からかってるわけねーだろ。あっちの窓にもこっちの窓にもへばりついて覗いてるじゃねーか」

 その時、キャビンから船尾へのドアが開いた。誰かが開けたわけではない。なにも見えなかった。だから、風か、それとも船か傾いだために勝手に開いたのだろうと思った。

「うわ、うわ!

く、来るな。こっち来るな!」

 山崎が狂ったように叫び始め、血相を変えて、船首に逃げ出した。が、俺の目の前で動きが止まり、今度は一気に船尾のドアの所まで跳びずさった。

 それは普通の人間にできる動きではなかった。まるで見えない何かにドアのところまで引っぱられたような動きだった。

 呆気にとられて見ているうちに山崎はそのまま船尾までよたよたと出ていく。

 そして、くるくる体を回転させると船縁から海に落ちた。

「わ?!」

 そこで初めて金縛りが解けたように俺は声をあげた。

「ちょ、船長さん!

ふ、船止めて、山崎が、連れが海に落ちた!!」


 あの後、直ぐに船を山崎の落ちたところまで戻して探したが、結局、山崎は見つからなかった。今も死体は上がっていない。行方不明者扱いになっている。

 あの時、一体何が起きていたのか俺には分からない。

 分かりたくもない。

 分かりたくない……

 これが俺が体験した海上タクシーでのできごとだ。





 真夜中。

 俺は目を覚ます。最近、この時間になると汗びっしょりになって目を覚ますのだ。

 ひどく疲れている。

 ふらふらと窓のところまで行くと、こっそりと外を見る。5階建てのマンションからの夜景はそれなりに綺麗だ。

 だが、俺の視線は窓の直下に釘付けになる。

 ああ、やっぱり今夜もいる。と俺は思った。

 窓の直下は小さな公園になっている。

 その公園の片隅にあいつらがいた。

 白装束の人たちが一列になってこっちをじっと見上げている。

 あいつらは一体なんなのだろう。山崎が声をかけた、あの不気味な連中と何かに関係があるのだろうか。

……

 俺はないと思う。

 そう、絶対にあるはずがない。

 だって、山崎が声をかけた連中は五人だった。だが、俺のマンションを見上げているのは六人だ。


 なっ?



 人数が違うだろ。



 だから絶対ちがうんだ。












 誰か違うと言ってくれ。


2018/07/27 初稿

2020/06/26 誤字修正


七人みさき と言うことでしょうか

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