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お喋りバードは自由に生きたい  作者: Mikura
学園の有名鳥

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38.アロイスの研究



「今日は魔物同士で何をしていたんだ?」



 部屋に帰るなりアロイスに尋ねられて、驚いた。授業に集中していて気づいていないものだと思っていたから。



「普通に世間話をしてたんだけどね。私だけがそれぞれの言葉を理解してて大変だったんだよ」



 まるで気分は聖徳太子という話をして聖徳太子とは何だ、と興味を持ったアロイスに聖徳太子について話すことから始まり、ヴァンダとエルマーは相性が悪いとか、ブルーノが後ろをついてきて舎弟のようだったとか、イナリからラゴウの魔物について少し教えてもらったとか。そういう話をした。

 ラゴウについての書物は少ないらしく、アロイスも知らないことが多いようで、キュウビとヨウコの話は興味深そうに喜びながら聞いてくれた。

 ……アロイスは知識欲が強いから、自分の知らなかった知識に出会ったとき凄く楽しそうな顔をしている。大人びているアロイスの子供っぽい好奇心に満ちた顔は可愛いと思う。



「他には何かあったか?」


「んー特に……あ、そうそう。あのね、他の皆の翻訳がとっても面倒くさかったから全員私の魔力を通して回路を繋げば翻訳しなくても伝わるんじゃない?とか思ったんだけどね」


「まさか……やったのか?」


「え、流石にダメだろうって思ってしなかったよ。本人、じゃない本魔物?に許可なくするのはよくないと思うし」



 一瞬で顔がこわばって、やってないといえば安堵したように息を吐く。そこまでまずい提案だっただろうか?いいアイデアだと思ったんだけど……と首を傾げれば最近よく見るようになった呆れ顔をされた。



「……他人の従魔を奪う方法は覚えているか?」


「えーと……契約の上乗せ?魔力を塗り替えるんだよね」


「ああ。元の主人より魔力量が多ければ簡単だ。魔術を発動するまでもない。君の場合は、言うまでもないな」


「え゛……………アロイス、魔物でも魔物を従魔にできるんだっけ」


「従魔ではなく、眷属にしてしまう。従魔の契約を消すのだから似たようなものだ」



 危なかった。とてもとても危なかった。思いつきで行動しなくてよかった。下手をすれば特クラスの従魔のうち三匹の契約を打ち消して眷属化してしまうところだったらしい。非常に危なかった。

 そこでふとイナリのことが思い浮かぶ。イナリはムラマサの従魔だが、キュウビの眷属だと言っていた。誇らしげにキュウビのことを語るイナリの口ぶりからするとまだキュウビの眷属であるはずだ。



「じゃぁ、イナリは?人間の従魔と魔物の眷属の二重登録みたいなのって出来るの?」


「眷属の魔物が従魔になることはできる。ただ、従魔が後に上位の魔物の眷属になった場合は違う。眷属になると魔物の魔力は変化し、元の魔物とは完全に別物になってしまう。だから契約も切れる」


「うわー……やらなくてよかった」


「全くだ。一瞬肝が冷えたぞ」



 うん、私は思いつきで勝手なことをしたら危ないって教訓だね。ちゃんと自重しようと改めて思う。……でもいつも自重するように心がけているつもりなんだけどな。足りないのかな。足りないんだろうな。



「あぁ、そうだセイリア。今日クラスのメンバーで【仲間の指輪】を作っただろう?」


「うん。……あ、もしかして私のコレは使えなくなるの?」



 自分の片足を持ち上げ、銀の装飾品を見せながら問う。私の足にも指輪の形ではないが【仲間の指輪】が着いている。アロイスと私がパーティーを組んでいる証だ。でも、今回の授業でアロイスはクラスの四人と新たに【仲間の指輪】を作ったのだ。

 せっかく絆レベルも上がったし、私の【仲間の指輪】はアロイスが私を従魔にしたくないと思って作ってくれた、友達の証みたいなものだからずっとつけていたいんだけどな。



「いや、【仲間の指輪】は装着できるならいくつでも使える。お互いに装着しているなら遠く離れていても効果が出ることもあるらしい」



 【仲間の指輪】は複数つけることができる。しかし同じメンバーで指輪を何度も作り、二重三重の登録をしても得られる効果は変わらないし、ジャラジャラと指輪をつけるのも作業の邪魔になるので、使用しないメンバーの指輪は外して過ごすのが普通だとか。

 例えば今のクラスメイト達とアロイスと私が魔物狩りにでかける。アロイスはクラスメイトと私の指輪の二つを装着して戦闘に参加する。その時魔物を倒したとして、アロイスが指輪を二つ着けていても手に入る経験値は変わらない。その場にいる全員が同じだけの経験値をもらうか、絆レベルの高い私とアロイスだけ少し多くもらうかになるだろう。

