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お喋りバードは自由に生きたい  作者: Mikura
学園の有名鳥

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45.悪戯妖精




「部屋がどの程度荒れたのか分かりませんが、犯人はヒースクリフではありません。おそらくピクシーです」


「……悪戯好きの妖精ピクシー、ですか」



 ドロテーアもヒースクリフも信じられない、と言う顔をしているが事実だ。ヒースクリフの頭の上には確かに妖精と呼べる姿の魔物が居る。妖精の中でも悪戯好きなピクシーという種類らしい。たしかにちょっと目がつり上がり気味で、やんちゃそうな顔をしている。

 私とアロイスにだけ見えているのは何か原因があるのかな、と思っていたら妖精が理由を口にしてくれた。



『ワタシが見えるってことは、ワタシより魔力が高いって事よね?人間のくせにナマイキだわ!』



 ……なるほど。魔力が高くないと妖精は見えないのか。覚えておこう。なら私は見えないフリをしておくべきかな、と思っていたら妖精がちらりとこちらを向いて、ニィッと笑った。悪いことを考えている顔である。



『あら、この鳥って人間が大好きなカナリーじゃない?むかつく人間の大事なものよね?いたずらしてやるわ!』


「……ギッ」



 妖精がこちらに向かってきたので、つい威嚇の声が上がった。人間で言うなら「あ゛?」という感じの声である。私に睨まれた妖精は空中でピシッと固まって、そのまま落下していった。それをアロイスの手が受け止める。妖精は気絶しているらしく泡を吹きながらピクピク痙攣していてちょっとかわいそうだ。

 ……でも何かされそうだったので仕方ないよ、この場合は不可抗力だよ。威圧に関してはオート発動なので私は知りません。アロイスへの嫌がらせで私に何かしようとしたのが悪い。



「ここにピクシーが居ますが、ドロテーア寮監には見えないのですよね」



 見えていたら見えていたで哀れな姿の妖精に引いたかもしれない。そんな姿の妖精に一切動揺を見せないアロイスの仮面っぷりは凄いよね。内心はちょっと引いてると思うけど。



「ええ、私にはさっぱり……魔力の高い人間は妖精を見やすいといいますから、原因はそれでしょうね。アロイス=マグナットレリアが言うなら信じましょう。ヒースクリフ=ヘルナー、疑って悪うございました」


「い、いえ。私しか疑える者が居なかったのは、事実ですから」



 この学園は基本的に魔術具だらけである。現代で言えば電動の道具だらけ、という状態だ。部屋の扉はオートロックだし、魔力を登録してないと開かない仕組みらしく、アロイスの部屋は現在本人とその従者であるヒースクリフだけが登録されている。他の者が近づいても扉は開かない。おそらくヒースクリフにくっついて入った妖精が何かしたんだろう。



「……部屋に戻ってもよろしいでしょうか?」


「ええ。部屋はすでに整えてありますので、どうぞお疲れを癒してくださいませ」



 ニコリ、と笑ったドロテーアに見送られて私たちは部屋に帰った。そしてヒースクリフにお茶を淹れて貰い、一息ついてから何があったかを聞く。なお、妖精は気絶したままなので机の上にハンカチを敷いて寝かせている。


 ヒースクリフは毎日、アロイスが居ない間に部屋の掃除を済ませて部屋を整える。今日もいつもどおりに掃除をして、シーツを洗濯のために持ち出し、帰ってきたら部屋の様子が変わっていた。

 引き出しが開けられ、花瓶が倒され、枕が投げられ。一瞬呆然としたが、すぐにドロテーアに相談に行ったのだという。部屋の登録を調べるから、その間に片づけを済ませるように言いつけられたヒースクリフは、荒らされてしまった部屋を整えなおして待っていた。そうしたら、部屋の登録はいじられていないし、登録者はヒースクリフとアロイスだけで、荒らされた時間に入ったのはヒースクリフだけ、といわれたのだそうだ。

 登録していない魔力が通ったことは記録されない仕組みらしい。そもそも、登録者が居ないと扉が開かないので、登録していないものの魔力を記録する意味はない、と。見えない魔物が相手ならこのシステムは穴だと思う。まぁ、妖精なんて珍しい魔物はそうそう居ないからこういうシステムなのだろうけども。



「災難だったな、ヒースクリフ」


「いえ……私としては、アロイス様のお部屋が荒らされたことが許しがたいことで……自分のことはどうでもいいのです」



 悔しさをにじませるヒースクリフに妖精が見えなくて良かったと思う。彼、気が弱そうに見えて結構逞しいし、何よりアロイスを尊敬しているからね。妖精を握り締めるくらいのことはやりそうな気がする。



「ピクシーのことはこちらで何とかするので、ヒースクリフはもう休むと良い。荒らされたとは思えないくらい整えられている部屋を見れば、君の丁寧な仕事が分かる。ありがとう」


「……私は側仕えですから、これくらいは当然です」



 アロイスに褒められて嬉しそうなヒースクリフは、言葉では当然だと言っていたけど零れる笑顔を隠しきれていない。ご機嫌なまま退室していった。アロイスに褒められると嬉しいよね、その気持ちは分かる。と微笑ましい気持ちで見送った後に、机に降り立ちいまだ目覚めぬ妖精を覗き込む。



「……起きないね」


「君が何かしたんだろう?」


「わざとじゃないんだよ?むしろ何かしようとしたのはその妖精の方だもん」


「……やっぱりそうか」



 妖精の言葉はアロイスに通じていなかった。風の音のような声で何を言っているかはさっぱりだったけど、表情は見えていたのでなんとなく状況は察していたと聞かされる。そして私なら何とかするだろうから余計に手を出さなかった、と。私の力については完全に信頼されているようだ。



