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お喋りバードは自由に生きたい  作者: Mikura
野生の冒険者

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66.二人の冒険者



 男物で大きいノースリーブシャツの脇から下に大きな切れ込みを入れて、両翼が出せるようになった簡易な服を着る。今の体は翼の先の方が握ったり開いたりできるので着替えること自体は簡単にできた。

 作ってもらった服は少し汚れているけれど、彼らの持ち物の中ではもっとも綺麗だったものだ。少し申し訳ないが、ありがたくいただく事にする。

 彼らの話によれば、ハーピーとセイレーンは元々同じ魔物らしい。野生の魔物として存在しているのがセイレーンで、人里に住み人語を話し、服を着て普通に生活しているのがハーピーだ。ハーピーは魔物ではなく亜人という扱いになり、人間とあまり変わらない扱いを受けているとか。他にもエルフやドワーフといった、人間ではないが魔物というには知性ある者を亜人として扱うらしい。

 何それ初めて知った。少なくとも貴族の世界で亜人なんて見た事がないし、聞いたこともなかったのだけど。



「……服、ありがとね。助かったよ」


「いえいえ、滅相もない」



 自分の服を犠牲にしてくれたのは、弓を背負っていたデニスという冒険者である。もう一人の剣を持った冒険者、ホンザに関しては予備の服まで全てよれよれのしわくちゃで酷い有様だったため、そちらを使うのはデニスによって却下されたのだ。服の持ち歩き方には性格がでるものだね。



「しかし姉さん、ずっと人里を離れてたってなら色々知らないですよね。ここ最近って結構色々あったんですよ。教えましょうか?」



 デニスがニコニコと愛想よく笑っている。ホンザは居心地悪そうにへたくそな笑みを浮かべていて、それぞれの性格がよく出ていると思う。

 二人は色々と怪しい私の「山篭りしてて世間に疎い」というとってつけたような設定を受け入れてくれた。信じてはいないかもしれないが、そういう設定で話してくれている。

 彼らが私を怖がって丁寧に扱ってくれているのが分かるので、私もこれ以上怖がらせないようにできるだけ優しい対応を心がけようと思う。



「全然知らないから、教えてくれると助かるよ」


「分かりました。えーと、じゃぁやっぱり一番大きい出来事は……この領地から勇者が出たってことですかね」



 アロイスのことだ、と直ぐに思いつく。そしてここがマグナットレリアだということも分かった。しかし何も知らないフリをして「そうなんだ」と相槌を打つ。王城に篭っていたから外でアロイスがどんな風に思われているのか知らないし、興味があった。貴族の中ではいい評価を得ているはずなのだけど、やっぱり勇者というなら民衆に支持されるもの、というイメージがあるしね。



「アロイス様っていう方で、凄い活躍してるんですよ。この前なんてオークキングを討伐したとかで」


「はぁ?」


「え、あ、すいません……!!」



 何か気を悪くさせてしまったのかと慌てるデニスが目に入るが、彼に配慮してやれるほど私の頭に余裕がない。今、アロイスが勇者として既に活躍しているという話をされた気がする。何でそうなっているんだろう。アロイスはまだ貴族学園に通っているはずで、まだ二年生になったかならないかくらいだったはずだ。オクタヴィアンは人が良いし、そんな幼い子供に勇者をやらせるはずがない。



(……どうなってるの……?勇者になるのは、学園を卒業してからって話だったはずで……あれ?)



 とても嫌な予測がついてしまった。何故私が王城ではなく湖の底に居たのか、何故アロイスが勇者となっているのか。そして突然私に起こった様々な変化。考えれば考えるほど、一つの結論にたどり着いてしまう。



(もしかして、私……一回死んだ……?)



 カナリーバードのセイリアが死んで、不死鳥という種族として蘇った。死体はおそらく捨てられて湖の底に沈んだんだろう。復活に数年の時間がかかって、アロイスはもう学園を卒業して勇者となり活動している。そんな、予測ができてしまった。

 思考を終えてふと気づいたときには、二人が土下座をしてすいませんと何度も謝っているところだったので慌てて止めた。種族が変わったのに頭の許容量は然程増えていないらしい。考え事をしていると周りのことが全く入ってこない。



「ごめん、吃驚する話だっただけ。怒ってないし謝らなくていいから、続き話してくれる?」


「へ、あ……ああ、そうですか……それならそうと早く言って下さい、心臓に悪いんで……」


「うん、ごめんね。えーと、勇者っていつ出てきたの?」


「大体二年前ッスかね。お貴族様のルールで、成人してから勇者になるって決まってたみたいで」



 ……最悪だ。学園は確か十八歳で卒業で、それから勇者になったとすれば既にアロイスは少年ではなく、二十歳を前にした青年ということになる。約束の一年はとうに過ぎ去って、六年は経過しているなんて。

 私が死んだと聞かされたアロイスはどう思っただろう。また一緒に過ごせるからと我慢して飲み込んだ契約だったのに、前提が崩れ去ってしまった。それは想像もできない苦しみだったのではないだろうか。親友が理不尽なことで死んでしまったら、私だって怒り狂うし泣き叫ぶ。アロイスは、どうしているだろう。



(早くアロイスに会いに行かなきゃ……)



 約束を破ってしまった罪悪感が胸に重くのしかかった。笑っていてほしかった相手を酷く悲しませてしまったはずで、それを謝りたかった。

 勇者という肩書きがあるのだから、有名人だろうし見つけるのは難しくないと思う。私は鳥だし、どこにだって飛んでいけるだろう。まずはアロイスがどこに居るのか、人間から情報を得るべきだ。



「勇者ってどうやったら会えるかな」


「姉さんもアロイス様に興味があるんすか?確かに絵姿はものすげぇ綺麗な人ですけど、氷のようにつめたいらしいッスよ」


(……あのアロイスが氷のようにつめたい?誰それ、別人?)



