28.特クラス
新キャラばりばりでてきます
夜である。アロイスの夜の支度を終わらせてヒースクリフが帰った後のゆっくりとした時間のことだ。
何か気配が近づいてくるな、と思ったら鳥がバサバサと飛んできた。異種の鳥を見るのは初めてでつい凝視してしまう。白地に黒のまだら模様をした鳥は、窓際に止まってコンコンと嘴で窓を叩いて到着を知らせる。その音で鳥の存在に気づいたアロイスは当然のように鳥を部屋に招き入れた。
あとで聞いたところによるとキリッとした顔で結構イケメンに見えるその鳥はコンタクトバードと呼ばれる伝書鳩のような魔物らしい。
背中にリュックのような鞄を背負っていて、そこから紙を取り出すと去っていった。
アロイスが広げた紙を、私も一緒に覗き込む。そこにはアロイスのクラスについてと明日から向かう教室の場所などが書かれている。
「特クラス……?」
「あぁ、総合評価Bを受けた者が入る。所謂優秀者クラスだな」
「アロイスは総合評価Aじゃなかった?」
「普通、Aなんて評価はでないから専用のクラスはないんだ」
そっか、アロイスは規格外だもんね。と納得していたらスッと金の瞳が私を捉えた。君に規格外だと思われたくない、と考えている気がする。絆レベルが上がったからなのか、それなりに長い時間を共に過ごしているからなのかは分からないけど以心伝心もばっちりだ。
「……このクラス、従魔は籠から出して連れ歩いていいらしい。移動に使ったり、荷物を運ばせたりするようだが」
私は書類上アロイスの従魔となっているし周りの認識もそうだが、実際はただパーティーを組んでいるだけだ。従魔でない私を籠から出していいのか訊いてみたら、問題ないとのこと。従魔でない魔物は命令を聞かないから脱走を防ぐために籠に入れているのであって、私の場合はそのあたりを心配する必要はないから、と。
たしかに、私はアロイスから逃げるつもりはない。約束もあるしね。
「じゃぁ、明日からはいつも通りアロイスの肩に乗っていいってこと?」
「そういうことだ」
「よかったー……授業中もずっと籠の中って、落ち着かなかったんだよね」
アロイスは基本、移動以外私を籠に入れることはしなかった。窮屈な鳥籠、しかも魔力を遮断するから違和感がある場所でどうしても落ち着けない。授業に魔物は必須と聞いてからちょっと不安だったのだ。明日からはアロイスの肩に止まって移動できる分、以前よりも気楽かもしれない。やったね。
――――と思っていた時期が私にもありました。
初回の授業は新入生のオリエンテーションみたいなもので、領ごとに行われていたから他の領地の人間に会うことはなかった。しかし今日からは違う。領別ではなく、能力で分けられたクラス別だ。クラスは棟で分けられていて、特クラスの集まるB棟に向かう途中、すれ違う人々の視線が突き刺さるようだった。
アロイスに向けられる視線ではない。私に向けられる視線だ。私を見てハッと息を飲んだり、二度見三度見したり、凝視して固まったり。反応はそれぞれだがとにかく出会う人出会う人全ての視線を受けてとても居心地が悪かった。
B棟の最奥が特クラス一年生の教室だったのだけど、そこまでがとても長くて、到着した時はもう疲れていた。
……私が何をしたっていうんだ。身に覚えが……そういえば、部屋まで運んでくれた使用人が噂がどうとか言っていたような。
教室のドアも自動で開くようで、重たそうな扉がスッと左右に分かれていく。教室に用意されている席は五つ。白く磨き上げられた長机と柔らかそうなクッション付きの椅子がセットで五個横並びになっている。それぞれの後ろがガラリと空いているのはきっと魔物のスペースだろう。既に真ん中の席に着いている生徒が居て、その隣には犬のような魔物が控えている。アロイスは一度教室を見渡した後、窓際の席に座った。日当りのいい窓際、好きだよねアロイス。私も好きだけど。
私はアロイスの肩に止まったまま、真ん中の席の生徒を観察する。淡い青の真っ直ぐな髪に黒い目をした美少女だ。清楚とか、御淑やかとかそういう言葉が似合う。視線を下の方に向けて魔物の方も観察しようと思ったが真っ赤な瞳と目が合った。ガン見されている。え、何?獲物認定ですか?
