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お喋りバードは自由に生きたい  作者: Mikura
学園の有名鳥

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49.五人パーティー



 特クラスの五人で組むパーティーは、構成的にバランスが取れていると思う。近距離戦闘の得意な剣士であるドミニク、弓とナイフを扱って中短距離をこなす狩人のピーア、遠距離から魔法を使える魔術師のソフィーアに、全体支援が使える巫子のムラマサ、そして剣術と魔法の両方を扱える魔道剣士のアロイス。このパーティーに出会った魔物がいっそ哀れなくらいに隙がない。しかしそうなるのは連携がしっかり取れるようになってからだろう。今はまだ、攻撃のタイミングが被ったり、仲間の攻撃の邪魔になったりしている。出来上がれば強くなるはずだから、学園に居る六年間でしっかり絆レベルを上げてほしいものである。


 そんなメンバーと共に行動する従魔は私だけだ。理由は私が希少なカナリーバードだから、ということになっている。先日部屋が妖精によって荒らされ、学校のセキュリティの穴を考えると部屋に置いたままにしておくと心配だ、というアロイスの言葉に皆が納得したのだ。「セイリア程価値の高いカナリーバードなら心配だよね」とはピーアの談である。

 ……実際は、私が居ない中クラスメンバーに囲まれると精神的な疲労がハンパじゃないっていうのが理由なんだけども。アロイスは人見知りだよね。



「やはり、この人数にいきなり合わせるというのは難しいね。慣れるしかないとは思うけど……でもアロイス殿はよく周りを見てて凄いよ。大人数のパーティーを組んだ経験があるのかい?」



 現在何度か魔物と交戦したが、いいところを見せようと飛び出したドミニクがまっすぐ飛ぶピーアの矢に当たりそうになったり、嫌いな魔物が出てきた瞬間広範囲魔法攻撃をぶちかますソフィーアの魔術に巻き込まれそうになったりして大変だった。アロイスはドミニクがピーアの矢の前に出そうになれば声を飛ばして危険を知らせ、突っ込んで危うくソフィーアの魔術に巻き込まれそうになれば首元をひっつかんで止め、最悪の結果にならないように尽くしていた。今もなおドミニクが大怪我をせず健在で居られるのはアロイスのおかげだろう。

 しかし事あるごとに注意するアロイスの言葉は右から左、ちらちらとソフィーアばかりを気にしているドミニクは反省する様子を見せず、何度も同じようなことを繰り返してはアロイスに助けられる。そんな様子を見て、ピーアは「アロイスは周りをしっかり見ている」と思ったらしい。

 確かに、アロイスは状況を確認しながら戦うのが得意だ。私は獲物が目に入ったら他のものは一切見えなくなるけども。



「大人数ではないですが……私とよく訓練に出ていた者が少々、注意散漫というか向こう見ずというか、周りがあまり見えない性質のものだったので自然と注意を払うようになりました」



 身に覚えがありすぎてそっと顔をそらした。アロイスに周りを見る癖がついたのは私が原因だったようだ。私が何も考えずに動くから、アロイスは私が次にどう動くのか、周りはどのような状況に変化するのか、常に考えさせられていたらしい。……ごめんねアロイス。でも本能にはそう簡単に勝てないんだよ……。



「そっか、成程……僕もドミニク殿の動きに注意していれば、身に着くかもしれないね」



 ドミニクが完全に私と同じポジションである。でも一緒にしないでほしい。私は一応、突っ込もうが攻撃を受けようが怪我をしない自信があるのだ。怪我どころか下手したら死にそうな行動をするドミニクと同じではない、断固違うと言い張りたい。が、喋るわけにはいかない。



「ここにはそこまで強い魔物が出ませんから、経験を積むのにはちょうどいいでしょうね」


「うん。焦らずにゆっくり覚えていこうと思う」


「……その前にドミニク殿が死なないといい、ですが」



 二人の会話を聞いていたムラマサが笑えない冗談を呟いた。まじめな顔をしていたので、冗談ではなくそう思ったのかもしれない。ありえない、と否定しきれないから怖い。ドミニク、気をつけないと命の危機だよ。ピーアかソフィーアに()られかねないよ。

 しかし私の思いもむなしく、その後に出会ったフォレストベアにもドミニクは先陣切って突っ込もうとして、ソフィーアの魔術で氷付けになりそうになった。一度痛い目を見ないと覚えないのではないだろうか、彼は。



「……ドミニク殿、死にたいのなら他所でやってください」



 ついには殆ど喋らないソフィーアにそのような言葉をかけられる始末だ。それを言われた本人は、久々に話しかけてもらえた喜びと、その内容から窺える自分への評価のショックで面白い顔になっている。



「い、いやぁ……ハハ、そのようなつもりでは……」


「たしかに、放った矢の直線上に飛び出してくるのは自殺行為だと思う、いや、思いますしね」


「それは、その…………すまない、迷惑をかけていたようで……」



 アロイスの忠告は頭に入らないが、女性陣の評価はちゃんと聞けるらしい。それから彼が急に飛び出すことはなくなり、危うい場面はかなり減った。攻撃のタイミングが被ってしまったり、魔物を取り逃がしてしまうような事はあったが、お互いを意識して動くようになってきたのでこのまま戦闘を重ねればよくなっていくと思う。ドミニクがアロイスの言葉を最初から聞いていればもっと早く訓練らしい訓練ができただろうに、女性に言われるまで聞く気がなかった事が腹立たしい限りだ。頭を突き回してやろうかと思ったが、私がそれをやるとドミニクの頭が爆散しそうなのでできない。タイミングを見て何か別の方法でこの苛立ちをぶつけたいと思う。



