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お喋りバードは自由に生きたい  作者: Mikura
野生の冒険者

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65.変化



 私はセイリア。青いカナリーバードで、アロイスの従魔として王城に貸し出されていた。あまりの眠さに耐えきれず眠り、目が覚めたと思ったらなぜか水中で呼吸が出来ず、慌てて水底を蹴り飛ばし水上に上がってきたのだが。うん、状況が分からない。自分が誰なのかは分かる。しかしここはどこだろう。


 水面に映る自分の姿を見ながら、考える。もしかして、私は死んだのだろうか。あんなに怠かった体がとても軽くなっている気がするし、ここは天国か何かで苦痛のない世界とか。自分が死んだならステータスにも何か変化があるかな、と鑑定をし直して、そして思考を放棄したくなった。

 …………うん、私死んでない。ステータスは相変わらずおかしいし、あちこちに変化があったのだが、最もツッコミたい場所は種族名である。



(不死鳥(フェニックス)(?)ってなに……)



 種族名がカナリーバード(?)から不死鳥(?)に進化していた。私はクエスチョンマークから逃れられない運命なのだろうか。【鑑定】にはしっかり仕事をして種族名くらい判断してほしいものである。

 称号はアロイスの従魔から、愛された国宝へ変わっている。これはちょっと状況が呑み込めないので考えるのを諦めた。情報が足りなすぎる。

 それからスキルにも少し変化があった。【不死鳥】スキルが【不死】というものと入れ替わっている。その名の通りのスキルであり、心と体の両方が死なない限り何度でも復活するというものだ。規格外ぶりに磨きがかかったようである。

 他にも新たなスキルとして【変身(ボディチェンジ)】というものがついたのだが、そのラインナップに首を傾げることになった。「カナリーバード・鳥人・スライム・不死鳥」の四変化ができるらしいのだけど、どこからどう突っ込めばいいのか分からない。一番のツッコミどころは、鳥と全く関係ないスライムが入っているところだろうか。不死鳥モードになったら何だか大変なことになりそうであるし、カナリーバードは今のこの姿だろうと予測がつく。しかし、一番注目したいのは「鳥人」の項目だ。



(でも、鳥人ってもしかして……人間に近いんじゃないかな)



 私は今までずっと鳥の姿であり、そして鳥であるが故に不便に思うことも多々あった。私が鳥であったからこそ、私はアロイスから引き離されて王城で暮らすことになってしまったのだと思えば、人の姿になりたいと願うのも当然のことだ。鳥人という名前から察するに、おそらく背中に翼が生えた人間くらいのものだと思う。それなら翼をなんとか隠せば人間に紛れられるのではないだろうか。

 思い立ったが吉日という言葉もある。私は早速スキルを試すことにした。頭の中で【変身】を使おうと意識すれば、自然と選択肢が浮かび、その中から「鳥人」を選択する。



(おお……これは……)



 みるみるうちに視界が高くなっていく。視野の広さも変わり、見える風景が人間と変わらぬものになった。これで人間になれる!と喜び勇んで水面を覗き込もうとした私は、覗き込む前にその希望を打ち砕かれることになる。体の変化は、中途半端なところで止まってしまった。私の両腕は翼であり、腰から下は鳥である。水面に映る顔は美人ではあったが、目は人間のものではなく鳥の目と同じで真っ黒。髪は根元から毛先に向かって明るくなっていくグラデーションのかかった青で、人間らしくはないが目を惹く美しさがある。目を閉じていれば顔だけは綺麗な人間かもしれない。半人半鳥のこの姿はまさしく鳥人であって、どう見ても人間ではない。私の考えが甘かった。というか。



「結局魔物じゃん!!あ、でも前より喋りやすい……ってそうじゃない!」



 思わず一人で叫んでツッコミを入れずには居られなかった。半分が人間で半分が鳥の姿は、完全な鳥であった時よりもかえって怪物感がある。私の考えが本当に甘かった。鳥が簡単に人間になれるはずがなかった。そもそも私は不死鳥(?)と未だ種族名がハッキリしない魔物である。一体自分が何なのかよく分からなくなってきた。



(これなら鳥のほうがマシだ……戻ろう)

 


 さらば夢の人間化。とカナリーバードの姿に戻ろうとした時だった。気配を感じて、姿を変えるのを止める。変身しているところを見られるわけにはいかない。

 近づいてくる気配は二つで、どうやら人間。休憩をするためにこの場に向かっているようだ。飛び立ってもいいが、変化したばかりの体で上手く動けるかどうかは怪しい。どうせ襲い掛かられたとしても怪我をするわけでもないだろう、と楽観して姿が見えるのを待った。