犬の様だと思ったが、顔つきからして狼だ。黒い毛並みに赤い目をした狼。じっと見られているので私もしっかり見つめ返す。野生では目をそらした方が負けだと聞いたことがある。負けてなるものか。
「お、噂の……青いカナリーバードってことはそちらはマグナットレリアのアロイス殿かな?」
私たちの睨み合いが終わったのは、次に教室に入ってきた生徒が視界を遮る壁になったからだった。そしてまた噂のなんたらと言われる。だから噂ってなんだ。
それを言ったのは銀髪に緋色の目をした少年だ。顔を見た瞬間に思ったのはコイツ女タラシだな、だった。そして多分、それは間違っていない。
「そしてそちらの美しいお嬢さんは……ミョンルグルガのソフィーア様ですね?私はセディリーレイのドミニク。ドミニク=セディリーレイです。どうぞよろしくお願いします」
アロイスと美少女の間の席に座って、輝くような笑顔で美少女に話しかける少年。アロイスのことはすっかり忘れているようだ。美少女しか目に入っていない。美少女の方は「よろしくお願いします」とこぼした以外は無反応で、目を瞑りドミニクの言葉を聞き流している。
……えーと、セディリーレイ領のドミニクとミョンルグルガ領のソフィーア……駄目だ、直ぐ忘れそうな気がする。アロイスは忘れないだろうから必要な時は教えてもらおう。と直ぐに覚えるのを諦めると、アロイスから呆れの視線が飛んできた。……何故わかった。何も言ってないのに。
(そういえば、ドミニクの魔物は……)
瞬間、ちょっと嫌な予感がして私は飛んだ。先ほどまで私が止まっていたあたりを茶色の塊が通り過ぎて行った。狙っていたものが消えた所為か、上手く着地できなかった茶色の塊が床をゴロゴロと転がる。
「ヴァンダ!!!」
「ギャンッ!!」
―――ヴァンダと呼ばれたその魔物は、急な激痛に苦しむような悲鳴を上げて軽くのたうち回った後大人しくなった。茶色に縞々模様のそれはどこからどう見ても猫である。アロイスの肩に戻りながらそれを観察する。細く長い手足に、少し凶暴そうな顔つきだが間違いなく猫だ。どこかしょんぼりと沈んだ様子の猫は、ドミニクの椅子の下に丸まりながら不貞腐れたように小さく鳴いた。
『あれくらいじゃあの鳥は死なないっての……ちょっとじゃれただけじゃない』
……気のせいかな?ニャーって聞こえたはずなのに何故か頭の中で言葉に変換されたような。
『化け物みたいなオーラ出してて普通のカナリーだったらおかしいでしょ。ちょっと試しただけよ。何が悪いのよ』
「ヴァンダ、静かにしないか。すまないアロイス殿。うちの従魔がとんでもないことを……」
ドミニクの謝罪が始まったが私はそれどころじゃない。静かにしろと言われたヴァンダは黙り込んだがやっぱりさっきのは気のせいじゃなかった。ヴァンダの喋っていることが、私には分かる。
……これ【言語理解】スキルのせいだろうか。人間の言葉は当然分かるし、鳥の言葉も鳥だから理解できるとは思っていたが他の知能のある魔物でも通用するスキルなのか、これ。
『恐ろしい威圧感だからな。弱き者が耐えきれず飛びかかるのも分かる』
今度は小さく零すように鳴いた狼の声が変換された。ヴァンダには異種族だから言葉が通じないのか、完全に馬鹿にされているけれど無反応だった。
………これ、あとでアロイスに相談しよう。魔物の言葉が分かるスキルって、結構使い道ありそうじゃない?
新キャラと領地の名前がバンバンでるので分からなくなりそうだなと……設定ページ作っておいたほうがいいでしょうかね?




