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ミラーを見ると…… @宅配ピザバイク

ピザ好きですか?

自分は好きです。

 学生の頃、ピザ屋のバイトをしていた。

 作るよりバイクでピザを宅配する方が多かった。

 可もなく不可もなく、至って普通のバイトだったが、一度だけ凄い経験をした。

 これからその話をしよう。

 俺達の受け持ちエリアには小高い山みたいな場所があった。戦国時代の山城の跡らしいが詳しくは知らない。その城跡を横断するように細い道が一本通っていた。私道ではなく公道なので車やバイクは普通に通っても良かったが何故か俺達のピザ屋は使用禁止になっていた。

正直、城跡の向こう側にある家に宅配する時は不便な事この上なかった。その道を使えば10分ほどで済むのに使えないとなると城跡の外周をぐるりと回る必要があり2倍から3倍の時間がかかった。

 さて、自分が夜のシフトの時の事だ。

 10時ちょい前、終業時間ギリギリに注文があった。場所は例の城跡の向こう側だ。

 規則通り外縁を回ると往復で1時間はかかる。そこで俺は無断で古墳の道を使うことにした。

 雲行きも怪しかったのでちゃっちゃと済ませたかったからだ。

 店を出て、道を急ぐとやがて城跡が見えてきた。町の灯の光がその城跡のところだけ漆黒の闇に包まれており、その黒い領域か徐々に視界一杯に広がって行くのは、何が得体の知れない化け物が開けた口に飛び込むような感じがしたのを今も思い出す。

 城跡の小道の入り口には灰色がかった鳥居があった。

 何故に鳥居が?と思う間もなく通り抜け、上り坂をバイクで進む。

 実はその時、初めてその小道を使ったのだが、すぐに止めておけばよかったと後悔した。

 両脇は真っ暗な林で灯りといえばバイクのライトだけ。ヘッドライトの明かりの中に浮き上がる小道をひたすら走り続けた。

 対向車も後続車もない。1分が10分にも1時間にも感じられた。

 上り坂が終わり、今度は道が下りになろうとする頃、ふとミラーを見ると真っ黒なミラーにほんの一瞬何が映った。

 なんだろう?と思い、ちらちらミラーを見ていると真っ黒なミラーの下側に白いものが現れては消え、現れては消えしていた。

 後続車か何かだろうか。

 確認しようと後ろを振り返って肝を潰した。

白っぽい服を着た女が髪を振り乱しながらバイクを追いかけて来るではないか。

 俺は反射的にスロットを一杯に回した。

 女は一瞬ミラーから消えたがすぐにまた姿を現した。手を地面につけ、まるで獣のように四つ足で走ってくる。

 時速4、50キロは出ていたがぐんぐん近づいてくる。

 あり得ない。少なくても生きている人間ではない。

 うわ、うわ、うわっと心の中で叫びながら必死でバイクを走らせる。だが、ミラーを見るたびに女は距離を詰めてきた。

 ガツンと車体が揺れた。

 ついでカリカリと金属に爪を立てるような音が背中のすぐ後ろでする。

 生暖かい酸えた腐肉の臭いが首筋を嘗める。

振り向いて確認なんてできなかったが女がバイクに取りついたのが分かった。

 死ぬ、と思った時、目の前の道に白っぽい物が現れてビュンと横を通りすぎた。

 古墳の一本道の両端には鳥居が設置されていたのだが、今、通りすぎたのが出口側の鳥居だと気づくのに少し時間がかかった。

 その鳥居を抜けたとたんに重苦しかった空気が変わり、後ろからバシバシ感じていた気配も消えた。

 恐る恐るミラーを見たが何も映ってはいなかった。

 なんだか分からないがとにかく助かったと胸を撫で下ろして宅配を済ますとそそくさと店に戻った。

 勿論、大回りのコースで。


「バカ野郎!」

 店に戻ったらいきなり店長に怒鳴られた。

 俺が配達したピザでクレームが来たからだ。

 何でも封を開けたらピザにかじられた跡があり、女の黒髪がべったりと絡み付いていたとの事だ。

 それからすぐにバイトを辞めたので、そのピザ屋がどうなったかは知らないし、問題の小道も一度も利用していない。






2018/03/29 初稿

2018/08/17 形を整えました


つまり、女の人はピザが食べたかった

そう言うことです

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