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お喋りバードは自由に生きたい  作者: Mikura
学園の有名鳥

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47.男子会

女子会ならぬ男子会……



 本日は授業のない光神日、アロイスとムラマサのお茶会の日である。この学園には申請すれば自由に使えるサロン、いわば談話室が存在しているけれど、ムラマサの用意した席は室内ではなかった。日当たりのいい中庭に赤い毛氈が敷かれ、真っ赤な野点傘が日光をさえぎり、出てくるお茶は泡立ちの美しい抹茶、お茶菓子は花の形を模したねりきりである。この場に椅子というものはない。ムラマサは美しい正座で、アロイスは背筋を伸ばしつつ胡坐を掻いて向かい合うように座っている。視界の端、普通に会話していれば聞こえないであろう距離にムラマサの従者とヒースクリフが控えていて、毛氈の内にいるのはムラマサ主従、アロイスと私の二人と一匹と一羽である。

 まさに日本のお茶会という雰囲気で、現代日本ではあまり見られない光景だけどもどこか懐かしく思ってしまう。ラゴウ領いいなぁ、絶対昔の日本みたいな領だよ。



「初めての茶は口に合うたかの?」


「……苦いですね。でも、こちらの菓子を食べたあとなら心地よい苦味に感じます」



 抹茶は飲み慣れない人間にはとても苦く感じられるお茶だと思う。アロイスは甘いものが好きだから茶菓子は気に入ったようだけど、抹茶は一口飲んでみてはピクリと眉を動かすので、やっぱり苦いんだろうな。茶菓子の減り方も早い。

 懐かしく感じるものなので私もちょっと食べたり飲んだりしてみたいけれど、私にそれが出されることはない。私とイナリはそれぞれの主人の隣でお行儀よく待機である。従魔に出されるお茶もお菓子もありはしない。イナリは興味なさそうに丸まって寝ているけれど私は味わいたかった。ああ無常。



「その菓子はねりきりという、ラゴウでは定番の菓子でな」



 そこからはラゴウの文化の話だ。ムラマサが話すことにアロイスは相槌を打ち、時折質問して会話に花を咲かせている。ラゴウ領の話は私も興味深いので耳を澄ませて聞く。

 建物は殆ど木造で、主食は米で、着物と呼ばれる民族衣装があって、といろんな話を聞いて是非ともラゴウに行ってみたくなった。久しぶりにお味噌汁とかおにぎりが食べたいよ。



「ラゴウ独特のものといえば……巫子を選ぶ儀式というのは、いったい?」


「うむ、あれは七歳になる子供でやる儀式なのだが……」



 目を瞑ってしゃがんだ一人の子供の周りを円になった子供たちが囲み、歌いながら回る。歌が終わったと同時に、背後に立っていた子供が誰かを当てる。というどう考えても「かごめかごめ」の遊びのような儀式だった。

 誰が自分の後ろに立っていたか、外すことなく当て続けた子供が巫子になるのだそうで、二、三回ならともかく何十回と当て続けられる子供はそうそう出るはずがない。故にここ何十年かは巫子が不在だったとか。それならムラマサが崇拝されるレベルで大事にされるのも分かる気がする。領民が待ち望んでた存在なんだろうね、ムラマサは。



「ラゴウ領は本当に興味深いですね、一度この目で見てみたいものです」


「ほう?それならば、一度我がラゴウに……」



 恐らく招待してくれようとしたムラマサの言葉が止まったのは、騒がしい存在が近づいてくるのに気づいたからだろう。さすが「かごめかごめ」で背後の人間を当て続けた巫子である。見えていないのにこちらに大股でやってくる人間に気づくなんて後頭部に目でもついてるんだろうか。



「お二人とも、少しお時間よろしいだろうか?」



 やってきたのは何を企んでいるのか胡散臭いほど輝かしい笑顔のドミニクと、どことなく呆れているように見える従魔のヴァンダだった。

 物凄くタイミングが悪い。あとちょっとでムラマサがアロイスを自領に招待してくれそうだったのだ。アロイスだってラゴウには行きたかっただろうし、ちょっとわくわくした雰囲気をかもし出していたというのに。と苛立ち気味にドミニクを見ているとヴァンダがぶわっと膨れて『悪気はないのよ!』と悲鳴のように鳴いた。



