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第一話「厄介な従兄弟」

 平凡だけどまあまあそれなりの俺の人生……に今後なにかしらの汚点が残るとしたら、それはきっとこいつの存在が原因だ。


 「よー広樹ひろきー!電子辞書持ってねえか?俺、家に忘れちゃってさあ……むぐむぐ……」

 校内に持ち込み禁止のはずの菓子をもしゃもしゃ口に運びながら、西藤卓さいとうすぐるは二年五組の教室の中に向かって声を掛けた。


 「何、焼き菓子なんか食ってんだよ」

 「さっき家庭科の授業で自分の班で作った分と、他の班からもらった分。お前も食う?」

 「……いらね。もう飯食ったし」


 つれない相手の反応をあまり気に掛けることなく、卓は手の中の一かけらを口の中に放り込む。


 「食べないと大きくなれないぞ?バスケ部員だろ、お前」

 「……テメエにだけは言われたくねえな」


 瀬川広樹せがわひろきは、自分の目線より低い位置にある卓の満面のほほえみ目掛けて、思い切り毒を吐いた。 


 広樹の母親と卓の父親は姉弟で、つまり二人の関係はいとこ同士にあたる。

 うっかり同じ年度に生を受けてしまった、それも割りと近所に住んでいる間柄のため、本物の兄弟のように互いの勝手を知っていることは知っている……それが良いことか悪いことなのかは置いておいて。


 「美味いけどなぁ。これなんか特に甘さがほどよくて食後のデザートにぴったし……あ、ほら!あの子!あの子から貰ったんだ!」

 「……あの子?」

 卓が片方の手でカップケーキを持ち上げ、もう片方の手で階段のほうを指差す。

 女子生徒の指定服になっている、濃紺のセーラージャケットにグレーチェックの幅広プリーツスカートを纏った集団がお喋りをしながら階段を昇ってくる。

 「綾乃あやの――!」という卓の呼びかけに、その中の一人が振り向いて、一瞬驚いた表情を見せた後、すぐに微笑みを返して手を振ってきた。


 「クラスの女子?」

 「そう。一年の頃か同じクラスなんだ。とってもいい奴だよ!」

 「ほー?お前のやる事に笑顔で付き合うんだったら、そりゃとってもいい奴だろーな……ん?」 

 

 そこで広樹は、卓が食べ物の他にもう一つ、小脇に何かを抱えている事に気付いた。国語や数学の教科書より若干小さいくらいの、光沢のあるプラケース。印字された文字は……


 「成金天使なりきんてんし?」

 「ああ、これ?クラスの奴から貸してもらったんだ!このライブ映像は絶対カッコイイから、お前も見ろって」


 基本的には芸能関係にはあまり詳しくない広樹でも、そのディスクケースに書かれた名前くらいは知っている。

 四人編成のロックバンドで、男女のツインヴォーカルが大きな特徴であり売りの一つ。持ち歌がドラマの挿入歌として使われて以降一気に知名度が上がり、現在若手実力派の注目ナンバーワン……級友達が言うには、そういうポジションのグループだそうだ。 

 そして、その「成金天使」が一大ブームを巻き起こした事で、今現在、十代の若者達の間では……


 「んで、お前もバンド組め!ギター弾け!って誘われた」

 「お前もそうなのかよ……」


 空前の「バンドやろうぜ」ブームが巻き起こっていたりする。


 「やらねーのか、卓は」

 「んー、俺、音楽のことはよーわからんしなあ。猫ふんじゃったも弾けねえし。こーやって美味いもん食ってる方が性に合ってるっつーか」


 モノを食うということは性に合っているとかいないとかの問題なのか?広樹の頭にそんな疑問が浮かんだが黙っておいた。


 「でも、一応見てみるだけ見てみるつもりだけどな!カッコイイっていうんならカッコイイんだろうし」


 この瞬間、広樹は今夜自宅近辺に局地的な嵐の予感を感じ取った。

 俺の勘が正しければ、こいつは間違いなくライブ映像を見た後……俺の家に飛び込もうとしてくる。そして「俺は音楽に目覚めた!俺もバンドをやる!」とか言いながら、こちらを巻き込もうとするだろう……確実に。

 戸締りを、きちんとしておかなければ。

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