アリア―詠唱―
次元を切り離された冒険者の酒場の庭で、俺は今精霊とアーサーによる魔法のレクチャーを受けていた。
「“魔法とは、己が意思を世界に伝え刻み付けることにほかなりません。”」
「じゃあ、詠唱は何なんだ?」
「“詠唱は式。魔法を実体化させるための制御関数。”」
「わかった、じゃあ詠唱を教えてくれ。」
「“まず、それが間違いです。詠唱とは、制御関数そのもの、自ら導き出すものなのです。”」
「どうやって?」
「“心の奥に、世界を描けばいい。……サポートする?”」
アーサーのサポートはきっと今さっき魔力の感覚を伝えた精神感応魔法だろう。しかし、精霊が言うことが正しければ魔法とは際限なく自由なはずだ。それこそ、夢に見たように。
「少し、自分でやってみる。」
そう言って、自分の内側に意識を向ける。心臓のその内側、魔力を引き抜いた場所のさらに奥深く。そこに、世界を描き出す。
イメージするのは魔法。もと居た世界でゲームや、アニメ、または小説にも登場した超常の現象。
不思議と、脳裏にいくつもの文字が浮かび上がる。なぜかわかる、それらが何を意味するのか。
「“顕現せよ、偽りの星。”“数多煌く、光郷の終焉。”“集い、募りて降り注ぐ。”“黙示録が紡ぐ七重奏。”“災禍となれ、導きよ! ”“フォルス・アストロミー!”」
詠唱が終わると同時に空から星が降ってくる。まるで巨大な隕石だ。
「“空覆う、転輪よ!”“アイアス!”」
アーサーがごく短い呪文で唱えたそれは、空中に巨大な盾を展開した。
その直後、その盾に隕石が一つ命中し亀裂を入れる。
「“承認せよ、火の炉の神。”“打ち出せ、守りに盾と諍いに刃。”“再鍛し、伝説と成せ!”“いでよ、第一精霊リヴ!”」
現れたのは、隻眼の人間にほど近い姿をした精霊だった。
精霊が、現れた瞬間から盾に入った亀裂が少しづつ治っていく。しかし、アーサーは青い顔をしていた。
「“君の召喚、少し借りるよ。”」
まだ、俺が放ってしまった魔法を止めるには力が足りないようだ。
「“支配せよ、強奪せよ。”“我求むは”“紅蓮の業火”“承認せよ、我に打ち倒す力を与え給え!”」
召喚した精霊とのつながりが希薄になるのを感じた。
「“焚べよ、太古の炎。”“始まりの火。”“イグノリア!”」
空に浮かんだ盾が眩しく光輝き、降り注ぐ隕石を完全に受け止め始める。
隕石が止んだのは、それから少し経ってからのことだった。
「“すごい……魔力……空っぽ……。”」
「ごめん。大丈夫か?」
「“いいもの見れた……。”」
「“見たこともない魔法でした。初めての感覚でした、あんなに大きな意志が体の中を駆けるなど!”」
思ってはいけないことだろう。だが、思わざるを得ない。精霊と、アーサーがエロイ。
「言い過ぎじゃないか?」
「“君は平気そう……私は死にそう……。”」
「“アーサー様がこんなに疲弊する姿など初めて見るのですよ。”」
「じゃあ、俺ってそれなりにすごいんだ?」
「“それなりじゃない……ッ!”」
アーサーはかなり魔力を消耗していて苦しそうだった。そうだ、もしかしたら……。
そう思って、アーサーの手を握る。
「“何するの……?”」
「魔力譲渡だ、出来たら褒めてくれ。」
「“それは無理……。”」
やってみなきゃわからないじゃないか、そう心の中で愚痴をこぼしながら自分の中に相手の内側を想像する。一瞬、相手の内側じゃなくて洋服の内側を想像しそうになったことは墓まで持っていくつもりだ。
「“嘘……。”」
「“魔力譲渡、確かに感じます。”」
「できたぞ?」
「“常識知らず……。”」
アーサーにボソッと罵声を浴びせられた気がする。
早急にリメイクしたいと思っています。