VS魔王
ユニークアクセス数が千を突破して、ちょっと全裸で喜んでます。
シロネが魔王に攫われて一週間。
僕はレベル三百を超えた。
この『魔の森』の中心部でも、レベルだけなら上位に当たるだろう。
ま、レベルだけだけどね。
ステータスは俊敏以外、ロードタイガーよりも弱い。
でもスキル量なら自信がある。
ロードタイガーのスキルは二十。
そして僕のスキルは四十二。
ロードタイガーの約二倍だね。
戦闘経験もそれなりに積んだつもりだ。
ま、一週間程度だけどね。
格上相手なら何度も戦った。
むしろ格上しかいなかった。
そう考えると『奪取の魔気』無しじゃ、中心部に足を踏み入れた瞬間ゲームオーバーだったんじゃないの?
やっぱりスキルは天使だった。
毎日五回お祈りしてもいいよ。
そのくらい感謝してる。
とにかく、僕は中心部でも強くなったつもりだ。
証拠に、大抵の魔物は無傷で倒せるようになった。
ちなみに今のステータスはこうだ。
『種族名:シャドウ亜種 LV310 名前:アキカゲ
体力:1555/1555
魔力:1555/1555
筋力:1550(3100)
防御:1550(3100)
俊敏:1550(15100)
耐性:1550(3100)
運:320(620)
スキル
「鑑定LV9」「奪取の魔気LV9」「ソニックスターLV9」「物魔耐性LV9」
「虫系魔物殺しLV9」「毒、麻痺、恐怖耐性LV9」「超感覚LV9」
「大地魔法LV9」「炎噴射LV9」「硬化LV9」「集団行動LV9」
「思念伝達LV9」「超音波LV9」「吸血牙LV9」「火炎魔法LV9」
「水魔法LV9」「暴風魔法LV9」「飛行系魔物殺しLV9」「第六感LV9」
「高速魔力回復LV9」「回復魔法LV9」「雷電魔法LV9」「鉄壁LV9」
「氷結魔法LV9」「怪力LV9」「高速体力回復LV9」「弓術LV9」
「指揮LV9」「強化魔法LV9」「召喚魔法LV9」「高速思考LV9」
「威圧LV9」「飛翔LV9」「平常心LV9」「擬態LV9」
「仮眠LV9」「我慢LV9」「幸運LV9」「抗体LV9」「暗殺LV9」
「獣系魔物殺しLV9」』
もう極まってきてるよ。
俊敏以外は本当に他には届かないけどね。
ステータスの伸びしろは種族によって決まるらしい。
レベルが一つ上がってステータスが一しか上がらない種族もあれば、二十以上上がる種族もいる。
何その種族的な差別。
つまり僕がレベルを上げても全部五しか上がらないのは、種族的に決められてるってこと?
ってことは、中心部にある魔物は優秀な種族ってことか。
何それ。
もうちょっと苦労しろよ。
『奪取の魔気』でスキル奪ってる僕が言える事じゃ無いけどさ。
だったら魔王はどんな種族なんだろう。
外見はどう見たって人間だ。
それもかなりの美少女。
前世だったらアイドルの勧誘とか、山ほど来そうだよ。
あとラブレターとかも、絶対に一日一回貰ってそう。
下駄箱開けたらラブレターが溢れ出るとか、そんな展開まで簡単に想像できるよ。
そもそも人間が魔王になるなんてあるのかな?
シロネの話だと、人間はそこまで強くないらしいけど。
でも亜種とかアルビノ個体とかがあるんだから、何か他のヤツがあるのかもしれない。
だったら人間の町にも行ってみたいかもしれない。
僕の姿じゃ、絶対攻撃されそうだけどね。
とにかく、僕がやることは変わりない。
シロネを取り戻す。
それよりも先の事を考えたって、捕らぬ狸の皮算用ってやつだ。
今はそれだけに集中しよう。
……で、森の中心部に来た。
来たんだけど、なにこれ?
これが魔王の住処?
老人の住処の間違いじゃないの?
だって木造一軒家だよ?
魔王城ってあれじゃないの?
