魔王の白い従者(友達)
アンディは警戒していた。
もちろん、『謎の魔物』が襲撃する事をだ。
こちら第二部隊は三十五人、そしてギルドマスターがいる第一部隊は三十人、第三部隊は三十五人。
第一部隊だけ五人少ない理由は、ギルドマスターがいるからである。
ギルドマスターは冒険者十人に匹敵する、なのでこの分配となった。
今自分がしなければいけないのは、『謎の魔物』の討伐だ。
自分たちが冒険者十人、いや推測を含めれば、アーロンを入れて十一人の仇を打つのだ。
それこそ、緊急クエストが発注された意味。
『魔力感知』は既に最大まで感知している。
あとは強大な魔力を感知し、襲撃するだけ。
油断はしない、必ず殺す。
それがアンディの思考だった。
だからこそ気付けなかった。
『魔力感知』に集中しすぎて、自分の目で探すことを忘れていた。
それがアンディの失敗だった。
最後尾の冒険者が叫び声をあげ、倒れた。
死体は胴体を右斜めに切られ、心臓が血を噴出させる。
しかし、冒険者を切った白い少女は、手に持っていた青い剣以外に血は付いていなかった。
百四十センチほどの身長に、腰まである白髪は風に靡いている。
赤い瞳は優し気で、まさに子供と言った感じだが、気配は敵意丸出しだ。
そして最も驚いたのは、『魔力感知』に一切引っかからなかった事だ。
よほど優れた隠密スキルを持っているという事だろう。
間違いなく『謎の魔物』だ。
隠密スキルで冒険者の近くまで忍び、そして急所を一撃で切る。
そうやって今まで勝ったのだろう。
だったら今日が運の尽きだ。
こちらにはさっき欠けた冒険者を抜いても、三十四人いる。
そしてそのリーダーは自分だ。
絶対に負けない。
「命令だ!
前衛の冒険者は『謎の魔物』を包囲!
ただしまだ手は出すな!
魔法を使える冒険者は、結界魔法または強化魔法を唱えろ!
絶対に無茶はするな!
行動開始!」
何度もミーティングされた命令だ。
一切の迷いもなく、それぞれがそれぞれの役割を果たす。
アンディ自体も魔法を唱える。
「『物理結界』!
『魔力遮断結界』!
『思考加速』!
『全体筋力上昇』!
『全体魔力上昇』!
『全体防御上昇』!」
アンディはそれだけの魔法を、一瞬で唱えた。
そもそも、この町最強の冒険者はアーロンだが、一番貢献しているのはアンディと言っていい。
何故ならアンディが得意なのは結界魔法と強化魔法であり、アーロンとは一対一では負けるだけで、例えば自分に冒険者二人が加われば、間違いなくアンディが勝つ。
つまり、アンディは支援系魔法使いなのだ。
そして元々の頭の良さもある。
だからこそ、集団戦では無類の強さを発揮する。
例えばこの状況は、アンディの最も得意とする状況だ。
――ただし、自分たちの攻撃が通じることが前提だが。
『物理結界』とはドーム状の半透明な壁を出現させる魔法だ。
その使い方は二つある。
まずは自分の周囲に張り、身を守る使い方。
そして相手の周囲に張り、相手を閉じ込める使い方だ。
この魔法の良い所は、消費魔力が少なく使いどころが広い所だ。
ちなみにシロネに使っているのは後者だ。
そしてアンディの得意な魔法の一つである。
そして『魔力遮断結界』。
これは結界内部の魔法を遮断する魔法である。
と言っても無効化するワケでは無いので、完全に遮断する事は出来ない。
しかし、それでも必要魔力の十倍はかかる。
それだけでも相手の負担だ。
その他にも 『思考加速』『全体筋力上昇』『全体魔力上昇』『全体防御上昇』は、自分を含めた周囲の生物を強化する魔法である。
スキルでもある『思考加速』を一時的に魔法として付与する『思考加速』。
それぞれ筋力値、魔力値、防御値が上昇する『全体筋力上昇』『全体魔力上昇』『全体防御上昇』。
これだけの支援を受けた冒険者たちは、これなら負けないとでも思ったのか、口に笑みを浮かべて武器を構える。
外見は人間の少女だが、中身が魔物だというなら戸惑いは無い。
