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お喋りバードは自由に生きたい  作者: Mikura
野生の冒険者

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77.すがたかたち




 巨大な熊の爪を見て、脅威が去った事を確認した村人達は大いに喜び、その日はささやかながら宴が開かれることとなった。

 殆ど休まず強行突破してやってきたアロイスもさすがに疲れていたので、宴は始まりだけ参加して後は食事を分けてもらい、貸し与えられた部屋に引っ込む。……私も一緒に。

 何故こうなったのか。それは一晩休むために部屋を借りたい、という話が出たときのことだ。



「一室でいい。少し広めの部屋を貸してもらえれば、私達は二人で休む。セイリアもそれで構わないだろう?」


「うん、いいよ」


「さようでございますか。では一室用意させていただきます。どうぞごゆるりとお休みください」



 とても自然な流れで、あまりにもスムーズに決まったものだから全く疑問に思わなかったのだけれど、よく考えてみれば今の私は魔物ではなく亜人である。人間と亜人とは言え、若い男女を普通に一部屋で過ごさせていいものなのだろうか。この世界の貞操観念がよく分からないよ。

 人間と亜人は男女だったとしても何も起こらないと思われているのだろうか。でも、いつかの衛兵の青年は普通に私を恋愛対象で見ていたし、周りはそれを悪いように思っている節はなかったのに。謎過ぎる。



(まあ私とアロイスの間で何か、なんてあるはずはないんだけどね)



 同じ部屋で過ごしてきた時間の方がずっと長いわけだし。いつもと違うのはアロイスが大人になっていて、私が今亜人の姿をしているというだけである。姿が変わったからといって急に関係が変わるわけじゃない。

 借りている部屋で防具や剣などの装備を外してラフな格好になったアロイスは、二つあるベッドの入り口側を選んで腰を下ろすと、小さく笑みを浮かべながら言った。



「さて、セイリア。人の目がない今、他にも色々と気になることを話したい」



 気のせいでなければ、アロイスの金の目は好奇心に満ちているように見える。その目にちょっとだけペトロネラのことを思い出した。アロイスが好奇心で輝くような目になるのは、あのマッドな研究者教師の影響がある気がする。



「今の姿はスキルによるものだと言ったな?それはどんなスキルで、元の姿はやはりカナリーバードなのか?変えられる姿は他にもあるのか?」



 矢の様に質問が飛んできた。興味津々である。知的探究心に溢れているところは大人になっても変わらないようだ。しかし、そのように次々と質問されると私の頭で処理するのは難しい。もう既に何を訊かれたのかよくわからない。とりあえず、【変身】について言っておけば足りないところはまた質問してくれるだろう、とスキルの説明を始めた。

 変われる姿は四つ、部分的な変換も可能、試していない姿は「不死鳥」で、スライムは完全変形はしてないけど翼だけ試したことがある。そのように伝えれば、アロイスは親指で唇をなぞる。考える時の癖も相変わらずだ。



「面白い。その不死鳥という姿にも興味はあるが、君の事だからな。何か起きそうで是非その姿になってくれ、とは言えない」


「……うん。私もそう思ってやってないんだけどね」



 アロイスのどことなく残念そうな顔を見ながら、本当に知識欲が旺盛だなとぼんやり考える。アロイス、全然変わってない。それにとても安心する自分が居た。



「……しかし、君のその姿には慣れないな」


「うーん、人間になれるならなるんだけどね」



 人だか魔物だか分からない、中途半端な姿の亜人である。人間の姿になれるなら、私はそれを選択していたと思う。しかしスキルには残念ながら、人になれるものはない。これが一番人間に近く、人間と過ごすのに都合のいい姿だ。



「魔法を使えば、人間の姿を周りに見せることはできる」


「え?どういうこと?」


「幻だ。光の魔法を使えばできると思う」



 光の魔法を使えば相手に幻を見せることができる、らしい。それで人の姿を見せるだけなら、可能なのだそうだ。しかし中身は変わらないので、動きには十分気を付けなければならない、と。

 私は早速試してみることにした。



「光の神様、私が人間に見えるようにしてください!」



 言葉にしている途中から魔力が使われたので確実に魔法は成功しているはずだが、自分の顔を自分で見ることは出来ない。目をそらしながら「やはり非常識だ」と小さくつぶやくアロイスに、人間に見えるか尋ねてみる。



「……あぁ、人間に見える。が、君は自分の服装を改めて考えた方がいい」


「え?服?…………あ」



 そう言えば私、鳥人だったから服、上しか着てないんだった。神様はそこまで考慮してくれなかったらしく、視線を下に向けると白い足が見える。つまり、何も穿いていない。アロイスから深海よりも深そうな溜息が聞こえてきたので、慌てて【消失】と唱えて魔法を消した。



「……えーと、ごめんね?」


「全くだ」



 元々が鳥であるせいか湧き上がってくるのは羞恥心ではなく、やらかしてしまった後の後悔とか反省とか、そういうものだった。アロイスは私に視線を戻しながら、軽く首を傾げる。