もっと大きいイメージだったんだけど。
四天王とかいるイメージだったんだけど。
どう見たってひとり暮らしなんだけど。
こんなの魔王の住処じゃないって。
あ、扉が開いた。
「あ、アキ君いらっしゃ~い♪ほらほら、早く中に入って!」
何?
僕と魔王って友達だった?
なんかものすごく自然だったんだけど。
何百回も繰り返した光景っぽかったんだけど。
実際には一回目だからね?
遊ぶ約束とかしてないからね?
まぁ入るけどさ!!!
だって美少女にいらっしゃいとか言われたらそりゃ入るでしょ!
むしろ入らないやつは男じゃないね!
で、入った家には案の定の光景が広がっていた。
木製の机にイス。
そして簡易的なキッチン。
――そしてシロネが入った籠。
その中にいるシロネは、僕が来た事を驚いたらしい。
「アキカゲさん!?」
僕は『ソニックスター』で籠まで瞬間移動して、シロネの入った檻を掴もうとした。
掴もうとしたけど、
「逃がすと思った?ってね♪」
おいそれ僕のセリフ。
とたんに首を掴まれ、外まで片手で吹き飛ばされた。
鑑定しなくても分かる怪力だ。
そして魔王はシロネの籠に触れた。
その瞬間、籠は隙間がなくなり真っ黒な球体になった。
「この籠は超魔鋼で出来てるから、ちょっとやそっとじゃ壊れないよ?」
咄嗟に防御したけど、本当に速かった。
僕よりも速いとかなんだよそれ。
どんだけ魔王強いんだよ。
とにかく鑑定だ。
『種族:抵抗されました。 LV1000 名前:無し
体力:20000/20000
魔力:50000/50000
筋力:1000(1000000)
防御:500
俊敏:20000
耐性:1500
運:500
スキル
抵抗されました。』
……ホワイ?
なにこれ、思わず英語でリアクションしちゃったよ。
まず種族とスキル。
レジストされましたって何?
そんなのあったの?
多分だけど、鑑定を妨害するスキルがあるんだろう。
でも、僕の鑑定はレベル九だから完全には妨害できなかったってところかな?
そして筋力。
百万てどゆこと?
いや、元の筋力は千だけどさ。
カッコで囲まれてるってことはスキル補正されてるってことだよね?
千倍補正とかふざけてるでしょ。
『ソニックスター』でも十倍だよ?
どんだけやばいスキルなんだよ!
その他にも色々とおかしな事になってるけど、一番注目すべき所がある。
防御値が五百ということ。
これが僕唯一の希望だ。
……でこれはどうしようかな~。
作戦一、さっさとシロネを取り戻して逃走。
これは失敗だ。
シロネにたどり着く前に、魔王に追いつかれてしまう。
だったら作戦二、――
――魔王をぶち殺す。
これしかない。
っつーワケで死んで、魔王。
アキカゲは魔王と距離を取りながら考えた。
魔王を倒すにはどうするべきかをだ。
『超感覚』と『第六感』、『高速思考』を発動させる。
その瞬間、世界がスローになった。
もちろん五感が強化されて起こる現象だ。
その中でアキカゲだけが、いつもと同じように動ける。
そして魔王の攻撃に備える。
スキルが不明な以上、下手に攻めて殺されたなんて事があったら、冗談じゃない。
だったら、相手が動くまでこっちも動かない。
幸い、魔王とのスピードは互角、いや、『超感覚』と『第六感』、『高速思考』を発動した状態では、アキカゲの方が若干速い。
ここは様子見だ。
そして、魔王はアキカゲの考えを知っているかの様に、いきなり突っ込んできた。
予想通り、反応できない速度ではない。
魔王は姿勢を低くして、さらにスピードを上げて右腕を振りかぶる。
もちろん受けるわけがない。
瞬間移動で魔王の後ろに移る。
魔王の拳が空を切った。
その衝撃だけで辺りの木が吹き飛んだ。
ものすごい筋力である。
直接受けていたら間違いなくバラバラになる。
魔王は姿勢を直して、また突っ込んできた。
作戦も何もない。
何も考えず、楽しそうに走る様は微笑ましいが、自分を殺すために走ってるとなると、笑えない。
魔王に様子見という選択肢は無いらしい。
「ど~ん!」
また殴りかかってくる。
今度はカウンターをしてみよう。
もう一度瞬間移動して魔王の背後に移る。
そして『炎噴射』で魔王を焼こうとした。
視界が一気に火で染まる。
しかし魔王は全くダメージを受けていない。
というか服すら燃えていない。
『超感覚』で、魔王の周りには目に見えない魔力の膜が張っていることが分かった。
それが火を邪魔しているのだろう。
つまり、バリア張ってるみたいなものだ。
どうりで何も考えずに突っ込めるわけである。
そうなると厄介だ。
何故なら攻撃が届かないのだから。
でも、常にバリアを張れるわけでは無いらしい。
それもそうだろう。
いくら魔王でも魔力は有限なのだから。
時間が経てば魔力は回復するだろうが、そんな隙を与えるほどアキカゲは優しくない。
「おっと!」
その途端、魔王は後ろに沿った。
ドシュッ!という音と共に魔王の頬が切れた。
そしてアキカゲは魔王の後ろに立った。
いったいアキカゲは何をしたのか?