「ヴァンダ、落ち着かないか」


『誰のせいだと思ってるのよ!もう!』



 ヴァンダはご立腹である。そんな彼女に困った子を見るような目を向けるドミニクだが、ヴァンダの言うとおりだ。困ったちゃんは彼の方である。



「相談があるのだが、少し聞いていただきたい」


「……ムラマサ殿の判断に任せます」


「…………履物を脱いで、あがってください」



 アロイスはニコリと笑ったし、ムラマサは能面のような顔をしているけれどどちらも嫌がっているというのが良く分かる。しかしそんなことはドミニクには通じないらしく「ありがとう」と言いながらブーツを脱いで毛氈の内へ入り、片膝を立てて座った。



「こうしてじっくり話すのは初めてだな。ムラマサ殿は喋らないし、アロイス殿は教室で姿をお見かけしない。探すのに苦労した」


「それで、相談というのは?」



 さっさと本題に入れといわんばかりのアロイスの質問に、ドミニクは笑顔で頷いて話を切り出した。



「【仲間の指輪】も作ったというのに、私たちはどうもお互いに距離がある。親睦を深めるためにも皆でパーティーを組み、森で訓練するというのはどうだろうか?」



 軽そうなドミニクだから何を言ってくるのだろうと思ったら、パーティーとしての連携を深めないかという話で、一週間に一度くらいの頻度で都合をあわせ、全員で訓練しないかという割とまともな提案で驚いた。まじめな話もできるんだな、と感心した私だったがアロイスの笑顔の中の冷ややかな目を見て思い直す。なるほど、裏があるんですね?



「……提案自体は、悪くないと……思います」


「ムラマサ殿もそう言ってくれるか!アロイス殿はどう思う?」


「同じく、悪くない提案かと。しかし、ドミニク殿は何か他にも考えがおありのようで」



 アロイスに指摘されてドミニクの笑顔がとてもよそよそしいものになった。やはり何か別の考えがあるらしい。アロイス、隠し事を見抜くの得意だよね。私なんてすっかり騙されて感心してしまうところだったよ。



「いやぁ、それは、その……ほんの少し、ソフィーア様と親しくなるきっかけになればなぁ、とは思っているのだけれども」


「動機が不純ですね」


「……不潔です」


「え、でも男なら分かるだろう?アロイス殿こそピーア様と仲を深めているのではないのかい?彼女は理由を知らされるまで、教室に来ない君をかなり心配していたようだが」



 アロイスの笑顔が引きつった。引きつったように見えるのは私だけなのか、ドミニクは気にしていないようだ。止めてドミニク、それ以上は止めて。アロイスが物凄く嫌そうだから。アロイスはそういうの興味ないから!



「私はピーア様を特別な目で見たことはありませんが」


「そんなまさか。ピーア様もまた、天真爛漫な愛らしさのある美しい女性ではないか。ソフィーア様とはまた違った魅力があるというのに……全く関心がないなんて嘘だろう?なぁムラマサ殿?」


「………セディリーレイの常識を持ち込まないで、ください」



 ドミニクの女好きはどうやら土地柄らしい。セディリーレイ、頭の中が春爛漫な領地なのかな。アロイスがそんな風になるのは想像がつかないけど、友人は影響するというからドミニクにはあまりアロイスに近づかないでいただきたいものである。