さっさと殺して報酬をもらおう、と考えていた。
きっと『謎の魔物』も、自らの未来を考えて怯えているだろう。
しかし、シロネは冒険者たちの想像と違い、怯えていなかった。
それどころか落ち着いている様にすら見える。
だが、きっと次の瞬間にその余裕も崩れるだろう、とアンディは思った。
そして冒険者たちも次々と、魔法を発動する。
「切り裂け!『真空斬』!」
「撃ち抜けろ!『石弾撃』!」
「焼き尽くせ!『火炎砲』!」
「貫き通せ!『水竜巻』!」
全ての魔法がシロネへと向かう。
その瞬間、アンディは『物理結界』と『魔力遮断結界』を解除した。
そうでないと、仲間の攻撃すら邪魔してしまうからだ。
だが解除した時と、魔法が着弾した時の時間差は、わずか一秒にも満たない。
その中で回避するなど、至難の業だ。
だが、アンディは勘違いしていた。
シロネは外見だけなら弱そうだが、ステータスは人外も良い所だ。
その中でも壊れスキルがある。
それが――
「『破壊の魔王魂』」
シロネを襲う魔法の全てが、灰のようになって消えた。
跡形もなく消えたのだ。
「なっ!?」
アンディは驚愕した。
それもそうだろう、絶対に効くと考えていたのだから。
だが、その予想はいとも容易く破壊された。
その中でシロネだけが、当たり前の様にそこに立っていた。
そして右手に持っていた青い剣を、横に振る。
「『破壊の一閃』」
その瞬間、そこにいた冒険者全員の命が破壊された。
身体の至る所から血が噴き出る。
それはアンディも同じだった。
「ッッグ!」
体中から血が逆流するのを感じた。
心臓からは血液がたまり、破裂する。
体中の細胞が死滅するような感覚。
痛みを感じる神経すら、破壊されたのかもしれない。
気付くと自分が冒険者たちにかけていた強化魔法も、いつの間にか破壊されていた。
一瞬にして、自分たちがやったこと全てが無になったのだ。
思考が停止する。
血が足りなくなったのもあるが、きっと五体満足だろうがこんな感じになっただろう。
こんなスキルなど見た事が無い。
地面に倒れる。
どうやらもう死ぬらしい。
痛みや苦しみも無く死ねるのだけは、幸運だっただろう。
「ふふっ♪これでアキカゲさんに褒めて貰えますね♪」
シロネが放った言葉を聞く者は、魂となった魔王以外にいなかった。
『種族:リトルマウス アルビノ個体 魔王憑依中 LV200 名前:シロネ
体力:5000
魔力:10000
筋力:10000
防御:5000
俊敏:10000(20000)
耐性:5000
運:1000
スキル
「破壊の魔王魂」「念話LV9」「逃げ足LV9」
「聞き耳LV9」「隠密LV9」「俊足LV9」
「高速思考LV9」「無音移動LV9」「遠見LV9」
「暗視LV9」「魔闘術LV9」「腐蝕の魔力LV9」
「石化の魔眼LV9」「瞬歩LV9」「聴覚強化LV9」』
うっは~。
シロネもシロネで派手にやってるな~。
まぁ、ナイトみたいに拷問紛いな事にならなくて良かったよ。
シロネまでそんな事したら、この集団に良心が一人もいなくなっちゃうよ。
え?僕?
もちろんガンジーもビックリの聖人ですが(嘘)?
まぁ、人類侵略とか考えてる時点で、魔王決定だけどね。
だけど、僕は後悔するつもりは無い。
魔の森で百万年過ごすなんて受け入れられるワケないし、かといって人間に殺されるつもりなんてない。
だったら強引にでも自分の居場所を作る。
そう決めたんだ。
だから絶対に冒険者は皆殺しだ。
そうでないと舐められるかもしれない。
魔王の恐怖を徹底的に叩き込んでやる。
うん、僕ってマジ独裁者。
でもそうじゃないと死ぬのは僕だ。
だったら独裁者でも魔王でもなってやる。
……そんじゃ、今度は僕が直々に出ますか。
第一部隊を殲滅しようか。
「行ってきまーす、スミス」
「……行ってらっしゃい、我が主」
僕の出陣を、亀のような二足歩行の魔物――スミスが見送った。