そんなの簡単だ。
魔王が魔力のバリアを解く時、『ソニックスター』の音速移動で魔王の場所まで移動し、『硬化』した手で魔王を切っただけだ。
本当は首を切りたかったのだが、魔王が避けたせいで頬しか切れなかった。
魔王はニタリと笑った。
それは子供が新しい玩具を手に入れたような笑みだった。
そして頬の傷はすでに塞がっている。
回復系のスキルでも持っているのだろうか。
アキカゲは魔王ともう一度距離をとった。
魔王にダメージを与えられることは分かった。
ただし素早く動く魔王に、致命傷を与えることは至難の業だし、与えられたとしてもすぐに回復してしまう。
一撃で頭か心臓を貫かないといけない。
自然と一歩下がる。
当然、逃げるわけにもいかない。
シロネが掴まっているのだ。
アキカゲは、もう何も奪わせるつもりがない。
シロネは必ず取り戻す。
しかし、だ。
魔王が予想以上に強い。
こっちは一発でも当たったらアウト。
反対に相手はバリアでほとんど無敵状態だ。
頭か心臓以外を攻撃しても回復系スキルで治ってしまう。
そうなったら、『奪取の魔気』でスキルを奪取するしかない。
魔王のスキルは不明だが、自分のスキルにしてしまえば問題ない。
右腕を魔力化する。
そして魔王を油断させるため、会話をする。
「ねぇ、魔王さん?」
「ん~?何?」
「なんで僕の前世の名前を知ってるの?」
それは初めて魔王に会った時の、アキカゲの疑問だった。
「そりゃ、私が君をこの世界に呼んだからだよ?」
「ですよねー」
正直予想できていた。
魔王ならアキカゲを呼ぶ事だって出来るかもしれない。
「まー他の人の協力もあったんだけどね、でもスキルを与えたのは私だよ?」
これにはさすがに動揺した。
自分のスキルが魔王に与えられたものだというのだから。
だが少しずつ理解できた。
そういえば『腐蝕の霧』と『自動再生』の取得条件は、???だったなぁ、と。
つまり『腐蝕の霧』と『自動再生』は魔王に与えられたスキルだったのだ。
そしてそのスキルを統合し、改造したのが『奪取の魔気』だったのだ。
つまり、アキカゲをここまで強くしたのは、魔王のスキルのお陰だったという事になる。
自分は本当に、魔王の手のひらで踊っていただけだったのだ。
アキカゲが少し動揺する間、魔王は一瞬で距離を詰めた。
そしてアキカゲに回し蹴りを食らわせる。
「隙だらけだよ!」
「っがぁ!」
身体がくの字に折れ曲がり、吹き飛ばされた。
咄嗟に『硬化』で体を守ったが、ダメージに変わりはない。
肺の空気が吐き出される。
そのまま木にぶつかり、かろうじて止まった。
しかし、更に魔王の攻撃は続く。
右腕でパンチ、左手で肘打ち、そして膝蹴り。
その攻撃の一撃一撃が致命傷になる。
もちろん全力で回避する。
しかし、先ほどの回し蹴りで深いダメージを負ったアキカゲは、回避するのが精一杯だ。
このままだとスタミナ切れで攻撃が当たってしまう。
全身を魔力化すればいいのではないか?
