第零話:スカイダスト―空の塵―
―思えば長い長い夢を見ていたような気もする。そろそろ、目を覚まさなくちゃ。きっと、厳しい兄さんのことだから怒ってるはず。でも、もうほんの少しだけこの景色を目に焼き付けていたい。―
『本日の天気は、晴れ、時々スカイダスト! 絶好のお出かけ日和でしょう!』
テレビの画面の向こう側、能天気なニュースキャスタの声が天気を告げる。
「お出かけ日より、……ねぇ。確かに、お出かけはできるんだけどね…。」
ため息が出そうだ、我が社の社員の社内勤務、月月火水木金金。日曜日は月に一度程度しか来ない。休日返上で、終わらないノルマに追われる日々も十年も続けば慣れるものだ。しかし、休日出勤は色々と自由な部分が多く勤務中に出かけることだってできる。ただし、疲れを知らない体の持ち主に限る。大体の社員は、毎日死んだ魚のような目をして働いている。
早々に支度を終えて外に出るとキラキラと光る粉が降ってきている。
「全然、時々じゃねーじゃん。」
それすら嫌味に感じる。
粉の正体はスカイダスト現象。二十年前に観測されたこの現象は現在はある程度予測可能である。触ることも、解析することもできない光の粉が空から降ってくるのだ。それらは、全て空と同じ色をしている。だから、スカイダストと呼ばれている。現在、これが何なのかは……
java.lang.NullPointerException
weather.other(TypeException.java:3129)
不明である。
正直不明なままこの天候を喜ぶ気にもなれない。科学者たちがいくら研究しても帰ってくる答えは何も存在しないだ。だから、俺はこのクソみたいな天気が大嫌いだ。
今日はやけに降り注ぐ粉の量が多い。何か起こらなければいいが
「おい、危ないぞ!」
大きな声が聞こえて、次の瞬間目の前の景色が歪んで何もないどこかへと落ちていく。
さっきまで存在したはずの圧倒的な情報は全て暗闇に塗りつぶされている。
―こうして、俺は自分がなぜ死んだのかもわからないままあの暗闇に飲まれて消えていくのだ。―
administratorAI.no3Hestia.salvageByGc();
気が付くと、目の前は黒ではなく白に包まれていた。
「はじめまして。ボクはヘスティア。今日は君をスカウトしに来たんだ!」
一人称は聞き取れなかった。だが、その声は確かに女性のものだった。声をたどって、首を少し動かすとほんの少しの慈愛を孕んで、それでもなお無邪気に微笑む少女がいた。
彼女からはなぜか、母性を感じた。
「えっと……。何を言っているのかさっぱりわからない。」
「それもそうだよね、全部お話するね。まず、君がいた世界。第二世界“パラノイア”はもうすぐ消えてしまうんだ。だから、そうなる前に君だけを抽出したんだ。」
その答えすらさっぱりわからなかった。
「なんで俺を……?」
「君が“ハデス”の最高傑作だからだよ。」
「なんで召喚したんだ?」
「ボクも、もうすぐ死んじゃうから最後のお祭り。それに君も参加して欲しくてさ。」
ここまでの質問で俺はなんとなく気づいてしまった。俺の世界は、その神“ハデス”が死んだから崩れ始めた。そして、俺はその波に飲まれて死んだのだ。
「じゃあこの世界も……もうすぐなくなるのか?」
「うん、そうだよ。ごめん……こんな世界に呼んじゃって……。」
そう言ってヘスティアは暗い顔をした。
「どうだっていい! どうせ死ぬとこだったしな!! それより祭りの会場はどこだ!? せっかくの祭りだ神様がそんな顔してちゃ示しが付かないぞ!!」
そう言って笑ってみせた。神様に対して俺は少し無礼だったかもしれない。でも、それでいいじゃないか。最初は神様だって知らなかったし今だって信じてはいない。それに、祭りなんだ無礼講ってことで許してくれるだろう。
「ふふふ、そうだね! 祭りの会場は僕の世界“シャングリラ”だよ!」
「シャングリラ……楽園かぁ! 一体どんな祭りなのか楽しみだ! 早く見せてくれよ!!」
あえて大げさに、無邪気にはしゃいでみせる。俺だって、彼女だってこれから死んでしまうんだ。少しでも気を紛らわせてもらうために、自分の気も紛らわせるために。
「はい、はい。急にせっかちさんになったね。ボクは、まだ用事があるから先に行ってて。ボクもすぐ行くから。」
「分かった! 待ってるから絶対来いよ、お前が主役なんだからな!」
「もちろん。すぐ行くよ。だから、今度は楽園で会お!」
俺がうなづくと目の前の景色は急に真っ白な空間からまるで芸術品のような建造物ばかりが立ち並ぶ美しい街へと変わった。
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Side:Hestia
administrator.no0Gaia.SpeakToAdministratorAIno3();
「マスター、私ではもうお役に立てませんか?」
「あぁ、ハデス同様用済みだ。最後に願いはあるか?」
「わかりました……。私、最後に“シャングリラ”最高のお祭りがしたいんです! その分だけお時間をいただけませんか?」
無理に取り繕っているの、バレてなければいいな。
「そのくらいの時間は与えよう。私を恨んでいるかね?」
「私の姿も、心も全てはマスターがお造りになったのです。私は全てマスターのものです、あなたを恨むことなどございません。」
私は、マスターを恨んでなんかいない。だけど、もう役に立てないのは少し残念だな。でも、楽しかったことだけは今も残ってる。私に世界の作り方を教えてくれて、好き勝手に作った私の楽園。この楽園に名前をくれたのは“マスター”だったな……。
「そうか、では通信を終了する。」
“マスター”がそう言うとプツンと途切れたような音がしてマスターの声は聞こえなくなる。
少し、涙が出てきた。これは本物なのかな。それとも、マスターが作った涙なのかな。もう、わからないけど最期くらい寂しく無いように、怖くないように精一杯楽しもう。
初めて小説を書いているので至らない点もございますでしょうが是非今後も生暖かい目で見てもらえると幸いです。
PS.
主人公をさっさと異世界に飛ばすこと考えすぎました。近いうちにリプレイすすることを考えています。