名前
夢を見ていた。
幽霊のように透明な僕を、子供の僕が通り過ぎる。
これは僕が……小学生の頃かな?
何年生の頃かな~。
ま、夢だし何歳でもいいよね。
僕は薄汚れた黒いランドセルを背負っていた。
これは登校の時かな?
今となっては懐かしい風景だね。
周りにも僕と同じ小学生がいるけど、僕の近くには誰も近寄らない。
僕を見てひそひそしてるだけだ。
僕の噂かな?
もしや!
『ねぇねぇ、あの子格好よくない?』
『うわっ、ホントだ!あたしめちゃくちゃタイプ~』
とか言ってるに違いない!
え~子供の僕そんなにかっこいいかな~!
女子の一人や二人楽勝ですかね!
これはハーレム確定ですかね!?
うん、冗談だよ。
むしろ逆だ。
どういう意味かって?
そんなの見りゃ誰だってわかるでしょ。
イジメってやつだよ。
イ・ジ・メ。
教室に入ると、案の定な光景が広がっていた。
黒板にでかでかと書かれた死ねという単語。
これまた死ねなどの悪口が彫られた机。
そして隠された上履き。
その他にも色々な事をやられたし、やらされた。
全く、子供のやることは恐ろしいよ。
ん?
僕もまだ子供じゃないかって?
残念。
心は大人なんだよ。
少なくとも、イジメを容認して更に加担までする教師よりも、ずっと大人だと思う。
ま、自称大人はそんなこと認めないだろうけど。
あの頃の僕、めちゃくちゃ暗かったからね。
更に捨て子ともなれば、むしろイジメられない方がおかしいよね。
身体が小さい。
性格が暗い。
捨て子。
うん、イジメられる理由のオンパレードだね。
そんなこんなで、僕はイジメに遭っていた。
場所が移った。
ここは……公園かな?
体育座りしている子供の僕の頭に、サッカーボールが当たる。
サッカーしようぜ!お前ゴールな!ってやつかな?
ちなみに顔が百点、その他が十点だ。
僕は抵抗しない。
抵抗した所で意味が無いからね。
「こりゃぁぁぁあああ!!!」
その時、一人のおじいさんが怒鳴り込んできた。
ボロボロの格好と伸びっぱなしの髪と髭から、この公園に住んでるホームレスだとわかる。
「うわっ!またニート爺がきた!」
「誰がニート爺だクソ餓鬼がぁぁぁ!」
イジメっ子たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
ニート爺は僕に近寄った。
……で、僕の頭をチョップした。
「いてっ!」
「当り前じゃ!ちょっとはやり返せ!」
ああ、そうだった。
そういえば何回もチョップされたなぁ。
それが、僕がいじめられっ子から抜け出せた原因、ニージイとの出会いだった。
ってか、ニート爺さんを略してニージイってやっぱり失礼だったかな?
まー良いよね、過去の事だし。
どうやら僕は眠っていたらしい。
久しぶりだよ、夢なんて見るのは。
気を取り直して……。
ハローエブリワン!
おはよう僕だよ!
え?
呼んでない?
ま、そんなことはどうでもいい。
それよりこの白鼠についてだ。
『助けていただき、ありがとうございました!』
そう言って頭を下げてきた。
感謝されて悪い気分になるほど、僕も捻くれちゃいない。
でもそれどころじゃない。
それよりも情報が欲しいんだけど?
『はい!私に答えられる事なら何でも!』
Q、ここは何処?
A、人間には魔の森と言われてます。
Q、人間がいるの?
A、はい、冒険者と呼ばれる人間が、森の端に何度か来ます。
Q、人間の声もスキルで聞こえるの?
A、はい、聞こえます。
Q、人間も結構強いの?
A、まぁ、森の端で戦える程度には。
Q、中心部になるほど魔物が強くなるの?
A、絶対という訳ではありませんが、そうです。
Q、じゃあ先端部の魔物が中心部の魔物と戦ったら?
A、たとえ先端部の魔物が百匹、いや千匹いようが、傷一つ付けられないでしょう。
Q、ちなみにここはどこら辺?
A、ちょうど中心部と先端部の真ん中ぐらいです。
Q、人間と仲良くなるのは無理?
A、無理です、あいつらは私たちを害獣か、金の生る木としか考えていません。
Q、じゃあ見つけたら殺すべき?
A、襲われない限りは隠れた方がいいと思います、戦いの音を聞きつけて更に増援が来る場合がありますから。
Q、スキルって何?
A、何と言われても……能力の一種ですよね?
こんなもんでいいだろう。
とにかくわかるのはこの四つだ。
森の中心部ヤヴァイ。
森の先端部もヤヴァイ。
ってか人間がヤヴァイ
スキルは天使。
それでどうしようか。
とりあえずの目標は、安全な場所に行くことだ。
つまり森の先端部だろう。
ただし、森からは出ない。
人間がわんさかいるからね。
そして強くなる。
人間にも、魔物にも殺されないように。
死にたくはないからね。
せっかく転生したんだ。
だったら死から足掻いて、抗って、逆らってやる。
これで今後の方針が決まった。
そして……
え~っと、ネズミさん?
『はい?』
僕と一緒に来る?
『……いいんですか?』
何が?
『だって私、結構お荷物ですよ?』
でも、行く所なんて無いんでしょ?
だったら簡単だ。
僕は案内役が欲しい。
君は用心棒が欲しい。
互いに協力し合おうよ。
『……はい、わかりました。これからよろしくお願いします!』
うん、よろしく!
で、これからの事なんだけどさ。
『はい?』
名前とか決めない?
ほら、だって仲間だからね?
君とか白ネズミじゃ面倒だしね。
『いいですけど……何て名前にするんです?』
名前のつけ合いをしよう。
僕は君の名前を考える。
君は僕の名前を考える。
『カッコ悪くても怒らないでくださいよ?』
下ネタ以外なら何でもOKだよ。
そうだな……。
白いからシロ。
安直かな?
でも白は入れたい。
白いネズミ……。
鼠は十二支で子。
よし、決まった。
君は決まった?
『はい、決まりました!』
君の名前は――
『あなたの名前は――
――白子だ。
――暁影で』