と思うかもしれないが、魔王の攻撃にはすべて魔力が纏っている。
魔力化しても当たってしまう。
本格的にやばい。
このままだと攻撃が当たる。
何か変化がなければ。
暴風魔法『上昇流』でアキカゲごと魔王を宙に浮かす。
魔王は上空で笑っていた。
「アッハハハ!やっぱり戦うのは楽しいね!」
「楽しいの君だけだから!」
そう言いながらも『飛翔』で魔王のそばによる。
魔王の様子から見ても、空中を移動できるスキルは無さそうだ。
そして、このまま避けているだけではいずれ負ける。
だったら空中戦で決着をつける。
魔王の上から仕掛けた。
強化魔法『筋力強化』、両腕を『硬化』、『ソニックスター』の音速移動、『威圧』と『超音波』で相手の行動を封じ、『暗殺』でアキカゲの気配を極限まで消す、そして暴風魔法と強化魔法の複合魔法『鎌鼬の拳』で両腕に切り裂く風を纏わせる。
そしてがむしゃらに攻撃しまくる。
殴る、貫く、打つ、叩く。
それを魔王は防御し続ける。
躱す、受け流す、逸らす、いなす。
攻守が入れ替わった。
アキカゲは魔王の腕を掴み、至近距離からもう一度『威圧』と『超音波』を発動。
流石に魔王でもこれはきついらしい。
一瞬だけ意識を失いかけた。
そしてその一瞬が命取りだ。
アキカゲは全身を魔力化して、魔王から奪取する。
魔王は焦った顔をするが、すでにアキカゲに奪取されている。
その瞬間、膨大な情報がアキカゲに送られてきた。
魔王のスキルの情報なのだろう。
魔王が笑顔になる。
しかし、その笑顔に余裕はない。
例えるならば、ゲームのボス戦でHPが一割をきった時の、ゲーマーの笑顔。
冷汗がにじみ出ている、ひきつった笑顔だ。
「こ、れ、は、っ!ちょ~っとヤバイかなぁぁ!!!」
そのまま両者は地面に落ちる。
しかし、アキカゲは魔力化していたおかげで、無傷だった。
一方、アキカゲに集中していたがために、着地することを忘れていた魔王は、受け身も出来ずに背中を強打した。
魔王が苦痛に表情をゆがませる。
それでも口はひきつっている。
だがアキカゲはさらに追撃を加える。
このまま押し殺すつもりなのだ。
そのために、いわゆる『必殺技』を放つ。
といってもぶっつけ本番だが、成功した。
空に両手をかざし、魔法を発動させる。
上空に巨大な雲が発生した。
これで魔王の息の根を止める。
空を雲が覆いつくし、森は影に包まれる。
攻撃目標を定め、魔力を一点集中させる。
そして、限界まで引き絞った弓を放つように――
――放った。
それはまさに災害だった。
たまたま近くにいた虫、動物、魔物を巻き込んで更に魔法は威力を増す。
魔王の家は跡形もなく吹き飛び、破片が辺りを舞う。
だが、まだこれは前座だ。
真の魔法は、次の瞬間に雷は墜ちる。
雷電魔法と暴風魔法の複合魔法『超巨大積乱雲』
その瞬間、森は破壊の光で満たされた。
一瞬遅れて轟音が鳴り響き、衝撃で何千もの生物が一瞬でその命を消される。
魔王は『超巨大積乱雲』に直撃し、塵も残さずに消えた。
――と、アキカゲは思った。
思っていた。
魔法が終わった。
辺りは更地となり、魔王がいた場所はクレーターになっていた。
アキカゲは魔力の使い過ぎで、地面にへたり込んだ。
だが、これで魔王は倒した。
シロネの入った檻を見る。
内部は見えないが、細心の注意を払って魔法を放った。
多分ダメージは無い筈だ。
勝った。
その言葉だけが、アキカゲの脳内を埋め尽くした。
自然と顔に笑みが戻る。
……勝ったつもりでいた。
「ガフッ、ハハハっ♪あと一秒遅かったら死んでたよ!」
――おいおい、冗談じゃないよ。
なんで生きてんだよ。
スキルも奪ったはずなのに。
……いや、奪ってないスキルがあったのか?
