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第三話「紅一点?」

 「……お前、ひとくちにバンドやろうぜって言ってもな、色々めんどくせーんだぞ?」

 「分かってるって」

 「楽器も手に入れなくちゃいけねーし、練習場所も確保しなきゃいけねーし、何より人だ人!お前、アテあんのかよ」

 「大丈夫だーって。すぐ見つかるよ!何てったって今は『戦後何度目かのバンドブーム』らしいからな!」

 

 嵐から一夜明けた朝。

 バスケ部の朝練に向かうため早めに家を出た広樹を、曲がり角の所で待ってましたとばかりに卓がひっ捕まえた。

 寝ちまったら案外、コロッと忘れちまうかも。今までにもそんな事が何回かあったしさ……そんな、祈りにも似たはかない願いは、結局叶わなかったのだ。


 「お前さあ、流行りだから〜っていう理由でそういうのに乗っかってるのって、自分が無いとか思わない訳?」

 「何でも試してみることはいい事だ、それで良い事と悪い事の分別を学べるんだから……って、うちの親父が言ってたぞ?それに母親も、音楽やりたいって言ったら、応援するって言ってくれた」

 「卓んちの母さん、元歌手だっけ」

 「ああ。まあ今で言うインディーズみたいな立場だったみたいだけど……だから、息子の俺が音楽の道を志すようになったのは、ある意味なんかの巡り合わせなのかもしんないじゃん?」

 

 巡り合わせ?昨日は猫踏んじゃったも弾けねえとか言ってたお前がか?広樹は卓に気付かれぬよう鼻で笑う。

 学校へと近づくにつれ、通学路には朝練に参加するために早めに登校する生徒達が一人、また一人と増えていく。その背に、黒いナイロン素材のギターケースをしょっている人間の多い事。

 去年、入学したての頃は楽器持ちで登校している生徒なんて、せいぜい吹奏楽部の部員くらいのものだった。それが今は……

 

 (どいつもこいつも、簡単に流行りモノに飛びついて……)


 流行だからという理由で自分の嗜好とは外れた物を食べる、芸能人の出ている番組をチェックする、アクセサリーを身に付ける。広樹にはあまり理解の出来ない感覚だ。

 逆に卓はその辺りの事に関しては非常に柔軟で、流行りであろうとなかろうと、興味のあるものは比較的ホイホイと受け入れてしまう。そして、関心が失せた頃にはすっぱりと足を洗う。


 そうだ。どうせ皆、こいつだって、そのうち自分が音楽やってたことなんて忘れちまうさ。


 「で?お前他のメンバーはすぐ見つかるとか言ったけど、マジで当てあんのかよ」

 「おう。俺、こいつとなら……っていうのが、一人居るんだ!」


 斜に構えた広樹の態度に一切気を留めることなく、卓は自信たっぷりの笑顔を見せた。




    ※    ※    ※




 昼休み、三階と四階を繋ぐ階段の踊り場で、二人の男子が突如取っ組み合いをはじめる。

 皆、どうせよくあるプロレスごっこの延長だろうと特に気にも留めず通り過ぎていくが、本人達はいたって大真面目に争っていた……卓、そして広樹のふたりは。

 

 「なーんーだーよー!!お前、まだ女と話すのが苦手とか言ってんの?」

 「うっせ!ほっとけ!というか、女をメンバーに引き入れたいだなんて俺は聞いてねえ!!」


 襟首を掴む手を乱暴に叩き落とし、広樹は卓との距離を取る。

 同じクラスに居る「アテ」を紹介したいからと二組に案内されかけていた所、卓の口からぽろっと出てきた「女子」という言葉に、広樹の態度が急変し、そして今のバトルに至った。


 「男だとも言わなかったけど。つかさあ、そんなんだと一生彼女とか出来ないぞ?」

 「彼女居ない暦十四年のお前には言われたくねえな!」

 「ほら、俺はそういうのはフィーリングにまかせる主義だから。マジで歳の近い女が駄目なの?するってーと……どうせいあいしゃ?じゅくじょまにあ?ようじせいあいしゃ?にじげんあいこう……」

 「どれも違う!」

 広樹が一際大きな声を張り上げたその時。


 「……卓君?」   


 横から、どつきあい荒げられる男子のそれとは明らかに違う、鈴を転がしたような声が二人の耳に飛び込んでくる。

 森本綾乃。つい一日前、卓にカップケーキをあげていたという女子だ。


 「!!」

 「おー綾乃!!丁度よかった!今な、実は俺とこいつとで話し合ってたんだけど……」

 「俺は知らねえ!誘うって言うならお前が一人で勝手にしろ!!」 


 卓と綾乃の間を強引にすり抜けるようにして、広樹はその場から立ち去りさっさと階段を登って行ってしまった。その場に残された綾乃は何が起こったのか全くわからないといった困惑の表情で、同じく立ち尽くす卓のほうを見る。


 「あ、あの……卓君……私、何か悪いこと、した?」

 「はは……えーっと、そういうわけじゃないんだけど、な。」

 卓もまた、珍しくほんの少しだけ表情を曇らせて綾乃に目線を返したのだった。


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