二人の始まりの時
ここは名乗る程でもないどこにでもある普通の高校。そして俺はどこにでもいる普通の高校生である。強いて特徴をあげるとすれば、となりの席の幼なじみが可愛いくらいだ。
...これは俺の特徴じゃねえな。
(まあ、こうやって考えてみると、俺は他のやつよりも得しているのかもしれない)
そんな他愛もないことを考えながらとなりを見ると、可愛い幼なじみが授業中であるにも関わらず寝言を立てるくらいぐっすりと眠っていた。
「うさぎさんがあんぱんにたべられちゃうよぉ。」
こいつは一体どんなゆめ見てるんだ。でもまあたいして興味も無いので、とっとと起こしてやろう。
「おいっ、おいっ、起きろ咲姫。授業中だぞ。」
「んん、うるさいなー、ゆう君は。そんなんじゃ女の子にモテないよ。」
なんだこいつは。起こしてくれたやつへの態度じゃないだろそれ。
「黙れこのバカ、授業中に寝てるバカ起こして何が悪いんだよこのバカ。」
「バカって言うな!バカって。そんなにバカバカ言ってるとバカになっちゃうよゆう君。だいたい私の方が頭良いし。」
「その理論だと俺のバカの回数は今のを入れても4回、お前は5回、俺の方が頭いいことになるぞ、数学8点の咲姫さん。」
「うっ、うっさい!私は文系なのっ!いわゆる文学少女、だから問題ないっ!」
こんな支離滅裂な日本語を話すやつが現国98点だなんて、高校のテストはどうかしてると、俺は頭が痛くなる。
「問題おおアリだ。進級できないぞお前。もう一年高1やるつもりなのか。」
「もぉ、うるさぁーーーーーーーーい。何とかするし。問題ないし。」
『そこの二人!授業中ですよ。静かにしてください。』
咲姫がこっちを睨んでくる。怒られたのはお前のせいだろと言おうとも思ったが、余計に機嫌を悪くしそうだと思ったから俺は静かに授業を受けることにした。
となりを見るとまた咲姫が寝ていた。
(こいつ寝てるときは可愛いのに)
「ゆう君..っと...食べなよ。」
(こんなこと絶対言えないな)
キーンコーンカーンコーン
そんなことを考えていると、チャイムが鳴り始めた。
そしてチャイムが鳴り終わったとき、“世界の時が止まった”。
”時が止まった”という表現は違うのかもしれない。
今も時間は流れているし、隣には咲姫もいる。ただしさっきと違うのはさっきまであった机はなくなり、上履きは走りやすい靴に変わっており、地面は教室の床から草原へとかわり、手に持っていたシャーペンは木の棒、いやもっと正確言うならばいわゆる"ひのきのぼう"というやつになっていた。
「なんというかこれはいわゆる“異世界転生”というやつだろうか。」
と俺は心のなかで思った。
椅子だけは何故か残っていたため俺は転ばずにすんだのだが、俺の隣で机に伏して寝ていた咲姫は頭から見事に転げ落ちていた。
「いったーい。なにこれ、なんなのゆう君。それにここどこなの?」
「ここがどこだかはさっぱり分からん。だが俺たちが今しないといけないことはわかる。」
わかると言うか、分かりたくは無かったのだがな。
「えっ、ゆう君何するの?あとゆう君何で目合わせないの?」
「とりあえず心を落ち着かせろ。これから何をみても絶対慌てないくらいにな。そうしたらゆっくり前をみろ。あとは察してくれ。」
誰かいま俺と変わってくれる人がいたら是非とも変わってもらいたい。そうしたら今の俺の気持ちがわかるはずだ。こんな経験人生でそうそう無いだろうと思う。
異世界転生されて一番初めに見たのが、自分の1.5倍はあろうかと思われる目が3つあるスライム状の何かだった。そして現在進行形でバッチリ目があっている。目が合うの現在進行形だから目が合ingかな。ハハ、ヤバい頭がおかしくなってきた。
まあそんなわけで咲姫も状況を理解してくれたようで目が完全に合ingである。
「1.2.3の合図で一気に後ろに逃げるぞ。分かったな。」
「う、うん。分かった。」
「それじゃあ行くぞ。1.2.3!!」
俺たちは全力で走り出した。俺たちは二人とも50m7.4秒と、足が遅い訳じゃないので走れば逃げ切れると思っていた。
ただ、それは大きな間違いだった。
この異世界にきて早くも俺は一つ学んだ。それは、
「ゆう君!アイツメッチャ速いよ!追い付かれるよ!」
スライムは意外と足が早いということだ。
「クソッ、もうアイツ倒さないと俺らやられるぞこれ。」
「ゆう君、こういうのは男の子の仕事だと思うんだよ。だから私は椅子の後ろに隠れてるからあとは任せた!」
「何でお前は椅子を持ってきてるんだよ!でもまあちょうどいい、そのまま隠れてろよ。俺は何故かよく分からんが“ひのきのぼう”を持ってるからこれでアイツを倒してくる。」
こうして異世界転生された男子高校生とスライムの熱き戦いが始まった。