白鼠
私は誰からも嫌われていた。
敵にも、味方にも。
同じ種族にも、姉妹にも、そして親からも。
理由は簡単だ。
この白い毛と赤い目だ。
私の見た目は非常に目立つ。
だから私は、皆の三倍は命の危険が襲い掛かった。
それだけじゃない。
私たちリトルラットは、基本的に五十匹程度の群れで行動する。
つまり、私が見つかると他の皆にも危険が及ぶ。
自分でも厭きれるくらいのお荷物だ。
さらに言うと、私は日光にも弱い。
前はちょっと日焼けしただけで、皮膚が赤くなって倒れてしまった。
こんな私が群れから追い出されたのは、必然と言えば必然だったのだろう。
『お前がいなくなって、せいせいするぜ』
『やっとお前の顔を見なくて済むのか』
『あんたなんて、産まなきゃよかったわ』
それは群れを出る際に、私が言われた言葉だ。
家族を、皆を恨んでいないと言えば嘘になる。
でも、私をここまで育ててくれたんだから、少しは感謝するべきなのかもしれない。
だからといって、私がみんなの所に戻れるわけないけど。
群れから追い出された私は、途方に暮れていた。
それもそうだろう。
私の種族は群れで行動する生物だ。
役割を分担して、敵から身を守る。
そんな種族が一人で生きていけるわけもない。
しかし、私は幸運にも三日間も生き延びていた。
洞窟を見つけて、そこに潜んだのだ。
昼間は日光で危ないから、外に出て食べ物を採るのは天気が悪い日だけ。
夜は危険な魔物がたくさんいるから、洞窟で音を立てないように、ビクビクと過ごした。
しかし、私はもう体力の限界だった。
白い毛は薄汚れて、目も霞んでよく見えない。
食べ物を採ってくる気力もない。
これは……ちょっとヤバイかも。
流石に餓死しそうだ。
今日も敵から逃げながら、食べ物を探す。
でも、他の魔物達がウロウロしていて採れない。
結局今日も食べることが出来なかった。
洞窟へ帰る。
……へ?
なんでシャドウがいるの!?
シャドウは魔力が集まる地域から『出現』する魔物だ。
私は実際に見たわけじゃないけど、まず地面に影が出来て、そこから地上に這い出てくるらしい。
そして食べると結構おいしい。
そんなシャドウが私の住処で横になっていた。
しかも右腕が無い。
……もしかしてチャンス?
私はシャドウを観察するために匂いを嗅ぐ。
うん。
いい匂い。
空腹なだけに更に美味しそうだ。
よし!
頂いちゃおう!
とか思ったら……
「ンギャァァァァァアアア!!!」
バレたぁぁぁ!!!
ヤバイ!
むしろこっちが食われるかも!
すごいジタバタしてる!
すごい回転してる!
『うわっ!ごめんなさい!殺さないでください!』
とにかく謝ろう!
どうせ暴れたところで食べられるんだから!
シャドウの動きがぴくっと止まった。
そしてこっちの方を見た。
そして私について何か考えている。
アルビノとかはよく分かんないけど、話したいようだ。
「ヴァウアウア」
『あ、話せなくても聞こえます!』
そう、これが私の唯一の強み。
相手の心を読み、自分の心を伝えるスキル。
といっても、心を読めるのは一人だけだけど。
シャドウはそのことを伝えるとびっくりしていた。
そりゃあそうだろう。
同じ種族ならともかく、異種族すら話せるなんて。
イレギュラーと言ってもいい。
それよりも、頼みたいことがある。
話した感じ優しそうだし、ダメもとだ。
『食べ物くだしゃい』
それと同時に倒れてしまった。
体が動かない。
スキルも満足に使えない。
息も苦しい。
うん。
ダメだねこりゃ。
もう死んだよこれ。
そもそも、貴重な食料を死にかけのネズミに渡すわけがない。
餓死した所を食べられるだろう。
その時、シャドウが自分の小指をかみ切った。
そしてそれを私に渡す。
私は困惑した。
なんでそこまでするんですか?
なんで私を殺さないんですか?
なんでそんなに優しいんですか?
あ、ダメだ。
お腹空きすぎて心が聞こえない。
『あ……りが……と……』
とにかく食べよう。
そうじゃないとホントに死ぬ。
……うん、美味しいかった。
でもちょっとしょっぱかった。