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シャドウの異世界魔王道  作者: river
魔王誕生編
12/28

窮鼠の代わりに影が虎を噛む(後編)

 

 ――ありえない。


 ロードタイガーは驚愕していた。

 何も見えない。

 すべてが黒く染まっている。

 魔力感知と熱感知を発動させるが、どうも調子が悪い。

 いや、調子が悪いというのは少し違う。

 魔力や熱は感知出来た。

 正確には、周囲百メートルすべてに魔力と微弱ながら熱を感じるのだ。

 さっきまで踏み潰そうとしていたシャドウの魔力と熱が。

 それはつまり、これ自身がシャドウという事だ。


 そんな事ありえない。

 身体の形状を変えるスキルなら、何度か見た事がある。

 シャドウ特有のスキルも影に潜るスキルだった。

 だから影に潜ってもロードタイガーは特に何も感じなかっただろう。

 ただ、面倒とは思ったかもしれないが。

 だがここまで身体を変えるスキルなど見た事がない。

 

 それだけではない。

 この空間にいると、体力が少しづつ減っていくのだ。

 そこまで気にする事では無いかもしれない。

 自分の体力には自信がある。

 それに、このくらい自然に回復する。

 しかし、いやな予感がする。

 

 シャドウがありえない形になり、更に体力が削れていく。

 不思議なことが二つ同時に起こったのだ。

 さっきまでのシャドウが原因としか思えない。


 最初は二匹の魔物を見かけただけだった。

 その光景に、ロードタイガーは目を疑った。

 何故なら、別々の種族が仲良く歩いているのだから。

 普通ならそんなことはありえない。

 リトルラットとシャドウが仲良くするなど、猫と鼠が仲良くしているのと一緒だ。

 いや、どちらも食うか食われるかの関係なので、猫と鼠よりもありえない。

 

 ――面白い。


 ほんのちょっとした好奇心だった。

 いわば、子供がアリの行列を乱し巣を埋める行為と一緒だ。

 ただの遊びである。

 

 咆哮。

 それだけで大抵の魔物は一瞬で絶命した。

 絶命しなくても身体が傷つき動かなくなる。

 そこで頭を潰すだけ。

 今回もそうなると思った。

 予想通り、二匹は宙に舞い地面に落ちた。

 シャドウがリトルラットを庇ったこと以外はいつもと同じだった。

 そうなればもう狩りではない。

 命を奪うという作業だ。

 あとは頭を潰す。

 それで終わる。

 

 ――終わるはずだった。


 そして冒頭につながるのだ。

 

 逃げればいいのかもしれない。

 自分の速さがあれば、一瞬で逃げられるだろう。

 そうすればこんな嫌な予感は無くなる。

 

 だが、その逃走という行為をロードタイガーのプライドが邪魔した。

 たかがシャドウに逃げるるのか?

 少しいやな予感がするからと言って逃れるのか?

 この虎の王が退散するのか?

 否だ!

 この虎が敗北するなどない!

 この俺が敗れるわけがない!

 この王が負けるはずがない!

 

 王には勝利しかないのだ!

 このような愚か者など一捻りだ!


 それは明らかな傲慢であった。

 それも仕方ないのかもしれない。

 ロードタイガーはこの世に生まれて三十年、自分以上に強い者など、父とあるもの(・・・・)だけなのだから。

 そして父が三日前に老いで死んだ今、虎の王は自分になった。

 

 虎の王とは、虎の魔物の中で一番強い個体にのみ取得できるスキルだ。

 三日前は父が虎の王だった。

 だが父が死んだ今、虎の王は自分になったのだ。

 自分が虎の王になった時は、全能感が身体を支配した。

 それは今もだ。

 いずれは自分以上に強かったもの――

 ――魔王すら超えることが出来るかもしれない。

 

 この森を作った(・・・・・・・)主に、勝てるかもしれない。

 そうすれば自分が魔王になる。

 世界に五体しかいない魔王の一人となる。

 想像しただけで心が震える。

 自分が愚かな魔物や人間どもを蹂躙するのだ!


 そのためには、シャドウなど恐れるに足りない。

 恐れる必要など微塵もない。

 

 ロードタイガーはもう一度咆哮する準備をした。

 咆哮でこのわけのわからない黒を吹き飛ばすのだ。

 口を開く。


「させねぇよ」


 その瞬間、身の毛がよだった。

 何だこの声は!?