「しかし、何故こんなところに妖精族が居るんだか。学園の森には生息していないだろうし……どこから来たんだ?」


「……誰かの従魔で、迷子とか?」


「従魔の証がついていないからそれはないと思うが」



 妖精族は珍しい種族、というかその存在を目視できる人間が少ないためにあまり確認されていない魔物だ。正確な生息地は不明だが、人間の街からは遠く離れた場所で暮らしているとされている。間違っても町に囲まれた訓練場の森に居るようなものではないし、ましてや学園内に居るなんてあり得ないものである。



『ぅ……なんか体がだるいわ……』



 妖精が身じろいで、ゆっくり体を起こした。ようやく目が覚めたかと妖精を軽く見下ろしていると、ぼーっとした顔だった彼女は私を視界に入れた瞬間に短く悲鳴を上げて固まってしまった。

 そこまで怯えなくても、とかブルーノは怯えなかったんだけどな、とか思ったけれど考え直す。威圧されて恐怖で気絶したら普通怯えるよね。ブルーノみたいなドMの反応を参考にしちゃいけない。

 さて、どう声を掛けるべきか。それとも何か歌うかな、と考えつつ妖精を見ていたら何を勘違いしたのか更にヒィッと息を飲んで這いずりながらアロイスの方に逃げようとする。



「ねぇチョット!アンタ、コレの飼い主なんでショ!ワタシは食べても美味しくないわヨ!止めてヨ!」



 少し拙くはあったが、それは間違いなく人間の言葉だった。ちょっと驚いた。自分以外の魔物が人間の言葉を話しているのを初めて見たから。アロイスも驚いていたはずだが、瞬きしただけでその驚きを押し込めてしまう。私以外の誰かが居ると直ぐ表情を隠すよね、アロイス。



「……こう言ってるが、セイリアどうする?」


「ふざけてないでちゃんと止めてヨ!普通の魔物に人間の言葉は通じないでショ!バカナノ!?」


「食べる気はなかったんだけど、アロイスに馬鹿って言ったから食べてもいい?」


「何でそうなるのヨ!?大体…………ッ何でアンタ喋ってるワケ!?」



 なんというか、忙しい性格をしている。さっきまで怯えていたのに、アロイスに怒って、今は私に驚いて。コロコロと表情が変わるので、見ていてちょっと面白い。こういうのをからかい甲斐のある性格っていうんだろうな。



「そういう貴女も喋ってるじゃない?」


「ワタシは魔王様の(しもべ)なんだから当然ヨ!っていうか、アンタも喋れるならそうよネ?早く言いなさいよ、吃驚したじゃなイ!」



 ぷんすか怒っている妖精には悪いんだけど、吃驚したのはこちらの方である。まさかここで魔王という言葉を聞くとは思わなかったし、驚きすぎて固まりそうだった。

 この妖精は魔王の僕で、魔王の僕である魔物は皆人間の言葉が話せる。だから私のことも魔王の僕だと思っている、と。なにそれ、魔王の部下は知能が高いってこと?それをまとめている魔王とか、怖すぎる。

 しかし、魔王の情報は貴重だ。人間は魔王のことをよく知らないようだし、せっかくの機会なので妖精からできるだけ情報を引き出したい。アロイスも同じことを考えているようで、存在を消すように動かず、静かにこちらを見ている。私に任せる、ってことだね。よし、頑張ろう。



「で、貴女は何しにここに来たの?」


「何って、任務に決まってるじゃないノ。アンタも言われたでショ、最近ここらで強い魔力を観測したって話。原因を探りに来たけど……って、任務内容を訊かないでヨ、こういうのは極秘でショ」


「そっか、ごめんね。貴女名前は?」


「ピクシーのアニッタを知らないなんてアンタモグリ?……ン?そういえば、アンタみたいなカナリー見た事ないワ……それに、人間の従魔をしてるなんておかしいわヨネ……?」



 妖精あらため、アニッタは怪訝そうな顔をした。そしてハッとアロイスを見てその存在を思い出したように青くなった。人間の言葉でずっと喋ってたから当然アロイスに丸聞こえだったよね。そして申し訳ないけど私も魔王の僕ではない。



「ア、アンタ……魔王様の僕じゃないの……?喋れて、化け物みたいな魔力持ってる魔物なのに、違うノ……?」


「ん?私の魔力が強いってなんで分かるの?」


「あんな威圧されたら馬鹿でも分かるわヨ!」



 なるほど。威圧されたら魔力の高さって分かるのか。じゃぁ威圧してしまった魔物には私の魔力の高さがばれてしまっていると……オート発動だからどうしようもないよね。【強者の風格】をオフにできればいいんだけどそんな便利な機能はついていない。



『そんな、魔王様の僕じゃないなんて、どうしよう。喋っちゃったわ……せめて、人間の方だけでも始末……』



 ―――――アロイスを、始末するって?



「アニッタ。この人に何かしたら許さない」



 腹の底からふつふつとわいてくる熱のようなそれは、間違いなく怒りの感情だった。



長くなりそうだったので区切りました。もうちょっと続きます。


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お暇がありましたらこちらもいかがでしょうか。竜に転生してしまったが同族を愛せない主人公がヒトとして冒険者を始める話
『ヒトナードラゴンじゃありません!』
― 新着の感想 ―
おお…、虎の尾を踏んじゃったか、いや、怖さで言えば竜の逆鱗に触れた方かも。 魔王の下僕にしては軽率だな、この妖精族。
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