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ねぇ、ねぇ、あのね @自転車

 夜中の零時を少し過ぎた頃。

 一人の男が頼りない足取りで夜道を歩いていた。少し羽目を外し過ぎて終電に乗り損ねたのだ。

 大分暖かくなったのがせめてのもの救いだがまだ一時間程歩かなくてはならない。

 男は人気の無い夜道で歩みを止め、ある一点を凝視する。そこには古びた自転車が置かれていた。置かれた場所は住宅の前でも店舗の前でもない。ただ、だらだらと続く一本道の途中に半ば捨てられたように置かれている。

 男は少し考えた後、自転車に近付いた。

 元は銀色の車体立ったのだろうが、今は赤茶けた染みの様なものが浮き出ている。長い間、風雨に晒された末の錆だろうか?

 前部に子供を乗せるイスがあった。いわゆるママチャリだ。鍵は掛かっていなかった。

 男は何気ない風を装いながら周囲に目を配る。真夜中の事、周囲には誰もいない。と、男は素早く自転車に乗り、こぎだす。

 自転車が誰かにここまで乗られてきて、捨てられたのは明らかだ。ならば、後もう少し自分に乗られて別の場所に捨てられても同じだろう。

 それが、いわゆる男の『合理的な考え』だった。

 自転車の乗り心地は悪くなかった。錆びたチェーンがこぐとシャリシャリと音をたてたが乗るのには何の支障もない。

 鼻唄混じりに自転車をこいでいたが、男は不意に自転車を止め、周囲を見渡す。

 何か子供の笑う声が耳元で聞こえたからだ。

勿論、周囲には誰もいない。

 空耳か、それとも自転車の異音を聞き間違えたか。首を傾げながらも男は再び自転車をこぎ始める。

 やがて、交差点に差し掛かった。

 赤信号だが、男は左右に車が無いことを確認するとそのまま渡り出す。

 道路の真ん中まで来た時、腹回りに違和感を覚え視線を下に向ける。小さな白い手が左右から男の腹を抱えているのが見えた。

「うわ!」

 男は悲鳴を上げ、ブレーキをかける。

 夜の闇に悲鳴のようなブレーキ音が響き渡る。

「えっ?えっ?」

 男は慌てて自分の腹を触るが何もなかった。慌てて後ろも見たが何もない。

「な、なんだ、なんだったんだ、今のは?」

 酒の飲み過ぎか、と反省しながら再び自転車をこぎ出そうと前を向いた男は硬直する。

 自転車の前部に設置されたイスに子供がちょこんと乗っていた。白い半袖のTシャツに青い短パン。幼稚園ぐらいの男の子だ。

「わ、わわわ!」

 男は反射的に自転車から飛び降りる。

ガシャン。

 支えを失った自転車が地面に転がり、男の子も地面に叩きつけられる。

「うふ。うふふふふ。」

 しかし、男の子は地面に叩きつけられても何ともないように笑っていた。

 のそのそと立ち上がり、振り返る。

「ねえ、ねえ、あのね。」

 男の子は可愛らしい声で男に話しかける。

「ママと僕ね。

この自転車でね。

トラックに轢かれて死んじゃたの。

丁度、あんなトラックだよ」

 男の子は右の方を指差す。

 男はつられて右を見る。

 視界が目映い光に溢れ、警笛が男の耳をつんざく。そして……



2018/03/07 初稿

2018/08/17 形を整えました


信号無視は道路交通法違反です。

自転車は軽車両なので飲酒しての運転は飲酒運転になるので、これも道路交通法違反です。

自転車泥棒は窃盗です。

なんか、今回の登場人物は悪いことばかりしてますね。

皆様はそのような事無きようご注意下さい。


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