 それから休憩を挟み、一時間程経っただろうか。このパーティーは人数が多く攻撃力も十分あるためか、一時間でかなりの魔物を屠っていった。回数を重ねるごとに段々と連携が高まり、狩りの効率があがっていく。その理由はアロイスにあった。魔物の特徴を一番把握していて、弱点や攻略方法を考えて皆に伝え、意識を統合してから戦闘に入る。アロイスは自然とパーティーのリーダーになっていた。



(……アロイスは人を率いる方が向いてるんじゃないかな)



 帰路についたメンバーは、疲れてはいるものの嫌な顔はしていなかった。それは、このパーティーが中々いいものだと思い始めたからだろう。ドミニクが先走っていた間はそれはもう空気が重かったけれど、今は皆どこか満足そうに見えるのだ。

 テオバルトのような人間の下につくよりも、誰かを率いて進んでいく方が似合うと思う。それはメンバーの表情をみれば分かることで……だから私は余計に、アロイスはマグナットレリアを出るべきだと思ってしまう。



「皆、本当に申し訳なかった。序盤は私が非常に足を引っ張ってしまい……深く反省した」



 いつものキザさはなりをひそめ、真面目な顔でドミニクが呟いた。銀髪の隙間から覗く緋色はとても悔しそうであり、反省が強く表れていて、私は初めてドミニクに好感を持った。……自分が悪かったって、認められる子供はとても偉いと思う。おちゃらけた普段の態度から、反省もできないのではと勝手に思ってしまっていた。私の方が色眼鏡で見てしまっていたようで、少し反省する。ドミニクは色々と困ったところがあるけど悪い奴ではない。



「アロイス殿、私が間違うことがあればこれからも助言して頂きたい。貴殿の話を早く聞いていればよかったと、今更だが後悔した」


「……分かりました。けれど、私が正しいとは限りませんし、何かあれば全員で考えていくべきでしょう」


「それは、勿論だ。私たちはパーティーを組んだ仲間なのだから……全員で、このパーティーを作っていけたらと思っているよ」



 ニカッと笑ったドミニクに、ピーアも笑って同意した。全員でパーティーを作っていくことに賛成だ、と。始まったばかりだし、まだお互いも知らないから今から仲間になって行こうと。そういう青春のような話が始まって、ソフィーアはどことなく戸惑っているようだけど嫌ではなさそうだし、ムラマサはちょっと嬉しそうな顔をしていて。そしてアロイスは、仮面でない顔で苦笑していた。これから五人は仲間になっていくのだろう。対等な、人間の仲間に。



(…………何でだろう。ちょっとうらやましい)



 アロイスに仲間が出来るのは喜ばしいことだ。友人は沢山出来た方がいいと思っている。アロイスを支えて、そしてアロイスが支えになるような相手が出来ればそれは本当に素晴らしいことだ。そうだと思っているはずなのに、心はすっきりしない。



(そこに私の居場所があるか分からないから、かな)



 私は所詮、魔物だから。人間の輪に混ざることはできない。アロイスが人間との絆を得てそれが広がっていけば、自然と私と話す時間は減るだろう。アロイスが私を大事な友人だと思い続けてくれても、周りには理解されないはずだ。私が普通に話せる魔物だと信頼できる仲間に打ち明けたとして、その仲間が私を人間の様に扱うことは限りなくゼロに等しいと思う。そしてその相手に、私が前世の話をすることはない。対等な友だと見てくれない相手に、それを打ち明けるつもりはない。



(嫌だな)



 アロイスの世界が広がるのを邪魔したくはない。アロイスに友人が出来て欲しいと思っている。けれどそうなった時、喜べないかもしれない。そう考えてしまう自分が嫌だった。私が人間だったらこんなことは気にしなくてよかったと、また意味のないことを考えそうになって頭を振る。未来はどうなるか分からないのに、いまだ訪れていない、確定でもないことを心配してどうするのか。私はアロイスの役に立つことをやると決めたのだから、アロイスのためを考えて行動しつづければいい。いつでも、どんな時でも。

 そうして頭を切り替えて考え事から浮上した時、考え込み過ぎて今まで気づいていなかった気配が思ったより近くにあって、驚きのあまり小さな声が漏れた。



「……セイリア?」


「ん?どうかしたのかい、アロイス殿」



 アロイスが私を見て、つられてピーアや他のメンバーもちらりとこちらに視線を向ける。今喋る訳にはいかない、いかないけどこれは伝えなければいけない。アロイスの目を見る。



(何か大きいのが、近くにいる。急いで逃げるか、応戦するなら覚悟を決めて!)



 私の意思は伝わったらしい。軽く目を見開いたアロイスは、即座に剣を構えて声を上げた。



「警戒を!出来るだけ即座に、出口まで―――」



 しかしその言葉は途切れた。それは視界にありえない巨体を捕らえたから。傾いた日の色に照らされて光り、半透明な体を震わせながらこちらに向かってくるもの。人間の倍以上の高さをもつ、巨大なスライムだった。



本人たちが良くても周りがよく思わない、ってことはよくありますよね。


次回はビッグスライムです。

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