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お喋りバードは自由に生きたい  作者: Mikura
愛されし国宝

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62.真夜中の侵入者

ぞわっとするかもしれません




 それは宴の余韻が残る真夜中のことだった。誰かの気配が部屋に入ってきた事で目が覚める。夜は籠に布をかけられているため誰が入ってきたかは判断できないが、少し乱れた呼吸が聞こえるので確実に誰かは居るし、私に近づいてきている。しかもその呼吸がどんどん乱れてきて、なにやら興奮しているらしいことが伝わってきた。



(嫌な予感しかしない……)



 バサリと布が取り払われて、真っ先に目に飛び込んできたのは頬を赤く染めた調教師の顔だ。ランプに照らされて顔だけがハッキリと見える。彼の目が熱を孕んで欲望にギラつき、私を見てニンマリと笑う。一瞬で全身に鳥肌が広がった。あ、いや、元から鳥肌だけども。



「今日君が心を開いてくれてとても嬉しかった……私も君が好きだよ」


「は?」



 思わず素で訊いてしまうくらい意味不明だった。心なんてミジンコほどの隙間も開いてないんだけど一体何を言ってるんだろうか。

 それから垂れ流される調教師の愛の言葉はまともに聞くとせっかく食べたパーティーのご馳走を台無しにしてしまいそうだったので全力で聞き流した。それでも耳に入ってくるツンデレな小鳥ちゃんと健気な私の物語に耳を塞ぎたくてしょうがないのだけど、悲しきかな鳥の体では耳を塞ぐことができない。

 この調教師、魔物に愛情を注ぐように丁寧な世話をするんじゃなくて実際に愛情を注いでいる変態だったようだ。人の性的趣向に口を出す気はないが私を巻き込まないでいただきたい。



「君を見た瞬間これは運命だと思った。さあ、愛し合おう!」


(意味が分からないんだけど!!)



 調教師が籠の鍵に手をかけた。瞬間、頭の中に私の身が危険だと警報が鳴る。すなわちこの男が私に対して害悪な敵だと判断した。いざとなったら木っ端微塵にしてやる、と少々物騒な事を考えたら男の動きが止まる。恐る恐る見ないようにしていた男の顔に視線を向ければ、白目を向いて泡を吹いていた。この反応、どこかで見たような。

 立ったまま気絶した男は籠の鍵を掴んだままぐらりと体勢を崩し、ゆっくりと倒れていった。もちろん私の籠を道連れにして。



「ギャー!!!!」



 それは鳥としての叫び声だったか、人間としての叫び声だったか。とりあえず倒れる鳥籠が地面に派手な音を立ててぶつかって、私も籠のあちこちに体を打って衝撃やらなにやらでつい叫んでしまった。



「何があった!?」



 慌てて駆け込んできたのは調教師の護衛をしていた女性騎士だ。普段の騎士の鎧姿ではなく、濃紺の髪はぬれているように見えるからもしかしたら湯上りなのかもしれない。彼女は部屋の明かりをつけると、目に飛び込んできた光景に思いっきり顔を引きつらせた。

 床に倒れた男と鳥籠。どこがとは言わないが男の服は一部乱れており、そんな状態でピクリとも動かず白目をむいて泡を吹いているのである。女性にはあまり見せられない光景であった。

 こめかみがひくついている彼女の気持ちはよくわかる。実際明かりに照らされてよく見えるようになった光景には私も頬が引きつりそうだった。表情筋は豊かでないのでそうはならないけどさ。



「……下劣な……」



 吐き捨てるように言った女性騎士は男の手を蹴り飛ばしながら私の籠を回収し、テーブルに置くと直ぐに部屋を出て行った。少しして複数の足音が聞こえ、仲間の騎士を二人連れて戻ってくる。部屋の惨状を見た面々は皆一様に「うわぁ」という表情をしていた。



「こいつは酷い。クラリスの言う通りだったな……」


「何でもいいが、目に毒だ。さっさと片づけてくれ」


「あまり触りたくはないが……女性にやらせるのは流石にな」



 調教師は男性の騎士たちによってずるずると引きずられつつ片づけられた。どこに連れていかれたかは分からないが、とりあえず視界から消えたことでほっとする。

 部屋に残ったのはクラリスという名らしい女性騎士だけで、私のところにやって来くると籠を開けてそっと手を差し出した。



「ほら、怖くないから乗ってごらん。怪我をしていないか見るだけだから、おいで」



 優しい声色で話しかけられて、私はそっと彼女の手に乗った。いい子だね、と頭を撫でられあちこち見回される。ひっくり返されてもじっと大人しくしていたら心配そうな顔をされた。