「君は、人間になりたいのか?」


「え?それはそうだよ」



 私が人間だったら、便利な手があって、アロイスと一緒に行動するのに何の制限もかからない。貴族の世界に亜人が居ないことを考えるに、平民達に受け入れられていても貴族からすれば差別するべき対象なんじゃないかと思うし。私の考えを伝えれば、アロイスはそれを肯定した。



「確かに、貴族は亜人を人だとは認めていないな」



 むしろ魔物より差別している者も居るくらいだと言われて、やっぱり人間になりたいと思ってしまう。また無理矢理引き離されるのはごめんだよ、私。



「アロイスは、私が人間の方がいいって思わない?」


「私個人の感情で言うなら、全く思わない」



 即答だった。その答えは私が思っていたものと違って、ちょっと驚く。目を瞬かせていると、アロイスは私を真っ直ぐ見つめながら言葉を続けた。



「君の容姿がどう変わろうと、君の中身が変わるわけじゃない。どんな姿であっても、セイリアは私の親友だ。むしろ、見慣れている分カナリーバードの姿で居てくれた方が落ち着きそうだな」


「……そっか。うん、そうだね」



 アロイスが大人になって容姿に変化が訪れていても、私が彼をアロイスであると感じるように、私が姿を大きく変えていても、アロイスにとっては変わらない私なのだろう。

 人間の前に出る時は、幻覚を使って人間の姿になるとして。二人で居るときは前のように過ごすのはどうだろうか。そう考えた私は【変身】を使って、カナリーバードの姿になった。その場に着ていた服やら【仲間の指輪】やらが落ちて転がる。息を呑んだような音が聞こえた気がした。



「これならいつもどお……り……」



 鳥の姿であるので表情を作る事はできないのだが、明るい顔をしたような気分でパッと顔を上げてアロイスを見れば、彼は私を見て固まっていた。顔がくしゃりと悲しげに歪みそうになって、それを隠すように片手で覆ってしまう。表情は隠されてしまって見えないし、全く動かなくなってしまったけれど、泣いているようにしか思えなかった。

 一瞬どうするべきか迷ったが、以前そうしていたように彼の膝に乗るべく飛んだ。とん、と着地すれば、彼の指がピクリと反応する。



「……アロイス、約束破ってごめんね」


「…………ああ。私も、迎えにいけなくてすまなかった」



 その声は今にも震えそうで、力ないものだった。そっと顔から退けられた手がそのまま、私の体に触れる。うっすらと濡れている金色に、私が映っている。



「君が生きていて、本当に、よかった」



 アロイスの指が、私の頭や顔や首を優しく撫でていく。そうして優しく撫でられることは随分と久しぶりで、とても心地がいいものだった。目を閉じてアロイスの指の感触を堪能する。やっぱり、とても気持ちいい。



「……アロイス、一緒に冒険しようね」


「ああ、そうだな。ここを出たらまた別の領に向かう予定があるから、楽しみにしているといい」



 アロイスにそういわれて、ふと思った。そういえば、ここはどこだろう。転移で移動したから、自分がどこに居るかさっぱり分かっていない。



「ねぇ、私達は今どこに居るの?」


「……今居るのはセディリーレイ領。次に向かうのはラゴウ領だ」


「なるほど」



 セディリーレイといえば、あの軟派なドミニクの領地だ。次に行くのは日本っぽいと予測しているラゴウ。ちょっとわくわくするね。



「そういえば、皆はどうしてるの?アロイス、一人で行動してるみたいだけど……あ、従魔はどうなったの?あの馬は従魔じゃないよね?」


「王の従魔なら、卒業と同時に返還した。馬は借り物だ。君が言う皆というのは、クラスメンバーでいいのか?」


「うん、そう。あの四人」



 沢山質問されると分からなくなる私とは違って、アロイスは冷静に答えてくれた。頭の出来が違うよね……鳥頭と一緒にするのはさすがに失礼か。うん、失礼だな。



「ドミニクとソフィーアは婚姻を結んだ。ピーアとムラマサももう直だ。式に呼ばれているから、ラゴウに向かう」


「へー…………え?婚姻?結婚?エ?ケッコン!?」



 ちょっと今頭がパーンってなりそうな程情報が入ってきて私の鳥頭はパンクしそうだ。いや、したかもしれない。パーンって。うん、あほな事を考えるくらいには混乱している。




「領主一族同士で家の格も釣り合っているし、学園で六年も絆を結んできたのだから、成人となって直ぐ婚姻するのは珍しい事ではない。だから落ち着くんだ」


「えっと、うん。…………そっか、皆、結婚か」



 個人的にはドミニクがソフィーアを落としたことが非常に、非常に不思議なのだけれども。私が居ない数年間で皆に様々な変化があったようだ。驚きすぎて頭の整理がつかない。



「……興奮するとカタコトになるのも相変わらずだな」



 アロイスが可笑しそうに笑って、私の背中をぽん、と叩く。その顔からはもう、涙の気配は完全に消え去っていた。



セイリアが居るとシリアスだったりまじめだったりする話は長く続かないのが不思議なところ。さすが鳥頭。


ここまで……ここまでが野生の冒険者、かな。

明日こそ新章やります。新章詐欺してしまったなんてことだ。

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― 新着の感想 ―
「へー…………え?婚姻?結婚?エ?ケッコン!?」 同時に叫んでました!!w
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