プルル―最強のスライム―
プルルの周りにはデタラメな時間が流れていた。あるものは時間の経過速度を速めあるものは時間の経過速を遅くしている。明らかに不自然な挙動は全てプルルの意識の中で制御されていることを一発の弾丸が証明する。
それは、低速な弾丸だった。その弾丸だけがゆっくりとした時間の流れの中で高速に動いている。後ろから、追い上げるいくつもの弾丸がそれに追突し、力を託し、その場に落ちていく。力を託された弾丸は加速し、エネルギーを高めて行く。
そして、その時間の制御を離れた瞬間に一気に加速し音速の壁と突破し空気との摩擦の熱で赤く光り輝く。
寸分たがわず、ウロコとウロコの隙間に弾丸は吸い込まれ龍の体から考えれば小さな穴。しかし、確かなダメージを与えて肉をずたずたに引き裂いて逆側のウロコにヒビを入れる。
どんなに小さかろうと、巨大なダメージを与え龍であろうと一瞬の隙を作る。
「“小僧、今だッ!!”」
「うおおおおおお!!」
プルルの合図に合わせるように全体重を乗せて空を蹴って、剣を刺す。だが、まだ浅い。ウロコに阻まれて致命傷に至らない。それどころか、深く刺さってしまった剣は押しても引いてもびくともしない。
「“使え、吸血鬼!”」
グジャランドの怒号に振り返るとひと振りの巨剣が飛んでくる。その剣を、突き刺した剣を足場に跳躍し空中で掴み取る。
「“GYAOOOOOOOOO!!”」
痛みに思わず叫びを上げる龍。
「“少しは慎みを覚えたらどうだ?”」
叫ぶために開けた口、その正面にプルルがいる。加速させることはできなかったがプルルの弾丸は俺の背後で間違いなく龍の口内に突き刺さっている。血しぶきが後ろから追いつき、俺の服に赤の斑点を描き出す。
―うまそうだ!―
ドクン、っと心臓が跳ねるような強烈な感情が脳裏に焼き付く。
笑っている。俺の顔は間違いなく笑みを浮かべている。
「ははははは! 何だ、なんだこれは気分がいい!!」
思わず笑いだした、体が軽い。巨大な剣を持っているはずなのに、それを握っている両手すらもまるで羽のようだ。
「“見失うな!”」
プルルの叫びが聞こえる、俺が何を見失うというのか。ただ、気分がいいだけだ。
着地した、次の瞬間に俺は反転して龍の首を切りつける。背後で、地面が割れた音が聞こえる。
「“プルル、何だあれは? 俺の剣を受け取った途端に……。”」
「“お前のせいじゃないさ。ガベージ堕ちだ。だが、なぜッ!”」
一人で龍を圧倒している。龍の血を浴び、口のそばに付着したものを舌で舐めとる。非常に美味だった。
「うまい、うまいじゃないか! あははは!」
笑いながら何度も、何度も切りつける。グジャランドが寄越したこの剣は間違いなく業物だ。切れ味がとてもいい。
「“あいつッ!”」
気が付くと、鼻先三寸まで龍の爪が迫っている。剣は、間に合わない。なら、食らいつく。それでも、潰されるだろう。死ぬ、今度こそ絶対に。そう思った。
次の瞬間、訪れる衝撃。
「“もう一度言うぞ、飲まれるな小僧!”」
プルルは、俺を引きずり出したのだ。
「“強くなりたければ、衝動を支配しろ!” ”目を開いて、自分の目で見ろ!」
俺は、間違ってしまったのだ。あんな、衝動に負けて踊らされて。あまつさえ、殺されそうになった。
「すみません、でした……。」
「“いや、助かったさ。少し、休憩ができた。”“あとは、俺がやるッ!”」
プルルは駆け出した。走って、龍の眼前に躍り出る。
「“GYUO……。”」
咄嗟に龍はファイアブレスでプルルを焼き尽くそうとする。
「“ジャックポットだ!”」
プルルはにやりと笑って銃弾を打ち込む。龍が貯めたファイアブレスに向かって。
「“GYAOOOOOOOOOOO!!”」
龍が、喉の奥でファイアブレス爆ぜた苦痛で叫びを上げる。
「“随分とタフじゃないか。”」
そう言いながら、流れるような動きで腹側のウロコの薄い部分に何発も弾丸を打ち込んでいく。
龍は、焦れてプルルを直接的に殺すことを諦めたのだろう、今度はこっちに向かって俺やプルルの精霊のいるほうに向かってファイアブレスを吐こうとする。
「“そいつを、待ってったんだ。”」
そうつぶやいて、いつの間に用意したのか仕掛けられていた黒い鉄球のようなものに時間制御をめいいっぱい遅くした弾丸をゼロ距離でぶつける。
「“今度こそ、ジャックポットだ。”」
鉄球は、喉の奥に押し込まれて、炸裂した。爆弾だったのだ。龍の喉が張り裂け、地の雨が降る。
どうにも、うまそうだと思ってしまう。この衝動は、捨ててしまうべきかも知れない。
「“アミ、ありがとうな。”」
そう言ってプルルは銃口にうまだ漂う煙を吹き飛ばした。
「“おぉ、特異点を倒したぞ!!”」
冒険者たちは興奮していた、だが、プルルは辛そうに気だるそうに去っていく。
「あの、すみませんでした。」
「“初めてだったんだろ?”」
プルルは怒りもしなければ、態度も変えないなんとも思っていないのだ。
「“おい吸血鬼! ほれ、龍の血だ。”」
グジャランドがボトルに注いだ竜の血を俺に渡してくる。俺は、プルルに助けを求めることしかできなかった。
「“飲めばいいさ、溺れず、自分の意志で飲め。”」
プルルはそう言い残して行ってしまった。信じられるだろうか、彼はスライムである。
「“さすがは、冒険者の酒場最強のコレクターだ。深いこと言うねぇ!”」
グジャランドがはしゃいでいる。だが、しばらくは血を飲む気にはなれないな。血は飲んでも飲まれるな。これを標語にしよう。
プルルがかっこよかったから(自画自賛)プルル無双書きたくなったんや……。