「下心があることは認める。しかし、特クラスの連携を高めることは必要だと思うのだよ。私たちは卒業まで共に過ごす仲間なのだから」


「…………それには一理ありますが」


「そうだろうそうだろう。だからな、私としては―――」



 結局、女性二人の賛成を得られればクラスパーティーでの訓練を行うことに決定した。そして何故か、ソフィーアを誘うのがアロイスということになってしまった。

 そんなの自分でやれ、といいたいところだが話しかけすぎてドミニクの声をシャットアウトしているらしいソフィーアに、話を聞いてもらえないらしい。寡黙な(ということになっている)ムラマサには頼めないし、消去法でアロイスしか居ない。アロイスは心底嫌そうな笑顔で引き受けた。声をかけるくらいで軋轢が生まれないならそれでいいと思っているようだ。嫌そうだけど。



「二人とも、ご協力感謝する!では、私はピーア様に話をしてくるよ!」



 嵐のように去っていったドミニクと私の機嫌をちらちらと窺いつつその後を追っていくヴァンダを見送って、ムラマサが堪えきれないため息を吐いた。アロイスもため息を吐きたそうだけど仏像のような笑顔で我慢している。



「……なんだか興がそがれてしもうたな」


「……そうですね」



 せっかく二人で楽しくお茶会していたというのに、全く迷惑だよね。何だか二人ともとても疲れて見えたので、とりあえずアロイスの手に軽く頭を擦り付けておいた。動物の可愛さに癒されてほしい。優しくなでてくれるアロイスの手を堪能していたら、ムラマサが少しうらやましそうに見ていることに気づいた。

 ちらり、とアロイスに視線を向ける。……行ってもいいって思っているようなので、歩いてムラマサの元まで行き、同じようにその手に頭を擦り付けた。



「セイリアはやはり、愛いのぅ……イナリは愛でることを厭うので、触らせて貰えなんだ」


『……私は愛玩用魔物ではありません』



 不服そうな声が上がった。イナリは結構自尊心の高い魔物だし、媚を売っているみたいで嫌なんだろうけども。私はアロイスの役に立てればなんでもするけどね。今もムラマサの機嫌をとって、アロイスをラゴウに招待してもらえないかなぁという企みがあるし。



「アロイス殿、良ければまた今度もこうして茶会をせぬか?今日は水を差されてしもうたからの」


「ええ。是非」


「うむ。では、今日はお開きとしよう。コンタクトバードでまた、連絡させていただく」



 こうして、ムラマサとの第一回目のお茶会は終わってしまった。ムラマサの機嫌は直ったけど、お誘いは受けなかったな。残念だ。ほんと全く、ドミニクめ。いつか何かの形で仕返ししてやりたい。

 アロイスの後ろにヒースクリフが並び、連れ立って歩き出す。その足は真っ直ぐ自室に向かっていた。疲れたから早く帰りたいんだろうな。



「アロイス様、この後はどうなさいますか?」


「……部屋に戻る。ああ、そうだ。コンタクトバードの手続きをして欲しいんだが」


「かしこまりました。アロイス様のお手伝いをさせていただいた後に参ります」



 その後、自室に戻った後にヒースクリフは丁寧にお茶を淹れ、換気兼コンタクトバードの迎え入れのために窓を開け、「手続きに行ってまいります」と直ぐに出て行った。彼の退室と同時にアロイスがため息を吐く。精神的疲労が見て取れる、それは深いため息だった。途中までとても楽しそうにしていたのに、邪魔が入った挙句に気の進まないことをやらなくてはいけない。上がっていたものを下に落とされた落差の分、疲れが大きいだろう。ドミニク許さない。



「お疲れ、アロイス。……何か癒されそうな歌とか欲しい?」


「頼む」



 即答で頼むと言われて、本当に疲れているんだと心配になる。癒されるような、優しいメロディの曲を考える。

 ……嘘を吐いたら鼻が長くなってしまう主人公のアニメ主題歌「星に願いを」にしよう。短いので何度かリピートする。優しくて綺麗で落ち着く歌だ。調子に乗って数分間歌い続けている私はまだ知らない。窓が開いていたことにより漏れた歌を聞いて、人が人を呼び、寮の外で鑑賞会が始まっていたということを。それを知るのは、満足して歌い終わった瞬間に外から聞こえてきた大量の拍手に驚かされてからである。




次回はソフィーアと話します。たぶん。




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