「……大人しすぎるな……中が傷ついていなければいいけど」



 何処も痛くないし私が傷つくはずはないのだが、魔物とはいえ弱小種族であるカナリーバードはこの程度でも怪我をしてしまうものなのかもしれない。優しい手つきでそっと籠に戻され、深いため息を吐くクラリスを見遣った。



「まさか今日行動に移すとは……しっかり守ってやれなくて済まない」



 元の世界でも動物に話しかけ愚痴をこぼす人間は居たが、クラリスもそういうタイプらしい。私としては事の顛末を聞かせてもらえるので非常に助かるけれど、傍から見れば言葉の分からない魔物に話しかけるのは結構変だろうと思う。

 そんなクラリスの話を聞いてみると、なんと彼女は調教師の護衛ではなく監視役だった。調教師の目がどうも危ない奴にしか見えなかったので気をつけていたが、盛り上がったパーティーの後で飲みすぎた来賓達の対応や後処理に追われ、あちこちで忙しく動いていた騎士達の交代は結構な混乱具合であり、そのゴタゴタに紛れて調教師がいつの間にか姿を消していた。同僚から話を聞いたクラリスはまさかと思い急ぎこの部屋に向かったが、部屋にたどり着く直前で大きな物音がして、踏み込んだら案の定な光景が広がっていた、と。



「しかしもう心配は要らないぞ。あの男は処分される、安心していいからな」


「ピ」


「ふふ、そうかそうか」



 適当に鳴いて返事をする私に向かって頬を緩めるクラリス。赤茶の目が柔らかく笑っていて、彼女は鳥か小動物(魔物だけど)が好きなのだろう。彼女の右手がそわそわと撫でたそうに動いている気がする。



「しかし、何故あれは失神していたんだか……死霊(ゴースト)でも見たかのような顔だったが。他に侵入者でもいたのか、少し調査するべきかもしれんな」



 ギクリとしてちょっとだけ身が締まった。他に侵入者などいなかったしそんな形跡は調査しても一切出てこないと思うから、それ以上気にしないでいただきたいものである。彼が意識を失ったのはどう考えても私の威圧のせいであって、他に原因は考えられない。



(……あれ?そういえば、なんで私の威圧が効いたんだろう)



 おかげで助かったといえば助かったのだけど、私の威圧は殆ど人間に通用しない。魔物にはことごとく怯えられてきたが、今まで私の威圧を感知したのはアロイスだけだった。アロイスは魔力が大きく、魔力には敏感な方だから分かるのかな、なんて思っていのだけど。今回の被害者は平民であり、決して魔力が強い訳ではないはずだ。【強者の風格】による威圧効果の基準はよく分からない。



「おっと、カナリーバードを夜遅くまで起こしてしまうのはいけないな。怖くて眠れないかもしれないけど……ちゃんと休むんだよ」



 クラリスは優しい顔で笑い、鳥籠スタンドに元通り私を設置すると布をかけて部屋を出て行った。

 アロイスの予想通りことが起きてしまい、人知れずため息を吐く。何も問題ない、順調だと伝えて一日も経っていないのにこれである。アロイスさすがだよ、私が問題ないと思っていただけで周りには問題があったよ。私ももうちょっと調教師の様子を気にかけておくべきだった。アロイスのことしか考えていなかったので本当に一切頭に入っていなかったのである。



(ああ不安になってきた……)



 今回の事は全くといっていいほど私は悪くないと思うけど、このように巻き込まれることがないともいえない。ヒースクリフじゃあるまいし事件に巻き込まれるのは御免こうむる。しかし避けたくてもあちらからやってくる場合は本当にどうしようもない。特に今、私は殆ど自由がないのだし。



(十日しか経ってないのにこれで……一年も大丈夫かな)



 そんな不安な夜を過ごし、スッキリとは言えない気分で朝を迎えた。一年は長いのにこのままでは参ってしまう。気分を切り替えて食事のことでも考えよう。

 調教師が処分されたと言うなら朝ごはんはどうなるんだろう、と考えていたらクラリスが朝食を持ってきてくれた。遮光の布を取っておはよう、と笑いかけてくる。



「今日から私が君の世話係になった。私は騎士だけれど、調教師がやっていることはずっと見ていたし、魔物使いでもあるから安心して身を任せてくれ」


「ピ」


「うん。よろしく、セイリア」



 クラリスは優しいし誠実そうだし、彼女が面倒を見てくれるなら一安心だ。調教師の存在はもう殆ど忘却の彼方である。アロイスが居れば深く溜息を吐きながら能天気な考えの私を注意してくれたのだろうが、残念な事に彼はこの場に居ない。この事件が私の生を大きく変える切っ掛けであったなんて、全く思いもしなかった。




できるだけソフトにかるーく書こうとは思ったんですけど軽くなったかな


あと四話以内に新しい章に…入れるかな…?

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