 その他にも指輪は二つ装着したまま私とアロイスだけで魔物を倒しても、クラスメイトにわずかながら経験値が入る可能性もあるらしいが、これは絆レベルが上がらないと起こらないだろうとも言われた。



「君が一人で狩りに行ったとしたら、私に恩恵がくる可能性はあるな」


「絆レベル高いもんね」



 絆レベルが上がった、というのは分かるのだけど正確な数値が見えるわけではないから、何度あがって今何レベルなのかというのは分からない。十回は上がったはず。二十回は……ないかな。というくらいで。その恩恵として、私とアロイスが近くで戦うと攻撃が急所に当たりやすかったり、魔法を使って減った魔力の回復が早かったりするようになった。恐らく経験値も多めに貰っているんだろう。私はレベルがあがらないので分からないけど、アロイスの成長は早い。……いや、アロイスも【天才】ってスキルがついてるから正確には分からないけど。

 こういった絆レベルによる恩恵は、アロイスが戦闘経験を積むために一人で戦った時に分かったことだ。私がやると全部一撃なのでよくわからないんだよね。戦闘が一瞬で終わりすぎる。



「しかし、絆レベルという概念は興味深い。色々と研究してみたいな」



 通常【鑑定】を持つ者は誰かとパーティーを組んで魔物狩りに出かけるようなことはないらしい。国に保護され、危険のないように厳重に護られ城内で鑑定の仕事をさせられるという。だから絆レベルなんてものが今まで知られることはなかった。

 ……ある意味監禁のように思えるが裕福な生活が保障されるので、嫌がる者はいなかったという。私はそんなの嫌だけどね。

 知識欲の強いアロイスは、絆レベルについての考察をしては紙に書き留めている。自分が被験者なので、体験した事柄を細かに記すことができるようで、面白そうな研究資料となっていた。絆レベルが上がる度に何か変わったことはないかとワクワクした様子でいろんなことを試してみるのだ。そういう時の顔は子供っぽくてアロイスの気持ちがよく表れていると思う。キラキラしてて綺麗で可愛い。



「【仲間の指輪】を誰かが失くして一度破棄し、新しく作り直したパーティーに恩恵の変化があったかどうか調べたいな。絆レベルは初期化されるのか?」


「気になるのは分かるけど、やらないでね……?」


「君との指輪でする気はないから安心していい」



 アロイスは唇を親指でなぞりながら、ひとしきり考察を漏らすと小さく息を吐いて、こういう研究をしている教師が居ないものか、と言い出した。

 そう言えば、この学園で研究所に入れば実家に帰らなくてもいいって話があったような。



「アロイスはどこの研究所に入るつもりなの?」


「エトガー先生の魔力属性研究も気にはなるが、今のところペトロネラ先生の魔物研究所を考えているな」


「アロイスって魔物にそんな興味あったっけ?」



 ペトロネラの全力で魔物に食いつく姿を見ているので、彼女の研究所には魔物大好き人間が集まっているイメージがある。アロイスがそこまで魔物に情熱を持っているようには思えないし、アロイスがペトロネラと一緒になって魔物について熱く語る姿は全く想像できない。不思議で首を傾げていると、何故わからないんだ、という顔をされた。



「毎日君を見ていて魔物が持つ力に興味を持たないはずがないだろう」



 私が原因だったようだ。まぁ自分でも色々可笑しい魔物の自覚があるので、アロイスのような知識欲旺盛な人間からすれば不思議を謎解きたくて仕方ない存在なのだろうなと納得できる。私も自分のことがよくわからないしね。



「君は興味が尽きないからな。普通の魔物との違いについて調べてみたい。あぁ、でもエトガー先生の研究室にも顔は出す。来てほしいと言われたしな。やることが多いので、家に帰る暇はなさそうだ」


「うん、マグナットレリアには帰らないってことだね」


「違うぞセイリア。帰らないのではなく、帰れないんだ。分かったな?」



 そういうアロイスはとても楽しそうだ。うんうん、学園で好きなだけ好きな勉強をすればいいよ。楽しそうでなによりです。と安心しきっていた私は、この学園における頭痛の種の存在をすっかり頭の隅に追いやって、忘れてしまっていた。





次回は久々にあれがやってくる予定です。

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お暇がありましたらこちらもいかがでしょうか。竜に転生してしまったが同族を愛せない主人公がヒトとして冒険者を始める話
『ヒトナードラゴンじゃありません!』
― 新着の感想 ―
久々に読み直してるけど、絆レベルってあれじゃん某携帯獣の仲良し度! 以前読んでた時はやってなかったから気付かなかった……!
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