 どこにいるんだ!?

 何をするつもりだ!?


 その声は恐怖そのものだった。

 それはまるで――

 ――魔王のような。


「ガァァァァアアアアアア!!!」


 それはもはや咆哮ではない。

 悲鳴であった。

 魔王の恐怖。

 それはすべての生命が持つ、死の恐怖と同じなのだ。


 それでも黒は消えない。

 ロードタイガーは無意識に一歩下がる。

 怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!

 足が震える。

 涙が溢れ出る。

 視点が定まらない。


 実際には一分もたっていない。

 しかし、ロードタイガーには無限の時間に感じた。

 しかし、それは唐突に終わった。


 黒が収束していく。

 それは人の形になった。

 さっきのシャドウのように全身真っ黒だが、身長は百七十センチある。

 そして三頭身だった身体は、七頭身になっている。

 そして黒いズボンと黒いローブコートを着ており、フードで顔を隠している。

 一見人間のようだが、フードで隠せていない部分まで黒であり、唯一目の部分だけが赤く光っている。


「……なるほどね、こういう風にも使えるのか。便利だね~」


 ロードタイガーはまたまた驚愕した。

 今度は人間の姿になったのだ。

 驚かない方がおかしい。


 なんだそれは。

 魔物が人間の姿になるだと?

 そんなのもはや魔王みたいどころではない。

 まさしく魔王ではないか!?


 もうプライドなど関係ない。

 逃げなければ。

 そうでないと殺される!


「逃がすとか思った?」


 ロードタイガーは自分の身体の異変に気が付いた。

 動けないのだ。

 意思が動こうとしても、身体が動かない。

 ロードタイガーはこの事に驚愕した。

 理解出来ない事に驚愕したのではない。

 この現象を理解できたから驚愕したのだ。

 ロードタイガーはこの現象の原因を知っている。

 何度も見た事がある。

 今回は立場が違うだけだ。


 ――威圧だと!?


 そう、これは自分が持っていたスキル、威圧なのだ。

 代わりに自分が威圧を使おうとしても、まったく反応しない。

 

「あ、やっとわかった?いや~何とかレベル一のスキルだけは奪取出来たよ」


 なんなんだ?

 何なのだこれは。

 なぜ王である俺がここまで追い詰められなければいけないのだ?


「じゃ、今度はレベル二のスキルでも奪取してみようかな」


 シャドウの右腕が煙のようになる。

 ロードタイガーは直感で分かった。

 これがさっきの黒の正体だと。

 

 黒い煙がロードタイガーに迫る。

 逃げようとしても、身体が動かない。

 完全に立場が逆転している。


 もう自分は奪う側ではない。

 奴に奪われる側になったのだ。


 ロードタイガーに黒い煙が纏わりつく。

 それと同時に力が抜けていくのが分かる。

 だが、ただで奪われるわけにもいかない。


 ロードタイガーは全力で体を動かす。

 威圧にも身体が慣れた。

 逃げなければ!


「はい、レベル二のスキルも奪取っと」


 なんだ?

 身体がまた動かない。

 しかしこれは威圧によるものではない。

 もっと根源的な何かが削れていく感覚だ。

 息が出来ない。


「レベル三のスキルも取得」


 死が近づいてくる。

 シャドウの事ではない。

 本当の死が近づいてくる。


「レベル四のスキルも取得」


 いやだ、生きたい。

 まだ死にたくない。


「レベル五のスキルも取得」


 憎い。

 すべてを奪うやつが憎い。

 出来るなら今すぐやつを噛み千切りたい。


「レベル六のスキルも取得」


 ああ、だがそれでも。


「レベル七のスキルも取得」

 

 後悔することがあるとしたら。


「レベル八のスキルも取得」


 こんなやつに、戦いなどするべきではなかった……。

 

「レベル九のスキルも取得っと、あれ?虎の王と王の威圧がゲットできないぞ?流石にそういうのは無理なのかな?」


 この瞬間、一匹の虎が死んだ。

お待たせしました。

ここからどんどん主人公が強くなってきます。

ただし、まだまだ苦難は続きます。

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