魔王襲来?
シロネは目の前に起こった事に、唯々驚愕していた。
いったい何が起こってるのだろうか?
はじめは小さい息が聞こえただけだった。
無視してもいいけど、この時何かイヤな予感がしたからアキカゲさんに伝えた。
アキカゲさんは気にしなかったけど、やっぱり何かおかしい。
「グルルル」
身体が硬直した。
声のした方向を見れない。
見たら死んでしまう気がした。
息が出来なくなってしまう。
私は他の皆よりも多く危険にあってきた。
だからこそ、危険には耐性が付いたつもりでいた。
認識が甘かった。
調子に乗っていた。
天狗になっていた。
私は声の主を見る。
見た事もない魔物だった。
それはつまり、私が住んでいた所よりも中心にいる魔物という事になる。
中心部の魔物。
ああ、終わった。
私たちが中心部の魔物に勝てるわけがない。
魔物が口を開く。
アキカゲさんが私の前に立った。
やっぱりアキカゲさんは優しい。
場違いだけど、思わずにやけてしまう。
でも、意味なんてない。
衝撃。
その瞬間、私は気絶した。
目を覚ました私は、魔物がアキカゲさんに近づいてくる様子が見えた。
声が出ない。
手を伸ばそうとしても届かない。
アキカゲさんから黒い煙が噴き出る。
私は何度も見た事がある。
あらゆる物質を腐らせる煙だ。
あれでたくさんの魔物を倒してきた。
それを見ると、アキカゲさんの思い出が蘇ってくる。
私は知っている。
自分もおなかが空いてるのに、私の方にお肉を多く渡していたことを。
自分も辛いのに、私を笑わそうと一生懸命ふざけたこと。
そして、なるべく私を戦わせようとしなかったこと。
なのに私の意見を尊重してくれたこと。
家族にもこんなに優しくされた事がないのに、アキカゲさんは私にこんなに優しくしてくれた。
私が殺されたっていい。
どうせアキカゲさんがいなかったら死んでたんだ。
でもアキカゲさんを殺させたくない。
アキカゲさんだけは生きててほしい。
なのに身体が動かない。
どうやら骨が何本か折れてしまったらしい。
痛みがないのが幸いだった。
情けない。
本当に情けない。
目の前にいる仲間の身代わりすら出来ない。
この間にも、魔物はアキカゲさんに近づいてくる。
あの黒い煙も、腐れせた瞬間に治癒してしまう。
アキカゲさんが死ぬ。
いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!いやだ!
その時、世界が黒く染まった。
いったい何があったのか分からない。
でも、何かあったのは分かった。
「やぁ、ちょっとだけ待っててね。すぐに終わるから」
アキカゲさんの声がした。
その声に安心する。
よかった。
死んでなかったんだ。
でもどうやったらあの魔物を倒すのだろう。
「ガァァァァアアアアアア!!!」
それはさっきまでの魔物の声じゃなかった。
いや、魔物の声は一緒だ。
だけど咆哮じゃなかった。
悲鳴だった。
その声に、私は驚くよりも安心した。
アキカゲさんが勝っていると分かったからだ。
黒が晴れていく。
そこには一人の人間がいた。
だけど私はなぜか分かった。
あれはアキカゲさんだと。
「……なるほどね、こういう風にも使えるのか。便利だね~」
そこからは早かった。
魔物が逃げようとした。
だけど何故か動けないようだった。
魔物が黒く染まっていく。
魔物が黒くなるごとに、何故か魔物が弱くなっていく気がした。
逆にアキカゲさんが強くなっていく。
そして魔物がすべて黒くなった時、灰のように崩れて消えていった。
アキカゲさんが勝ったんだ。
その事実に、私の心は歓喜で満たされた。
しかし、アキカゲさんは少し直立した後、突然倒れた。
私はアキカゲさんの近くに寄ろうとした。
その時、空間が割れた。
そして割れた空間から、一人の少女が飛び出してきた。
人間?
いや、姿は人間だけど中身が違う。
冒険者とは違う雰囲気がある。
聞いたことがある。
魔物の中には人間の姿になる者がいるって。
そして、その魔物は例外なく規格外な強さを持っていると。
それが魔王。
魔族の頂点。
まさかその魔王?
だけど、殺意も敵意は感じない。
「アハハハッ、やっぱりアキ君はおもしろーい!」
その少女は黒かった。
肌と白目以外の全てが黒かった。
その黒が、日焼けなどした事がありません!とでもいうような白い肌を、いっそう目立たせている。
その少女はアキカゲさんの顔を覗き込み――
――頬にキスした!?
「ホワァァァァ!!!???」
思わず変な声を出してしまった。
でもそのくらい衝撃的だった。
自分ではわからないけど、多分顔が赤くなってるだろう。
というか湯気が出ている。
「あ、ネズミちゃん!突然だけど誘拐するね!」
ヒョイッ
……は?
今なんて言ったの?
黒い少女は私の反応に何も興味が無いらしく、作業のように私を掴んだ。
手足をバタバタとして抵抗するが、まったく歯が立たない。
少女はそのまま笑顔で割れた空間に入った。
私もそのまま割れた空間に入ってしまう。
ちょ!なにこれぇぇぇぇぇええ!!!
私の叫びもむなしく、割れた空間は閉じていった。
というワケで、シロネが魔王に誘拐されました。




