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お喋りバードは自由に生きたい  作者: Mikura
学園の有名鳥

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32.食事と魔物勝負の話し合い



 貴族学園の食堂は凄かった。何が凄いって、空いている隅の方の席に座ろうとしたらさっと現れた燕尾服の人たちが椅子を引いてくれて、さっと場を整えて、さっと料理を運んで来て、あっという間に食事の用意が整った。……凄いな貴族学園。

 ピーアとアロイスは向かい合わせて座っていて、体の大きいブルーノは邪魔にならないようにピーアの後ろで伏せている。私はアロイスの邪魔にならないように、椅子の背もたれの上に乗っかる。……普段なら机に乗って一緒にご飯を食べるんだけど、今はピーアがいるからね。魔物と食事をしたがる奇特な貴族はそうそういない。



「ここの食堂は使用人を連れてこなくてもいいから楽だね」


「そうですね」



 私には分かるよ、アロイスが驚いているのが。最近ヒースクリフに給仕をしてもらうようになったけど、何でもしてもらうことに慣れていないアロイスにとって、こうやって見知らぬ他人が何でもしてくれることは身構えてしまう出来事だろう。

 何でもないようにそれを受け入れているピーアが頂こう、と食事を促したことによって二人の昼食会が始まった。



「我今幸いに神々の恵みを受け、この清き食を頂くことに感謝を」



 元の世界でいう食前の「頂きます」の丁寧版というか、貴族版の言葉だ。アロイスは他人が居ないところだと「感謝を」だけで済ませてしまっていたので、この学園に来てから聞くようになった言葉である。そのため、まだ私はこの食前の言葉を覚えていない。私もいただきますが言いたいので早く覚えたい。……小難しい言葉の羅列って覚えにくいよね。



「魔物勝負のことなんだけど……」



 優雅に食事をしながら話し合いが始まった。喋りながら食べているというのに全く品を落とさないピーアに、言葉遣いはともかくとして本当に貴族なのだな、と思う。アロイスも話を聞きながら静かに食べ始め、少しずつを小皿に取り分けて脇に避けている。……あれ、私の分かな。そう言えばお腹空いたな。


 彼女の提案は簡単に言うとこうだ。魔物勝負と言っても、お互いの魔物を直接戦わせるのは心配なので、狩りをして勝敗を決めるという方法を取る。勝負の内容は狩った魔物の数でも、魔物の強さでも、魔物を狩るまでの早さでもなんでもいいからアロイスの好きなものを選択してほしい。場所はこの学園の森を考えているけどどうだろうか、と。

 その提案を聞いて私はほっとしていた。直接対決じゃなくてよかったよ。ブルーノ相手にどうやって手加減していいかわからないし、あまり近づきたくないからね。とステータスを鑑定しつつ思う。正面から顔を見た者の鑑定はいつでも行えるから、ついでにピーアの鑑定もしておいた。……なんというか、納得のステータスだった。スキルに【狩人】や【弓術】がある。あの戦い方を見るとそのスキルは身について当然、なのだろう。ブルーノには【韋駄天】という俊敏さの上がるユニークスキルと【狩鳥】という私と同じスキルがついていて、なんだかこう、何とも言えない気持ちになった。

 ……同じものがちょっとあるだけで妙な気持ちになるなんて、私は余程ブルーノが苦手らしい。でも、苦手にならないはずがないと思うんだよ。初対面であんな変態的なセリフを聞いたらそうなるよ。



「勝負方法は一晩考えてみます。明日返答させてください」


「うん、頼むよ。……あと、気になってたんだけどその小皿に取り分けた料理はどうするの?」


「セイリアの食事です。普段セイリアは私と同じものを食べていますから……後で食べさせますので、お気になさらず」


「へぇ、そうなのか。あ、僕魔物が食卓に着いても気にしないよ。待たせるのも可哀想だから、食べさせてあげなよ。ちょっと見てみたいし」



 ピーアが驚いた後、期待するように私を見た。そんな目をされても特に期待されるようなことはできない普通の食事なのだけど。……あぁでも、小動物の食事風景ってつい見てしまうし、可愛いと感じるからアレと似たような気分なのかもしれないな。



「……それなら、遠慮なく。セイリア、もう食べていい」



 アロイスの許可が出たので、机に飛び乗って取り分けられた小皿の前に来る。軽く頭を下げながら「感謝を」と言葉にしてから食事を突いた。この牛肉、まことに美味。ワイン煮込みかな、いい香りがする。嘴以外を汚さないように慎重に身を解しながら肉を食べ、サラダをつつき、冷めたポテトも頬張る。うん、美味しい。最初は気を付けていたのだけど、空腹と食事のおいしさに我を忘れて顔がちょっと汚れてしまった。食後の言葉の簡略版の「祈りを」という言葉で食事を終わらせた後、アロイスがおしぼりのような濡れたタオルで顔を拭いてくれた。お手数おかけしてどうもすみません。