『種族:フォールシャドウ亜種 魔王個体 LV1000 名前:無し
体力:100/20000
魔力:0/50000
筋力:1000(1000000)
防御:500
俊敏:20000
耐性:1500
運:500
スキル
「破壊の魔王LV9」』
『破壊の魔王』?
そういえばロードタイガーの時も、『虎の王』と『王の威圧』は奪取できなかった。
今回も奪えなかったみたいだ。
そして千倍筋力補正も健在かよ。
『破壊の魔王:筋力値を千倍にし、魔力を消費することであらゆるものを破壊する』
という事は、『破壊の魔王』は筋力千倍補正とさっきの攻撃を破壊した、二つの効果があるってことか。
はっはっは。
もう意味わかんないよ。
あー、こんちくしょう。
魔力が切れた。
だけど、あっちも無傷じゃない。
よく見れば血を吐いてるし息も荒い。
フラフラだ。
それは僕にも言える事だ。
もう魔力なんて一も残ってない。
どちらも満身創痍、立てているのが奇跡の様だった。
だったらもう決着の方法は一つだけだ。
アキカゲと魔王、どちらもおぼつかない足で向かう。
途中で倒れそうになったが、何とか踏ん張る。
アキカゲは、足が棒になるってこういう事なのかなぁ、と考えていた。
考えないと意識がなくなりそうな気がしたから。
そして向かい合った。
どちらもあと一撃入れれば倒れるだろう。
拳を構え合う。
スキルを発動する気力は、もうすでに無くなっていた。
どちらが先に攻撃するか。
それで勝敗が決まる。
「ガハッ、っつう~」
「フッ、グゥッ!」
「「ガァァァァアアアアアア!!!」」
――ペチン
子供でももう少しましなパンチが打てるだろう。
だが、それで十分だった。
どしゃ、という音と共に崩る。
そのまま死体になりに地面に倒れた。
勝ったのは、アキカゲだった。
退屈だった。
魔王は元々、フォールシャドウとして生まれた。
その頃はまだ『魔の森』と呼ばれた森ではなく、ただの森だった。
そこで魔王、いや、その頃はまだフォールシャドウだった魔物は、あるスキルを持っていた。
『腐蝕の瘴気』というスキルだ。
このスキルを発動すると、触れたあらゆるものが腐蝕し、死んでしまう。
このスキルを持ったフォールシャドウは、この森では最強に近かった。
しかし、そのスキルのせいで他のシャドウからも警戒されてしまい、そのフォールシャドウは一人だった。
フォールシャドウはいつしか、自分よりも強い魔物を探して旅に出ていた。
それからはたくさんの魔物と出会った。
毒を吐く魔物。
全身が刃物の魔物。
水中にいる巨大な魔物。
無限に増殖する魔物。
空を飛ぶ魔物。
透明になる魔物。
そして魔王。
どの相手もフォールシャドウを殺せなかった。
そしてフォールシャドウはそのすべてのを殺した。
そして魔王を殺し、自分が魔王の称号をもらった。
魔王とは、魔物でも最強に位置する魔物にのみ取得できるスキルだ。
その取得条件とは、魔王を殺すこと。
魔王になると人間の姿になることができ、フォールシャドウは少女の姿になった。
そしてフォールシャドウは魔王になった。
今度は人間と戦った。
冒険者や騎士団という人間は強いやつがいたが、それ以外のほとんどは魔王を傷つけることすらできずに死んだ。
ああ、これからどうなるのか。
自分はちゃんと死ねるのか。
自分と同じ強さを持つ者はいないのか。
他の魔王に挑んでみようとも思った。
だがどこにいるのか分からない者ばかりだった。
いや、一人だけ別の魔王にあったが、アレは戦闘向きではない。
そうなったらもう、自分で強者を育てるしかない。
フォールシャドウは自分が生まれた森に来た。
まずは土地自体を自分の魔力で満たす。
そうすれば自然と魔力を多く貯める植物が生える。
魔力を多く貯めた植物を食べる虫や動物も、多く魔力を貯める。
そしてそれらを食べる魔物も魔力を蓄える。
魔物は強くなって魔王を襲う。
もちろん十年程度ではあまり効果は無いだろう。
