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お喋りバードは自由に生きたい  作者: Mikura
貴族の飼鳥

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18.社交界デビュー

あけましておめでとうございます。酉年ですね。お喋りバードもがんばります。

ことしもよろしくおねがいします!



 キラキラ輝くシャンデリア、長いテーブルに並べられた料理、色とりどりのドレスや装飾品、耳馴染みのない音色の音楽。そう、社交界である。

 シャンデリアや貴婦人が身にまとう宝石の類に目が引き寄せられてしまう。やっぱり私、鳥の習性でキラキラしたものが好きらしい。


 私はいつもとは違う、繊細な造形の細工が施された豪華な金の鳥籠の中だ。会場の前方に設置された台の上に置かれている。ここからだと会場全体がよく見えるので、興味ありげにチラチラとこちらに視線を向ける者は沢山居るが、まだ誰も近くに寄って来ない。間近で観察してはいけないというルールでもあるのかな。


 そんな会場の前方にある扉が開いた。ざわついていた場内が静まり返る。堂々と入場してきたのは四人だ。明るい金髪で青い瞳の男性は領主。その領主にエスコートされる紺の髪に紫の瞳の女性がきっと領主夫人で、その後ろに続くのがテオバルト、そしてアロイスだ。領主一族がゆったりとした歩みで会場入りを果たすと、会場内の貴族達が順に挨拶に向かう。



「フィリベルト様、この度はお招きいただきましてありがとうございます」


「ビアンカ様は今日もお美しくていらっしゃる」


「テオバルト様もお元気そうで」



 皆が皆、領主一族の前で指を合わせて軽く腰を落とす挨拶をしている。まぁドレスじゃ膝をつくの難しいもんね。略式の挨拶なのかもしれない。

 貴族の挨拶を眺めていると、ふと気づいた。アロイスに挨拶が向けられることがとても少ない。殆どが領主夫妻への挨拶を終えるとテオバルトに声をかけて去っていく。時々アロイスに一言かけていく貴族も居るが、ほんの少数だ。

 ……領主一族内でのアロイスの扱いが、他の貴族にも伝わっているんだろうな。ビアンカから厳しい目を向けられたくなくて皆アロイスを避けているのではないだろうか。


 挨拶が終わると、フィリベルトからの挨拶が始まった。今回は季節の始まりの宴だが、アロイスの従魔であり領主一族のカナリーバードのお披露目も行うというようなことを長ったらしく喋っている。その挨拶が終わると、ぞろぞろと貴族達が私の前に移動してきた。

 ……中々の威圧感である。大勢で凝視されると緊張するので止めていただきたい。無理だろうけども。



「青いカナリーバードとは……珍しいですな。それにとても美しい色だ」


「アロイス様の従魔なのですってね。これだけ美しければ、従魔にしたくなるのも分かります。誰にも奪われたくないでしょう」


「女性なら分かりますが、率先して魔物を狩るべき領主の子が戦える枠を一つ減らして、戦闘の上で役に立たないものを従魔にするのは少々……いえ、なんでもありません」


「まぁ、アロイス様は次期領主でないし、自覚が足りないのは仕方のないことで―――」



 貴族達は口々に私を褒めた後、何故かアロイスの批判をしていく。近くにビアンカが居るからかもしれないけど、私からすれば不愉快極まりない。そのせいか苛立ちで少し毛が逆立って膨れてしまった。ソレを見た男性貴族が笑顔のまま毒を吐き始める。



「そういえば、全く鳴きませんな。それに膨らんでいて体調が悪そうだ。カナリーバードの仕込みも従魔の管理も出来ていないとは……」



 あ、もう、ホントムカついた。私が人語を解して喋ることは秘密だから、反論はできないけど。よし、やってやる。アロイスを批判できないように、私は頑張る。



「見た目の美しさだけですな、このカナリーバードは」


『見た目の美しさだけですな、このカナリーバードは』


「………え?」



 驚いて目を丸くする貴族。私の鳥かごの周りだけに静寂が訪れる。誰もがこちらを見て、驚きで固まっていた。



「今のはこのカナリーバードか?」


『今のはこのカナリーバードか?』



 声真似つきでそっくりそのまま同じ言葉を返してやる。所謂鸚鵡返しだ。静かだった一帯にざわめきと共に驚きが広がっていく。

 カナリーバードという魔物の性質は、元の世界で言うならお喋りインコによく似たものだ。何度も繰り返して言葉を教えると真似をする。意味は分かっていないので、言葉があちこちで混ざり意味のない言葉になることもしばしば。決して一度聞いた言葉をそのままそっくり返すことが出来るようなものではない。元人間の私だから、出来ること。


 驚いた貴族達に次々に掛けられることばを真似して返していく。盛り上がるこの場の騒ぎにどんどんと人が集まって、野次馬が増えていく。



「この仕込みはアロイス様がなさったのでしょうか。一体どのようにしたらこのようなことが出来るのでしょう」


「美しい青でここまで賢いとは……羨ましいですね、私もこのようなカナリーバードが欲しいですよ。アロイス様、これはどのような調教をなさったのですか?」



 私が言葉をそっくり真似することを、アロイスの仕込んだ芸だと勘違いした貴族たちがアロイスに話しかけている。アロイスはにこやかな笑顔で秘密ですと答えていた。うん、アロイスの評価が上がって私は嬉しいよ。

 ……笑顔なのに表情が険しく見えるビアンカとテオバルトは出来るだけ気にしないことにする。



「……あの鳥をここまで仕込んだのか。アロイスには調教師の才能があるやもしれんな……ふむ、他の魔物も育ててみるか?お前ならいい従魔を持てそうだ」


「父上……」



 フィリベルトの言葉に周囲が驚いている。その理由はよくわからないが、テオバルトの苦々しそうな表情から察すると、力を認められたとか栄誉なことなのかもしれない。あとでアロイスに訊いてみよう。



「とても嬉しいのですが、私は今の従魔と出来ることをもっと模索したいと存じます」


「そうか。ならばそうしなさい」


「……はい。ありがとうございます、父上」



 アロイスの笑顔は控えめだったけど、私にはとても嬉しそうに見えた。

 ビアンカに頭の上がらない弱い夫だし、浮気しちゃうし、私はいいイメージを持っていなかったのだけど、アロイスは父親であるフィリベルトがそれなりに好きなのだろう。楽しそうに会話している。

 アロイスが嬉しそうだと私も嬉しい。自然とご機嫌な囀りがこぼれる。



「美しい声だこと。この声で歌でも奏でてくれればよいのだけど……アロイス。森へ連れていくくらいなのだから歌の一つくらい教えているのでしょう?歌わせなさい」



 テオバルトによく似た嗜虐性を含む紫瞳が、アロイスをとらえながら楽しそうに歪んだ。




頑張れセイリア!まけるなアロイス!

という気分で書いています。



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― 新着の感想 ―
アロイスの母親を毒殺なり闇討ちして葬ったんだろこの夫人 今までよく生きてたなアロイス・・・ でも、この先は命を狙われるかも、家督とかかと(ry
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