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お喋りバードは自由に生きたい  作者: Mikura
勇者の相棒

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79.かすかな声

活動報告にてアロイス視点のSSを載せました。



 私を紹介されたピーアはムラマサと同じような反応をした。アロイスはすまし顔で全く気にしていない様子だが、私は気が気でない。アロイスが何だか擦れた大人になっているように見える。

 城に着いた後はちょっとしたお茶会をすることになった。ドミニクとソフィーア夫妻も婚儀には招待されていて既に到着しているというので、久々に集まって少し話そうという同窓会のようなものだ。私の居場所はないだろうな、と部屋で待っていることを提案したのだけど是非一緒に、と連れて行かれた。ムラマサが黒頭巾の従者に小さく客室についてなんらかの指示をしているのが聞こえたので、おそらく時間稼ぎだったのだろう。


 特クラスメンバーのお茶会は、身の置き場がなかった。同窓会にクラスのリーダー格が連れてきた恋人、みたいな扱いを受けたと思ったらアロイスが例の紹介をした瞬間に、元カノの代わりにされている可哀想な今カノというような目で見られるようになった。そしてアロイスを見る皆の目がとても心配そうなもので、私もとても心配になった。……当の本人は飄々としていたけれど。

 そんなお茶会を終えたあと、ムラマサが客室として用意してくれた部屋に案内される。そこは襖で区切られた二部屋で、いつでもお互いの部屋を行き来できる状態だった。アロイスに対して何らかの配慮がされている気がする。主に心の傷に触れないようにする的な意味で。



「えーと、アロイス。色々と訊きたいことがあるんだけど……」


「なんだ?」



 それぞれの荷物を置き、とりあえずアロイス側の部屋に来た。そして特クラスのメンバーにあってから、どうしても気になることをアロイスに尋ねてみる。



「学園で何したの?」



 軽く首をひねったアロイスは、暫く唇をなぞりながら考えていたけれど「特別なことはしていない」と答えた。……クラスメンバー四人の反応を見る限り、絶対何かあったと思うんだけど。



「じゃあ学園でどんなことして過ごしてた?何か変わった出来事はあった?」


「毎日魔物を狩り、必要な授業は受け、研究室に顔をだす生活をしていた。……変わった事と言えば少々テオバルトと口論になったくらいで、大した事件は起こっていない」


「そっか。…………ん?テオバルトと口論?」



 テオバルトに何を言われようと作り笑顔で言葉を飲み込んでいたアロイスが、テオバルトと口論になったとは一体どういう状況なのか。頭を抱えるがさっぱり状況が想像できない。私の頭には荷が重い。とりあえず、アロイスの学園生活は荒んでいたと解釈した。



「次期領主と次期勇者なら、私の立場はあれより下ではない。今までとは状況が違う」



 それでもアロイスがテオバルトに言い返す姿は想像が出来なくて、何も言えなかった。アロイス自身は自分の変化に気づいていないんだろうか。……アロイスのことだから、気づいてはいるだろうな。でも、それでいいと思っているのかもしれない。よくないと、思うんだけど。

 必死に今のアロイスをどうするべきか考えようとしていた私の頭は、アロイスの言葉によって別の事柄でいっぱいになった。



「そんなことよりもセイリア。君もムラマサとピーアの婚儀に出席するのだから、礼装が必要だぞ」


「え」


「私は勇者としての恰好で参加するが、君はその恰好しかないだろう?ムラマサが貸し出すと言っていたから、こちらの礼装だろうが……」



 結婚式に出るのに、ちゃんとした服装が必要なのは分かる。しかし私はアロイスの付き添いで来ただけの部外者のつもりだったし、他人である私まで参加することになるとは思ってもみなかった。礼装の類など鳥であった私が持っているはずもない。大体、幻覚を作っているだけで私の下半身は鳥である。セディリーレイの町でだぼだぼのホットパンツのような物を買って、上下共に服を身に着けるようにはなったけれど、礼装のようなきっちりとした服が着れるとは思えない。腕は翼だし、太股のあたりはとてももふもふしていて膨らんでいるのだ。

 それに、ラゴウの礼装と言うならやっぱり着物だと思う。あの複雑な帯をこの翼の手で着付けることができるかといえば、答えはNOである。着せてもらうとなったとして、幻は触感まで誤魔化すことはできない。触れられれば私の体のあちらこちらが可笑しいことは分かるだろう。万事休すである。



