ぷよぷよしたやつはお好きですか?
俺は咲姫に大層な見栄を張ってでできてからある重大なことに気がついた。
(どうやって俺、アイツを倒すんだよ!)
異世界転生されたからといって足が速くなってないことから自分の基礎能力は変わってないのだと思う。武器もそこら辺で拾えそうな“ひのきのぼう”だって言うのにどうやって戦えっていうんだよ。
(でもまあ、)
後ろには咲姫がいる。最悪こいつだけでも逃がさないといけない。それが俺の足が動く理由だ。咲姫のために死んでも守り抜く。それが俺の責務だから。
だから、
『今更、引けねぇよなぁぁ!!』
アイツは足は速いが、小回りが効かないらしい。
(これならアイツに先に一発叩き込める!)
俺はアイツの懐近くに入り込み、ひのきのぼうを大きく振りかぶって、
「男子高校生の本気ナメんなぁ!」
スライムの腹にひのきのぼうを深くめり込ませ、
“そしてめり込んだひのきのぼうが溶けた”
俺は普通の男子高校生だ。さっきまで冷静だったのはきっと人の本能というやつだろう。たぶん人というやつは自分の死を10m位さきにみると、生きるために必死に頭を回すのだろう。
しかし10cmさきに自分の死をみると、
(スライムって食べたらソーダ味なのかな。水色だし。)
こんなことしか頭に浮かばないんだと頭の片隅で考えていた。
そんなことを考えている間に、スライムはゆっくりと、しかし確実に近づいてくる。目の前のスライムがやけにゆっくりなのは走馬灯的な何かなのだろうか。それとも強者の余裕というやつなのだろうか。俺の頭がよく働いていることを見て前者なのだろう。
そんなことはどうでもいい。目の前のスライムは俺を頭から飲み込もうとしているんだから。
(スライムも喉をつまらせたりするのだろうか。)
そんな適当な推測に身を任せて俺は体を広げて全身をスライムに近づけた。そしてスライムの体と俺の体が触れようとしたその瞬間、
“スライムが物凄いスピードで後ろに下がった。”
距離にして約5mといったところだろうか。しかしそんなことよりも、俺が気になったのは、
(何で俺から離れた。いや、あの尋常じゃないスピード、もしかして逃げたのか。だとしてもなぜだ。俺を溶かす一歩手前だったのに。)
スライムは俺から離れたあとも俺の方を向いてまごまごしていた。
(この間に逃げるか。いやでもまた追いかけてくるかもしれない。俺は大丈夫でも、咲姫が狙われるかもしれない。)
俺はふとスライムの方を見た。スライムはもう俺の方を向いておらず、もう一人のターゲットに目を向けていた。
(しまった。何で俺はまずこれに気づかなかった。)
俺が自分の無能さに気づいたとき、スライムは今にもターゲットに向かって飛び出そうとしていた。
『咲姫っ、逃げろ!』
俺の叫び声と同時に、スライムは咲姫に向かって飛び出していった。
「いっ、いやっ。来ないで!助けてゆう君。」
スライムは勢いを止めず、咲姫の方へと向かっている。俺もアイツを止めるべく走り出した。
が、間に合わない。
スライム咲姫を溶かそうとしたその瞬間、
“スライムが椅子の前で動きを止めた。”
俺は目の前の状況に目を疑った。またもスライムが触れる直前でそれをやめたのだから。
(もしかしてアイツには弱点があるんじゃないか。そしてそれはたぶん··)
「なっ、なに、どうなってるのこれ。ねえゆう君どうなってるのこれ。」
「後で全部説明してやる。だから俺が声かけるまで目つぶっててくれ。」
俺の為でもあって、咲姫の為でもあるからな。
「分かった。だけど絶対後で説明してね。」
咲姫が目を閉じたのを確認して、俺は行動に移った。
「おいスライム、お前との戦いもこれで終わりだ。」
俺は自分が実は中二臭いということを自覚して苦笑した。それでもまあ、咲姫を守れるのならそれでもいいと思った。
········
「咲姫、もう目開けて良いぞ。」
咲姫が目を開けたとき、スライムはもうどこにもいなかった。