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お喋りバードは自由に生きたい  作者: Mikura
愛されし国宝

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57.神に愛されし者

三人称の文ですがミシェル視点です。



 宮廷魔道士ミシェルといえば、現在唯一【鑑定】が使える者としてその名を広く知られている存在である。王城に一室を与えられ、王から信頼され、直接言葉を交わし、名誉ある仕事を与えられた誰よりも幸運な男。自分は神から愛されているのだとミシェルはそう思っている。いや、思っていた。



(まさに、規格外……)



 マグナットレリア領主の第二子息、アロイス=マグナットレリア。入学時の簡易鑑定で異例の五属性だと分かり、総合評価Aランクを叩き出し、既に一年分の試験をクリアし、ビッグスライムや脅威固体デス・ツリーを討伐したという実績を持つ、末恐ろしい才能の塊。

 実際に顔を合わせてみれば、オクタヴィアンの王とは思えぬ言動に戸惑い、困ったように笑う普通の子供であったように見えた。綺麗な顔をした子供ではあったが、貴族であるならそれは珍しくもない。能ある鷹は爪を隠すとはよく言ったものだ、と鑑定を終えた今ならば分かる。



「ミシェル、アロイス=マグナットレリアはどうだった?」


「……正直、あれは異常と呼べる代物かと。今から成長期だと言うんですから……怖いですね」



 オクタヴィアンに問われ、ミシェルは感じた事を素直に告げた。アロイスが有する能力はとても十二歳の子供が持つものとは思えなかった。それもこれも、彼が持つ特殊なスキルの数々が原因だろう。【天才】という成長幅も成長速度も上げるようなスキルに加えて、全能力を向上させる【光神の加護】というスキルがついていた。ラゴウ領の巫子と呼ばれる者が持っているとされる加護スキルとは全く違う、まさに神に愛されているかのような才能(スキル)。そのおかげか、彼の能力値の中にはSランクを超えるものもあった。その事実を王に報告しながら、ミシェルはある考えに至った。



(……ああ、そうか。彼は神に愛された人間か)



 五属性に加えて、光の神からも加護を受けた人間がこれまでに居ただろうか。そして、この先現れるだろうか。いや、きっと現れない。アロイスは神に愛されているのだと納得させられる。自分など、ただ運がよかった人間に過ぎない。



「王よ、僭越ながら進言させていただきます。アロイス=マグナットレリアを、早いうちに囲い込んでおくべきかと」



 有能であるからこそ、それを廃しようとする者も現れる。おそらくその筆頭は彼の兄であろう。闇のような心を持つものにしか宿らない【悪童】というスキルを身につけているのだから、間違いないと確信している。ならば先に国から特別な称号を与えておき、誰もが勝手に手を出せないようにしてしまえばいい。



「……勇者、か」


「はい」



 能力の高いものを国が認めて支援する。勇者を害することは誰にも許される行為ではない。アロイスのように、能力はあれど立場の弱いような者を保護することのできる制度である。暫く思案していたオクタヴィアンが頷き、新たな勇者の誕生に同意を示した。



「必要であろうな。特別なカナリーバードも借り受けるのだから、それくらいのことはするべきであろう。報告、大儀であった」


「は。それでは、失礼いたします」



 ミシェルの提案は受け入れられた。無事に報告を終え、思っていた通りの結果を迎えたミシェルは内心ほっと息を吐きつつ自室に戻る。彼の姿を見た途端に美しい声で鳴いて見せた赤い愛鳥に自然と頬を緩ませながら、同種であるが色変わりの青い鳥を思い出した。



(…………あれは、いったい何だったのか)



 光属性の魔物だと言われている、青いカナリーバード。美しく目を引く青の羽を持ち、とても賢く多芸であり、戦闘能力もあり、光の魔術を使うという。それが本当なら素晴らしいカナリーバードだが、ミシェルは何故かその青いカナリーバードを美しいと素直に称賛することができなかった。それはその魔物が普通ではありえない現象を起こしたからである。