だが時間が経てば経つほど、魔物は強力になる。
そして強くなった魔物は魔王へと挑む。
次代の魔王になるために。
そのループだ。
だが、それでも魔王は強すぎた。
ざっと百年は過ぎても、魔王は退屈だった。
たまにそこそこ強い奴もいたが、そんな奴に限って老いで死んでいく。
逆に自分は、魔王は年をとりづらい。
あと百万年は生きるだろう。
そうなると、魔王は異世界を覗くようになった。
『異世界覗きの水晶』とかいう魔法道具だ。
前に一度だけ会った魔王にもらったのだ。
その水晶で、ある四歳程度の少年を見た。
その少年は両親に捨てられ、孤児院で育てられた子供だった。
孤児院でも他の子どもにいじめられ、大人たちも無視するだけ。
味方など一人もいなかった。
その少年に、魔王は興味を抱いた。
そこそこ治安のいい国で、こんな待遇を受ける子供はあまり見なかったからだ。
といっても、それはアリの中でちょっと変わったアリを見つけたみたいなものだった。
死んだら死んだでどうでもいい存在。
しかし暇つぶしにはちょうどいい。
だから、魔王は少年を監視した。
小学校に上がっても少年はイジメに遭っていた。
だが魔王は内心驚いていた。
てっきりあと数年で自殺すると思っていたが、存外しぶとく生きているからだ。
ここまで来たら自殺は無いかな?と思い始めていた。
一年前から覗き続けたが、案外少年はメンタルが強い方なのかもしれない。
魔王は少年にちょっとした愛着が湧いていた。
少年が小学四年生になった頃、ニージイなる人間のおっさんが少年とよく話すようになった。
ニートのジジイだからニージイというネーミングセンスには少し笑ってしまったが、ある意味ニージイがうらやましかった。
自分には名前がない。
生まれてから魔王になるまではシャドウ。
魔王になってからは魔王としか呼ばれたことが無かった。
自分にも名前を付けてもらいたい。
魔王は少年とニージイを見てそう思うようになった。
ニージイが死んだ。
そして少年は四人を殺し、一人を重症にして少年院に入った。
魔王は少なからず驚いていた。
こんな展開になるのは初めてだったからだ。
それでも魔王は少年を監視し続けた。
何故かと言えば、少年の事が気に入っていたからだ。
この少年は何かが違う。
そんな気がした。
この少年なら、自分を殺せるかもしれない。
根拠は無いがそんな気がした。
だったらこっちの世界に呼ぼう。
そうと決まれば行動は早かった。
まずは異世界から召喚するために、別の魔王に協力を頼んだ。
その魔王は戦闘は弱かったが、それ以外ではシャドウの魔王をゆうに超えていた。
その魔王なら召喚できるかもしれない。
……頼んだら案外簡単に出来てしまうらしい。
だったらさっそく召喚してしまおうとしたが、その魔王の話では死んでからじゃないと召喚できないらしい。
いや、『勇者召喚』という魔法を使えば出来なくも無いが、そうなると異世界の姿のままで召喚してしまう。
そうなると自分のスキルを分け与えることができない。
だって魔族は人間にスキルを与えることはできないのだから。
となると、少年が死ぬのを待って、死んだら召喚するという事になった。
そして、その時は来た。
少年が復讐として殺された。
真っ先に異世界召喚をした。
自分のスキルを少年の魂に分け与え、転生させた。
そうしてシャドウ――明いや、アキカゲは異世界へと転生した。
そこからはアキカゲを監視していた。
ソニックウルフに襲われたこと。
リトルラットと出会ったこと。
サーベルディアーを倒したこと。
そしてロードタイガーを倒したこと。
そこまで魔王は手助けをしなかった。
アキカゲが殺されたなら、それは自分の見込み違いだっただけ。
しかし、アキカゲがロードタイガーを倒した時、予感ではなく確信した。
――自分を倒せるのはアキ君しかいない。
そのためにシロネを攫った。
シロネを攫えば、アキカゲは必ず取り戻しにこっちに来るだろう。