 私の知っているアロイスはとても優しくて傷つきやすい子供である。記憶の中の少年は金の目を柔らかく細めて笑う子で、仮面を被って他人と接するところはあったが決して冷たい人間ではなかった。それが民衆に冷たいと思われる勇者になるなんて、想像がつかない。……それも、私のせいなのだろうか。

 気が重くなって、暗い表情をしてしまったのかもしれない。私の顔を見ていたデニスがホンザの脇に肘を突き刺し、くぐもった声が聞こえた。



「ホンザ、お前はホントに黙ってろ。余計な事喋るな」


「いや、でもこの姉さんは結構いい人そうっていうか……」


「姉さんがいい人でも限度はあるだろ。お前は何するか分からない」



 考えなしのホンザとそれを止めるデニスのやり取りは、どこか親近感を持ってしまってちょっと笑えた。小さく笑った声はどういう構造になっているのか鳥の囀りとして漏れて、二人は驚いた顔でこちらを見る。



「……姉さん、綺麗な鳥の声ッスね。ハーピーなのに」


「どういうこと?」


「ハーピーは普通、鳥の声が綺麗に出せないんスよ」



 美しい声で魅了するセイレーンの能力が、人間に混ざって暮らすようになったハーピー達からは失われているらしい。人間に囲まれて暮らしているせいで、野性の声を忘れたと考えられているが正確なことは分からない、と。

 しかしそれに関しては私に関係のないことだ。私、そもそもハーピーでもセイレーンでもなく、元はカナリーバードで現在不死鳥だからね。どっちの種族名にも(?)がついていたけど。



「青くて綺麗な声の(ハーピー)か……姉さんはセイリアですね」



 何故名前を知っているのか、と驚いたがデニスの屈託ない笑顔からするに、それは褒め言葉であるらしかった。しかし、私は顔が引きつりそうなのを必死に笑って誤魔化している。その言葉には自分が関わっているようにしか思えないからだ。作り笑いのままで意味を尋ねてみれば、聞きたくない答えが返ってきた。



「アロイス様が昔連れてたとかいう、物凄く綺麗な声と見た目の青いカナリーバードの名前なんですけどね。国王様もそれはもう大事にしていたとかで、モンスターなのに葬式やったり、墓を作ったり。国宝とか言われて、今流行りの言葉っていうか、綺麗な人によく使います」



 なんともいえない気持ちになった。自分の名前がいつの間にか流行の褒め言葉になっている。綺麗な人を褒める時に「セイリアのよう」とか「君はセイリアだ」とか言うらしい。ちょっと勘弁して頂きたい。

 他にも葬式とか墓とか国宝とか、色々と気になる言葉も混じっていた。私の鳥頭は既にパンクしそうだ。考えることが多すぎる。



(……とにかく、カナリーバードの姿で居るのはめちゃくちゃまずいんだろうな、っていうことは分かった)



 知らないうちにとんでもない有名人、ではなく有名鳥になっていたようだ。今の私が鳥の姿で飛び回ったら追い掛け回されることが明白である。暫くはこの鳥人状態で過ごすしかなさそうだ。亜人は人間と変わらない扱いを受けるというのだからこの姿でも町には入れるだろうし、情報収集は出来るはずだ。



(アロイスのところまで飛んでいけたら直ぐだったのになぁ)



 これから先をどうするべきか考えて溜息を吐きそうになっていた私に、デニスがいいことを思いついたとでもいう顔でポンと一つ手を叩いて提案をした。



「あ、そうだ姉さん。アロイス様に会いたいなら冒険者をやるといいですよ。あの方はいつも臨時でパーティー組むから何かある時は仲間を募集してて……姉さんは強いだろうし、やってみたらどうですか?」



 その提案のおかげで、とりあえず私がやることはなんとなくだが決まった。勇者のパーティーを募集しているところに突っ込む。うん、これしかない。



「冒険者について、教えてくれる?」


「任せてください!」


「俺達は結構この道長いんで、何でも聞いてくださいッス!」



 デニスが笑顔で胸を張り、それを見たホンザも軽く胸を叩いてそう言った。しかし残念なことに、あまり頼りがいがあるようには見えなかった。怯えて土下座をする姿を見てしまったからかもしれない。

 私はこの日から貴族の従魔ではなく、冒険者をやることになったのである。




次回から街へGOな予定。


ご感想はいつもありがたく読ませて頂いてます。


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