「……んあ?何でこんなところにハーピーが……」


「よく見ろ、服着てないだろ。セイレーンかもしれない」



男達はこちらの様子を静かに窺っている。筋肉質な体と薄汚れた服、一人は剣に、もう一人は弓に手をかけて緊張しつつ動かない。二人の風体から察するに冒険者だろう。



「……なんだ?やけに大人しいな」


「弱ってるんじゃねぇのか?それなら好都合、捕まえて売り飛ばせば……」



 何やら男たちが物騒な話を始めた。今は姿こそ違うが、アロイスの従魔として認識されている私が更に売り飛ばされるとかとんでもない犯罪になってしまうと思う。彼らが可哀想なのでここは飛んで逃げるのが吉だな、と考えていたら気になる言葉が聞えてきた。



「馬鹿、ハーピーだったらどうするんだ」


「それなら目の前でこんな話されてんだから何か言うだろ。女らしく止めてーとか、何言ってんのーとか」



 ……もしかして、ハーピーって人間の言葉を喋る種族なんだろうか。冒険者たちは私から目を離さないようにしつつ相談をしていて、そんなことをしていたら普通魔物に何かされると思うのだけど、もしかして魔物狩りの素人なのだろうか。



「ねえ、ちょっと」



 試しに話しかけて見たら、二人は目を見開いた後顔を見合わせて「やっぱりハーピーじゃねぇか!」「俺は別にセイレーンだと断言したわけじゃない」という言い争いを始めた。訳が分からない。

 暫く二人の言い合いを聞いていたけれど、終わる気配がない。自分は悪くない、お前が悪い、というような話が延々と続いていてイライラしてきた。早く黙らないかな、と思ったら二人の会話がピタリと止んでギギギと音が聞えてきそうな固い動作でこちらに顔が向いた。



「も、申し訳ない。俺達は即座に帰るから、勘弁、して……いただきたい……」


「だから、そ、その威圧って言うか、なんかわからねぇ気配を収めてもらえないッスか……?」



 そのように言われて、驚いた。大体私の感情が怒りに向くと威圧が発動するのは分かっていたけれど、相手は人間だ。効果があることに違和感しかない。アロイス、調教師に続いてこの二人。共通点が不明である。意識が逸れれば威圧も消えるので、男達はあからさまにほっとした顔になった。



「……ちょっと色々と訊きたいから、もう少し近くに来てくれる?」


「え、あ、いやぁそれは」


「馬鹿ッ逆らうな!今行きます!」



 冷や汗を浮かべて青い顔をしている人間二人には悪いが、私には情報が必要なのだ。ちょっとお話に付き合っていただかなければ困る。今居る場所とか、王城までの道とか、色々と知らねばならない。ミシェルがアロイスを呼んだ、と言っていたから早く戻らないと入れ違いになるかもしれないし。……いや、そもそも何で私は鳥籠から出て湖の底に居たんだって話だけども。



「ええと、あの、(あね)さん。俺達はまさか素っ裸のハーピーが居るとは思わなくてその、なぁ?」


「馬鹿、お前はもう黙ってろ。こんなところで一人裸で居るなんて、何か困ってるんじゃないですか。俺達でよければ力になりますし、その、命だけはどうか……」



 そこでようやく、自分が服を着ていないことを思い出した。下半身はともかく上半身は人間に近い部分もあるので、さすがにこれはいけない。長いこと裸でも毛で全身を覆われていたので服を着る習慣がすっかりなくなっていた。



「……服になりそうなの、貸してくれる?」


「ええ、それはもう、もちろんです!」



 私のお願いに弓を背負っている男は笑顔で頷いたが、もう腰に剣を挿した男は首を傾げてどこか不安そうに相方を見た。



「なぁ、何か服の代わりとかあったか……?」


「俺達の服を破いてでもどうにかするに決まってるだろ馬鹿。少々お待ちください姉さん」



 二人がせっせと自分の服を加工してくれる様子をありがたく思いつつ眺めながら、ふと何か既視感を覚えた。

 ……何だろう。この二人、どこかで見たような気がする。気のせいかな。




――――――――



【名前】セイリア

【種族】不死鳥(?)

【称号】愛された国宝

【年齢】0ヶ月

【属性】光


【保有スキル】

異界の経験・魅惑の声・『共鳴歌』・鑑定・穿つ者・天の贈り物・不死・状態異常無効・鉄壁・強者の風格・言語理解・狩鳥・伝心・変身(カナリーバード・鳥人・スライム・不死鳥)・魅了


【生命力】SS~

【腕力】SS~

【魔力】SS~

【俊敏】SS~

【運】S


セイリアは人化、できなかった!むしろモンスター感が増した!

連載当初はここで人化予定だったんですけどね。書きたい場面が出来て止めました。

いつかはしたいと思うのですけど、人外×人間で姿が変わらないままの話も書いてみたいので迷います。

……新しい話で書けばいいんだろうか。うーん。

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― 新着の感想 ―
成る程、此処で不死鳥スキル発動して、種族?として不死鳥になったのね いやいや、ホントにスキル仕事してね~な~って、思ってたけどよかったよかった。
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