「食事の言葉を食事の前後にちゃんと言えるところが凄いね。どうやって調教したんだい?」


「それは秘密、ということで」


「そっか。アロイス殿は王都で調教師か、魔物使いになったら未来が開けそうな気がするね」



 ピーアの言葉にアロイスは答えなかった。アロイスは将来、テオバルトという兄を支えなくてはいけないと思っているから。しかしそれを口にするような親しい間柄の相手でもないから、答えないのが無難なのだ。

 ……でも私もそう思うよ。【調教の才】というスキルを持っているアロイスなのだから、魔物を扱う仕事をしたらきっと大成功する。少なくとも、自分を嫌う領主の元でこき使われるよりはずっといいと思う。



「我今この清き食事を終え、この身と心に力満ちたことの感謝の祈りを神々へ」



 食後の言葉で二人の食事兼相談は終わり、燕尾服の人々によって椅子を引かれて席を立つ。後片付けをする気配を背後に感じながら食堂を後にした。もう少し休憩をしたら、午後の授業である。食後の散歩に行くというピーアと別れて私たちも人気のない場所を探して歩き始めた。

 特クラスの教室に近い場所で、木々が立ち込めて薄暗い中庭を見つける。あたりに人の気配はない。特クラスの教室付近ということは棟の入り口からは最も遠い場所だ。あまり人が寄り付かないのだろう。ぽつりと寂しく存在するベンチにアロイスが腰掛けて小さく息を吐いた。



「……まさか午前中だけでこれほど疲れるとは」


「えーと……お疲れ?」


「一部は君のせいでもあるんだが」



 歌の件ですねごめんなさい。それは悪かったと思っています。という思いを込めて頭を下げておいた。アロイスがもう一度小さく息を吐く。



「他人と同じ空間に居ると息が詰まりそうだ。それが何より疲れる」



 アロイスはずっと一人で過ごしてきた。周りに居る人間は全く信用できなくて、誰かが居る時は緊張することが癖になっている。だから知らない人間と同じ空間で過ごさなくてはならない学校というシステムは苦痛らしい。テオバルトと同じ部屋に放り込まれるよりはマシだそうだが。



「……セイリアが居て良かった。君がいつも通り近くに居るだけで、少し気が楽になる」



 ぽつりと零された言葉には私に対する信頼と親愛の情が感じられて、じわりと温かい気持ちが湧いてきた。私が初めて会った時の彼は、どこにも支えがなくて今にも折れそうな少年だった。今は私を支えだと感じてくれているらしい。



(……私、信頼されてるんだな)



 そう、改めて思う。よく問題を起こしてため息を吐かせる私だけど、もっとアロイスの役に立ちたい。もっと頼って欲しい。

 少しでもアロイスの疲れが癒せれば、と私は彼の膝に飛び降り、その顔を見上げた。



「アロイス、アニマルセラピーって言葉が私の世界にはあるんだよ。可愛い動物に精神が癒されるとかいうやつでね、ほら、私を撫でて良いよ。私、癒しになるよ」


「君が可愛い動物かどうかは少し疑問だ。そもそも動物ではなく魔物、それに見た目はともかく中身がな……」


「酷い!」



 膨れる私の頭をアロイスが笑いながら撫でた。気持ち良くて目を閉じる。元からほとんどなかった怒りは綺麗に霧散して、気持ちよさに囀りを零しながらアロイスの指を堪能した。

 ……アロイス、撫でるの上手なんだよね。凄く気持ちいいんだよ。



「さて、鐘が鳴る前に戻るぞ。ここは遠いからな」


「はーい」



 ちょっと元気になったアロイスの顔を見て満足した私は、いつも通り彼の肩に飛び乗った。午後の授業も頑張ろう。……私が受けるわけじゃないんだけどね!






――――――――



【名前】ピーア=サウズランカ

【種族】人間

【称号】サウズランカ領主の子

【年齢】12

【属性】木


【保有スキル】

狩人・弓術・森林の子


【生命力】B

【腕力】B+

【魔力】C

【俊敏】B+

【運】B



【名前】ブルーノ

【種族】フォレストイーグル

【称号】ピーアの従魔

【年齢】2年

【属性】木


【保有スキル】

『韋駄天』・狩鳥


【生命力】B+

【腕力】B+

【魔力】C-

【俊敏】A-

【運】F



ピーアとブルーノのステータスも載せました。ブルーノはとても優秀な魔物です。性格はあれだけども。


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お暇がありましたらこちらもいかがでしょうか。竜に転生してしまったが同族を愛せない主人公がヒトとして冒険者を始める話
『ヒトナードラゴンじゃありません!』
― 新着の感想 ―
ブルーノ、運がF。変態だから?お、女の子(鳥)にモテないとかそういう系?
…変だな。ブルーノの称号に変態系のやつがないぞ?
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