 普段から様々な物を鑑定してきたミシェルにとって、初めて目にしたものに対し【鑑定】を行うのはもう癖のようなものであった。通常なら魔物などスキルを使って鑑定するに値しないが、光属性の特殊固体といわれれば興味も湧く。鳥籠から出てきたカナリーバードも例にもれず、こっそりと調べようとしたのだが、できなかった。



(はじかれた、のだろうか)



 そうとしか言いようのない感覚で【鑑定】が失敗した。それと同時にぞっとする急激な寒気に襲われ、混乱したのだ。それからは何故か、そのカナリーバードを見るのがなんとなく恐ろしく思えて、まともに目を向けることができなかった。



「……馬鹿らしい」



 ミシェルの自嘲気味な呟きに愛鳥が首を傾げた。言葉を聴いて真似をしようとする時の仕草だ。ミシェルは苦笑いをしながらひらひらと手を振った。覚える必要はない、という合図である。そうすれば聞く姿勢を解いて、美しい声で囀り始める。カナリーバードとは、観賞用の美しく賢いだけの魔物。その価値は見た目と声と愛らしさにあるのであって、強さを求めるのは間違いであり、そもそも人間が簡単に飼えるほどの弱小種族である。



(ありえないな。あれはカナリーバードだ)



 光属性で支援の魔法が使えたとしても、それだけだ。【鑑定】を弾いたのはおそらく光属性の特性か、相手の魔法を阻害する何らかのスキルを身につけているからだろう。妙な悪寒に関しても、スキル発動が失敗したことによる不快感か何かに違いない。ミシェルはそう思って、小さな違和感を見なかった事にした。



(何にせよ、新たな勇者の誕生を祝おう。あれだけの能力を持っているのだから、きっと様々な伝説を生み出してくれるはずだ。王も期待をしているから、あのように譲歩されている)



 オクタヴィアンは暴君ではない。努力するのが好きで、努力している人間も好きで、能力ある者なら立場など関係なく認める。ミシェルも下級貴族に生まれたが、魔力の高さを買われて引き上げられ、【鑑定】を持っていることまで分かって今や国の重鎮の一人だ。周りからの妬みを受けて埋没しかけていたミシェルを救ったのはオクタヴィアンその人であり、ミシェルが心のそこから敬愛する王である。

 優秀な従魔とはいえ、カナリーバードを借りる代わりに王家に代々伝わるフィエール・タイガーを貸し出す王など他にないだろう。あのような好条件を示されて断る者などいるはずもない。アロイスも喜んでいるだろう。その上勇者としての称号を与えるのだから、明日は彼にとって人生で最もよき日となるはずだ。

 そう信じているミシェルの考えは間違いではなかった。それが唯の魔物であるカナリーバードと従魔の主であったなら。まさか人間と同じような感覚を持ち、人間の言葉を操り、しかも規格外な能力を持っているような魔物と、貴族の子が従魔契約でなく【仲間の指輪】によるパーティーを組み、絆の深い友となっているなどという、常識の範囲を軽々と超えてた現実を予想できるはずもない。今まさに、勇者となるはずの少年が悲しみにくれている事実など完全な想定外であった。



(明日が楽しみだ)



 勇者誕生の場に居合わせるであろう明日の期待を胸に、ミシェルは静かに夜を過ごす。彼の部屋の鮮やかな赤の鳥は、じっとどこかを見つめて美しい声で鳴いた。



―――――――――――




【名前】アロイス=マグナットレリア

【種族】人間

【称号】光の神に愛されし者

【年齢】12

【属性】火・木・金・土・水


【保有スキル】

天才・速読・毒耐性・睡眠耐性・魔導の知識・『調教の才』・鳥類の友・伝心・『光神の加護』


【生命力】S-

【腕力】A+

【魔力】S

【俊敏】A+

【運】B


セイリアの鑑定は弾かれました。鑑定を持つもの同士なら、魔力が高いものが優先されます。セイリアに見せる気がないので見られることはありませんでした。


次回はアロイスとセイリアの夜です。


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