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お喋りバードは自由に生きたい  作者: Mikura
名もなき鳥モンスター
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3.攫われた先

自由になるための壁は高い……


 藁が敷き詰められた狭い箱の中。兄弟たちは怯えて震えながら、私にくっついて小さく鳴いている。

 袋に詰められ攫われた私たち三羽は、暫く移動した後、この箱に詰め替えられた。どうやら馬車の上らしく、ガタンゴトンと結構激しい振動がある。それを緩和するための藁なのだろうが、あまり意味はない気がする。普通の雛なら死んでるぞ、とも思ったのだが私たちはモンスターの類であるようなので、馬車の揺れごときでどうこうなるほど貧弱ではなかった。



「今回は大収穫だな。カナリーバードの雛が三匹。しかもそのうちの一匹は変異種みたいだしよ」


「睡眠耐性持ちだったか?運がいい。暫くはいい酒が飲めそうだな」



 私たちをさらった人間は、どうやら野生のモンスターを狩っては売りさばくハンターらしい。ということが会話を聞いていて分かった。情報収集は大事だ。男たちの会話に耳を澄ましてじっと聞き入る。


 それによって得た情報は、私たちは裕福な者に愛玩用として人気のある“カナリーバード”というモンスターであること。知能が高く、人の言葉を覚えて真似をして喋る個体もいるということ。カナリーバードの品評会もあり、金持ちの娯楽に必要不可欠なモンスターであること。そして私が睡眠耐性持ちの特殊個体らしい、ということだ。


 私たちは今からペットショップならぬモンスター屋に連れていかれ、金持ちに売られる前に躾をされるらしい。幼いうちから教育して、人間に逆らわないようにしなければならない。大きくなる前に人間に対する警戒や敵対心を失くせなければ、モンスターは処分されるのだとか。



(うわあ……つまり、従順なペットになっておかないといけないってこと?嫌だぁ……)



 神様、私を自由にするために生まれ変わらせてくれたんじゃなかったんですか。酷いです。まさか自由に飛べる鳥になった後どういう鳥生を歩もうと知ったこっちゃないなんて放任主義じゃないですよね。アフターケアまでお願いします。

 などと考えてみても現実が変わる訳もなく。親鳥が助けに来てくれることを祈ったが、ハンターたちの腕がいいのか、いなくなった子供を探す程愛情深い種類ではないのか。私たち三羽の雛鳥は無事に人間の町のモンスター専門店に連れてこられてしまった。


 箱のままどこかに連れていかれ、ハンター達が店の主人らしき男と商談を始め、値段を決める前に検品をするという流れになり、ようやく箱の蓋が開いた。



「ほうほう……青のカナリーバードとは……これはいい商品になりそうですね」



 箱を覗き込んで私たちを見るのはモノクルを掛けた、どことなく怪しい雰囲気の男だった。この人物がおそらくモンスター屋なのだろう。肩に届くような長さの真っ赤な髪は、癖が強いらしくくるくると円を描いているのが特徴的だ。その灰色の目は私を無遠慮に見回して、強欲な色を浮かべて笑っている。物を見る目。それが嫌で、少し身じろいでしまう。

 私はもう人間でなく、モンスターで。人間にとっては商品か、害悪な野獣のどちらか。そういう存在なのだと再確認させられた。



「だろぉ?それに睡眠耐性持ちだぜ、高く買い取ってもらいたいね」



 ハンターの声でモンスター屋の目が私から離れる。商談に戻るらしい。ほっとしつつ、会話に耳を傾ける。



「耐性持ちかどうかは後で確かめさせていただきます。もし確認がとれなかったら、通常種を一匹一万リン。色変わりを三万リンで引き取りましょう。確認が取れたなら、いつもお世話になってますし色を付けて……三匹合わせて十万リンでいかがですかね」


「じゅ、十万……悪くねぇな。それで売ろう」


「では売買成立ですね。契約書にサインを」



 “リン”というのが通貨らしい。一万とか十万とか、それがどれほどの価値を持つのかはよくわからないが、結構な額のようだ。ハンターの声が喜びで弾んでいるように聞こえる。

 確認が取れるまではすべての額を渡すことはできないが、確定している金額の五万リンは先に渡しておく。とお金を渡されたらしいハンターが上機嫌に鼻歌を歌いながら店を出ていくのが、遠ざかる音で分かった。その気配が全く感じられなくなってから、モンスター屋の呟きが降ってきた。



「これが十万ぽっちな訳ないだろう。馬鹿な男だ」



 灰色の目が、再び私をとらえた。



「稼がせてもらうぞ、モンスター。何、俺は一流の調教師だ。直ぐに売り物にしてやる」



 私の兄弟達にまで、この男の言葉が分かるとは思わない。ただひたすら冷たい目と声に、妙な威圧を受けて兄弟達は竦んで動けなくなってしまったようだった。二匹の固まり方は不自然なほどで、心配になって小さく呼びかけてみるが返事はない。どうしてしまったのだろう。



「ん……?お前、恐怖耐性も高いのか。いや、知能や魔力が高いのかもしれんな。雛のくせにこれでテイムできんとは……流石変異種だな」



 ニヤリ、と物凄く寒気のするような笑みを浮かべられて思わず後ずさった。私、もしかして兄弟達と同じような反応をして過ごさないと変に期待をかけられて、余計に色々されてしまうのでは……。



「お前は別メニューだな。腕が鳴る」



 ……………気づくのが少し遅かったらしい。




次は…躾ですかね

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お暇がありましたらこちらもいかがでしょうか。竜に転生してしまったが同族を愛せない主人公がヒトとして冒険者を始める話
『ヒトナードラゴンじゃありません!』
― 新着の感想 ―
そういえば兄弟と意思の疎通できないっぽい?
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