「あ、アロイス。どうしよう。私、着物なんて着れないよ!ツイデに手がないヨ!」


「落ち着け。片言になりかけているぞ」



 アロイスは至って冷静で、驚いたり慌てたりしているのは私だけの様だ。むしろ私の動揺具合を少し楽しそうに見ている気がする。……その目が凄く懐かしそうで、親愛に満ちているのがよく分かるので、楽しむな、と怒ることはできなかった。私はアロイスが大好きだけど、アロイスも私が大好きだよね。



「君は部分的にスライムになり、形を変えられるんだろう?手足をスライムにして、人間の形をとるだけでも大分誤魔化せると思う」


「なるほど」


「ラゴウでは“タビ”という靴下を履くそうだから、それは自分でつければいい。あとは長い手袋をすれば触れられる部分はほとんどないだろう」



 アロイスの提案にこくこくと頷いた。そしてはっと気づく。足袋は借りるものだろうからともかく。長い手袋なんてもの、持っていない。再び慌て始めた私の前にスッとアロイスが黒い手袋を差し出した。



「予想はできたからな。買っておいた」


「流石アロイス!ありがとう!」



 私が自分が使えるホットパンツを探している間に、アロイスは長手袋を買っていてくれたようだ。早速翼をスライムに変形し、手の形を作って手袋をはめてみた。ちょっとぶよぶよしててやりにくい。



「セイリア、スライムの体は硬化が出来るはずだ。意識してやってみるといい」



 アロイスに言われて硬くなるように念じれば、今度はマネキンかと思うくらい硬くなった。自由に動かせる分、マネキンよりはつけやすいけど。

 ……結局、触られたらばれるんじゃないだろうか?と思って見つめていると、アロイスから声を掛けられた。



「硬い分には義手、義足だと言えば通じるだろう。柔らかすぎるのは不自然だが」


「あ、そっか」



 見た目は魔法で人間の姿と変わらないようにしているし、全裸をさらすわけではない。どうにか誤魔化せそうだとほっと胸をなでおろす。……あれ、普段の生活も翼を【変身】で手にしていれば便利なんじゃないだろうか。そう思ってアロイスに提案したら、そんな無茶苦茶な事をするのは君だけだと呆れられてしまった。



「君のその状態は、いわばスキルの重ね掛けだ。その上に魔法まで使っている。魔力の消費が激しいはずなんだが……」


「……言われてみれば、魔力を使ってる気がする」



 少しずつ魔力が使われている感覚は、意識すれば確かに感じた。でも、回復もしているので全然減っていない。プラスマイナスゼロの状態である。それを言えばアロイスはそうかとつぶやいて、それから小さく笑った。



「本当に規格外だな、君は。生き返るし、魔力の高さで人外の身であることを隠せるし、それなのに常識はなく直情型で、直ぐ失敗をする。君が居ると、私の日常はとても鮮やかだ」



 からかわれているような気もするが、アロイスがあまりにも嬉しそうな顔なのでそうではないんだろう。今日は怒りたいような、でも怒ることが出来ないような、そんなことばかり言われている気がする。



「ん?」



 何も言い返せずに黙っていた私の耳に――――いや、正確には頭に、突然声が湧いたような気がした。それはとてもか細くて、一瞬通り過ぎたような声で。何を言ったかも聞き取れず、首を傾げる。



「どうした、セイリア」


「……何か声が聞こえた気がしたんだけどね。気のせいかな」



 近くに気配は感じないし気のせいだったのではないか、と思う私とは違い、アロイスは表情を引き締めてそっと耳を澄ましている。私もアロイスを真似してもう一度集中してみるが、やはり何も聞こえない。



「……セイリア、何かおかしいと感じることがあれば、直ぐに言ってくれ」


「うん、分かったよ」



 真剣な目を向けられて、頷いた。それからアロイスも私も少し警戒していたけれど、何か聞こえそうになるだけで事件が起こることはなかった。

 その声のようなものの正体は結局何か分からないまま、朝を迎える。ムラマサとピーアの結婚式当日となった。




お茶会部分は長くなりそうだったのでカット。

アロイスに話をそらされてすっかり考えることを忘れるセイリア。三歩歩けば忘れるなんとか頭。


活動報告のSSはセイリアが死んだ日のアロイス視点。暗めだと思います。興味のある方はよろしかったらどうぞ。※本編中に差込みました。

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やっぱり仲間に会うエピソードはいいね まだ2人残ってるし楽しみだ
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