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お喋りバードは自由に生きたい  作者: Mikura
勇者の相棒

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78.初、ラゴウ領



 アロイスとの二人旅が始まった。鳥人の姿に変身して、その上に人間に見えるように幻を見せる魔法をかけ、傍から見ると勇者とその仲間の人間二人な冒険者パーティーだ。誰も勇者と一緒に居るのが鳥だとは思うまい。

 勇者であるアロイスは、国からの支援をかなり受けている。その一つが、領地同士をつなぐ転移魔法陣を自由に使えることだった。おかげでいつでもどこでも誰でも助けに行けるわけだが、今回は友人の結婚式に出席するために使う。勇者の特権だよね。元の世界で言うなら大統領機みたいなものかな。

 領主への挨拶もなにも必要なく、転移魔法陣のある場所に行けばすんなり通してもらえるし、使わせてもらえる。物凄く便利だと思う。


 そんな転移魔法陣を利用して着いた場所は、木造建築物の中だった。転移魔法専用の建物なのだろう。広い床に大きな魔法陣が描かれているだけで、他には何もない。アロイスは迷いなくその陣を出て、明かりが漏れる扉に向かっていく。私もその後をついて行った。



「ようこそ、我がラゴウへ。久しいのう、アロイス殿」



 扉を開ければ、そこにはにこりと笑う美男子が居た。少女らしさは既になく、ただひたすらに綺麗な男の人になったムラマサがそこに居る。落ち着いた色合いの着物に身を包む彼の後ろに広がる光景が、非常に不思議で面白いものだった。

 ここは丘程の高台に立てられたものらしく、眼下に町と思われる風景が見える。高い建物はなく、おそらく全てが木造で、あちらこちらに桃色の花を咲かせる懐かしい木があった。でん、と構える城のようなものも見える。それらは現代日本からは程遠く、時代劇にある景色が近いのかもしれない。ちょっと変なものもあるけどね。風船のような丸いものがあちこちに浮いているし、遠くに山の半分程もある巨大な鳥居があるし。どこか懐かしい気はするけど、やっぱり異世界だね。



「ああ、招待に与り光栄だ」


「我が友を呼ばぬはずがない。しかし、忙しい勇者に来てもらえるとは。ピーアも喜ぶであろうよ」



 アロイスがムラマサに対して敬語じゃないし、ムラマサがピーアを呼び捨てで呼んでいる。……なんだろう。私が知らない間に、本当に色々あったようで、置いていかれたように感じた。

 私が居ない間、アロイスを支えていたのは特クラスのメンバーであったはずで。二人のやりとりを見ていると、たしかに私の知らない時間がそこにあるのだと理解できる。



「しかし、アロイス。付き物が落ちたような顔になっておるのう。そちらの女性のおかげであろうか?」



 綺麗な顔で微笑みかけられてピン、と背筋が伸びた。彼がムラマサであるのは分かるのに、初めて会う人間と対峙しているような、そんな気分だった。……ムラマサが私を愛玩魔物ではなく人間として見ているから、かな。どうも落ち着かない。



「……そうだな。紹介しておこう。彼女はセイリア。私の大事な親友だ」



 アロイスの言葉に思わず彼を見てしまう。その紹介の仕方は不味いだろう。アロイスならそれが分かっているはずなのに、何故そのような言い方をしたのか分からなかった。私の冒険者としての名前は「セイ」だと伝えたし、「セイリア」が現在この国でどのような意味を持つかも知っているだろうに。絶対変な目で見られるよ!

 しかし、ムラマサの反応は私の予想とは違い、悲しそうに一度目を伏せて、アロイスに同情するような視線を向ける。



「……アロイス、貴殿はまだ……」



 その言葉から察したのは、ムラマサがアロイスの心の傷をよく知っているということ。そして、私を従魔セイリアの“代わり”にしているのだ、と思っているらしいことだった。

 アロイスは否定も肯定もすることなく、ムラマサを見つめ返す。ムラマサは何か言いたそうだったが、笑みを浮かべて「案内しよう」と先を歩き出した。

 それについて行きながら、アロイスの不可解な行動について【伝心】を使って問う。一体、どういうつもりなのかと。



〔私はもう、飲み込みたくもないものを堪えて飲み込むのは止めた〕



 アロイスは私を絶対に「セイ」と呼びたくはないと言う。アロイスにとっての私は「セイリア」であって、他の何者でもない。この国で特殊な意味が広がったことも腹立たしい。何故国王のしたことで友人に偽名を名乗らせて、それを呼ばなければならないのか。という内容を伝えられた。伝わってくる言葉から、アロイスの風化していない国やオクタヴィアンへの怒りが伝わって来て、何も言えなかった。



〔君をセイリアと呼んだところで、私が多少憐みの目で見られるだけだ。周りが勝手に勘違いしてくれる。君に害は及ばない〕


〔……アロイスがいいなら、いいんだけどね〕



 私はアロイスについて、一つ思い違いをしていたようだ。アロイスは何も変わっていないと思っていたけれど、そうじゃなかった。精神的に不安定な思春期に起こった事件は、その後の人格形成に深く関わるだろう。アロイスは優しくて、思慮深くて、いい子だった。けど今のアロイスは少々、過激な思考を持っているように見える。