そして来る間には、自分の足元にも及ばないが高レベルの魔物がたくさんいる。
自分が育てた魔物達と戦うことで、アキカゲは急激な成長を遂げた。
アキカゲは自分を殺せるまで成長した。
この時を何百年待っただろう。
今のアキカゲなら自分を殺せる。
やっと、対等な相手が自分の目の前に現れた。
乾いた心が潤う心地がした。
まるで恋人でも待つかのようにアキカゲを待った。
そしてやっとアキカゲは来た。
想像よりもさらに強くなって。
それでこそだ。
そうじゃないと面白くない。
魔王はアキカゲと戦いながら、まるで遊んでいるかのように笑った。
こんな相手を待ち望んでいた。
今度こそ自分は全力を出し切れる。
――やっと、自分を殺してくれる。
この時を何百年待っただろう。
体感では無限にも思える時間だった。
だが、それもこれで終わる。
魔王の自分は、今日死んだ。
倒れた魔王を見て、僕は今度こそ溜め息をついた。
やっと終わったんだ。
今度こそ、大切な人を守り通した。
といっても、魔王の目的はシロネじゃなくて僕みたいだったけど、まぁそこらへんはあまり考えないようにしよう。
シロネが入った球体を手に取る。
球体は空気から溶けるように消えた。
そしてその中には、まぶしい太陽によって目を覆うシロネがいた。
「……アキカゲさん?」
「うん、シロネ……おひさ?」
嬉しくて思わず死語で行っちゃったよ。
でもよかった。
シロネは無事だった。
「……」
え?
どしたの?
嬉しすぎて声も出ないとか?
それだったら嬉しいんだけど、そういうワケでもなさそうだ。
ってか僕の後ろを見てる?
僕もつられて後ろを見ると――
――魔王の心臓部分から、黒いナニカが出てきた。
それは球体になり、僕に、いやシロネに向かってきた!
もちろん僕が許すわけがない。
僕はシロネを持って逃げ出そうとする。
なのに、シロネは僕の手を逃れて黒い球に向かって走っていった。
なんで!?
そしてそのままシロネと黒い球体はぶつかり、眩い光が辺りを照らした。
数秒した後、そこには一人の少女がいた。
それは魔王の黒かった部分まで白くし、眼を赤くしただけの、魔王と瓜二つの少女だった。
僕は咄嗟に戦闘態勢をとる。
だってさっき魔王を殺したはずなのに、いきなりそっくりさんが現れたんだ。
びっくりしない方がおかしいだろう。
そしたら僕の行動にびっくりしたんだろうか、慌てた様子の少女が言った。
「わぁっ!待ってくださいアキカゲさん!私です、シロネですよぉ!」
『ほらっ!念話も使えますしっ!』
その言葉に僕は目を丸くした。
その声はどう考えたってシロネのものなのだから。
鑑定してみる。
『種族:リトルマウス アルビノ個体 魔王憑依中 LV10 名前:シロネ
体力:2000
魔力:2000
筋力:5000
防御:2000
俊敏:2000
耐性:2000
運:500
スキル
「破壊の魔王魂」「念話LV9」「逃げ足LV5」「聞き耳LV5」
「隠密LV8」』
……ホワイ?
またまた英語でリアクションしちゃったよ。
だってステータスとか超上がってるし、魔王憑依中ってなってるし、破壊の魔王魂って何だし!
え?
何?
何でシロネちゃん人間形態になってるの?
だめだ、頭が混乱してきた。
「あ、あのっ魔王に憑依されれば強くなるって聞いたんですけど、私強くなりましたか?」
うん、めちゃくちゃ強くなってるよ。
僕のステータス基本値よりよっぽど高いよ?
魔王に憑依されただけでそれ?
僕の苦労はいったい?
その時、頭の中に声が響いた。
『個体名:アキカゲが魔王を倒しました。よって、個体名:アキカゲの魔王化を開始します』
魔王化?
何それおいしいの?
なんて考えてたら、急に意識がもうろうとしだした。
また……気絶すんのかよ、コレ。
僕は地面に倒れた。
念願の一万二千字突破しました(狂)。
そしてシロネが人間形態に、アキカゲも魔王化するようです。