(……堪え性が、なくなった気がする)



 怒りっぽくて、短気になっている可能性が出てきた。これ、もしかして。テオバルトに会ったら、まずいんじゃないだろうか。私が知っているアロイスはじっとテオバルトの横暴に耐える少年だったけど、今のもう我慢する気はない、みたいなことを言うアロイスだと……想像したくないな。



(いや、でも……早々会うことはないよね。アロイスは勇者で忙しいし)



 そのように考えることが何かのフラグであるような気がしないでもないが、多分大丈夫だろう。領主にならなきゃいけないテオバルトはきっと、忙しいだろうし。うん、大丈夫。

 思考を切り替えて、ラゴウ領の観光を楽しんだ。高台から下りて見た町は珍しいものがいっぱいで、見ていてとても楽しかった。行きかう人は皆和服だし、売り物も和の装飾品やら何やらでよそでは見かけないものだらけだし、甘味処では外の長椅子に腰かけた人たちが団子やら饅頭といった和菓子を食べていて、それはアロイスも非常に興味深そうに見ていた。……そう言えばアロイス、甘いもの好きだもんね。



「物珍しかろう?他の領では見ぬものばかりだからのう」



 ムラマサがどこか誇らしげにそう言って、近くの甘味処に寄った。近寄っただけで座っていた人間がざっとその場を退いて地面に正座、平伏しだすのが少々怖い風景だったけれど、ムラマサはもう慣れたのかそちらを見ないようにしていた。アロイスも驚いていたけれど鉄の仮面をかぶってやりすごし、私は多分間抜けに驚いた顔をした。直ぐに取り繕って、引きつりそうな笑みを浮かべたけども。

 三人並んで長椅子に腰を下ろす。勿論アロイスが真ん中である。



「……あんみつを三人前、頼む」


「はっ」



 ムラマサが自分の従者にそう告げて、従者が店主に注文をする。平民はムラマサと口を利いてはいけないようなルールでもあるんだろうか。……ありそうだな。ムラマサは巫子という特別な立場が苦しいと以前漏らしていたし。



「お、おまたせいたしました……ッ!!」



 全然待ってない。一分も待ってない。しかし店主は慌てた様子であんみつを従者の元まで運んできた。他のお客さんに出す分だったんじゃないだろうか。そうだったとしたら少々申し訳ない。

 従者からそっと差し出された器を受け取り、軽く感謝を述べて食べ始める。私は実際に手がある訳じゃないので、翼の先で木の匙を握り込むようにして持ち、ゆっくり口に運んだ。



「うわ、おいしい」



 口に入れた瞬間に優しい甘みが広がった。かけられた蜜自体は甘さが控えめだが、寒天にもしっかりと甘みを感じるので充分に甘い。しかし、強すぎる甘みではない。調和の取れた味といえばいいのか、しつこくない甘みは飽きることなくいくらでも食べられそうだ。思わず漏れた私の感想に、ムラマサは嬉しそうに笑った。



「うむ。ここのあんみつが我は気に入っておるのだ。美味かろう」



 ムラマサの褒め言葉に店主が打ち震えているのが視界の端に映った。鳥の目は視野が広いからね。斜め後ろで涙を流して歓喜に震える店主の姿が目に入ってしまう。もちろん、見なかったことにした。



「……ああ、これは美味いな」



 アロイスもうっすらと笑みを浮かべながらあんみつを味わっている。その顔はちょっとだけ輝いているようにも見えて、素直に喜んでいるのだとよくわかる。

 それを見たムラマサは少し驚いた顔をして、嬉しそうになって、そして直ぐに悲しそうになった。アロイスがどんな学園生活を送って、ムラマサにどんなイメージを与えたのか非常に気になるところだ。

 美味しくあんみつを頂いて、食後に温かいお茶を飲んで一息吐いたらまた歩き始める。どうやらムラマサは城らしい建物に向かっているようだ。



「あれはラゴウの城でのう。貴殿らの部屋はあちらに用意しているので、着いたらゆるりと休むとよい」



 真っ白で綺麗なその城は、例えるなら姫路城が近いかもしれない。城門にたどり着けば、その白さと大きさに圧倒される。……此処の白い壁も、例の特殊な染料だろう。本当に真っ白で汚れ一つない。あまりにも綺麗な城で思わず溜息が漏れた。元日本人としてはやはり心躍るものがある。



「おかえりムラマサ!久しぶりだね、アロイス殿!」



 城門をくぐると、明るい声が飛んできた。黄やオレンジの暖かい色が使われた振袖を着た、褐色肌の美女がニコニコと笑いながら近づいてきた。赤い髪はかんざしでまとめられていて、すっきりした首元がちょっと色っぽい。アロイスを見る森林を思わせる目には深い親しみをにじませ、私を見て少し驚き、そして嬉しそうな顔になる。



「アロイス殿にようやく仲間ができたんだね、よかった」



 ピーアは心底ほっとしたようにそういって、ムラマサがなんともいえない顔でアロイスを見た。

 ……アロイス、ほんとに私が居ない間どうしてたんだろう。物凄く心配になってきたよ、私。



おっと、章のつけ方まちがってました。修正修正。

色々あってアロイスの性格がちょっとばかり歪んでますが普段はそんなに変わりません。…たぶん。

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