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魔王城の死闘

 乾いた風の向かう先に大きな黒い影がそびえ立つ。

 黒い石材の建造物からは、以前見た月の国の封印殿に似た雰囲気を感じた。


「ここが……魔王の城か……」


 僕は思わず息を飲む。

 だけどもう一人の僕は余裕そうで、尖った塔を見ながら不敵に笑う。


「いよいよですね、シェズ様……」


 隣に立ったエミカが言った。

 シェズはその顔を見て微笑むと、黙って右手を出す。


「りょーかいしました……と言いたい所ですが……」


「先に防具を着けておこうか」


 エミカの後ろに立って王子が言った。


「またかよ……」


 シェズは言いながら頭をかいた。


「ま、前にそれで助かってるからな。今回は素直に借りるぜ」


 エミカと王子は顔を見合わせると、急いでリュックを下ろして荷物を取り出す。


「ふふふふ、この日の為に用意した白銀の鎧だ。高貴だろう?」


 エミカから白塗りの綺麗な鎧を受け取って、王子が自信満々に見せてきた。

 襟の所をはじめ、縁の部分には金色の装飾が施されている。高そう。


「誠様の端正な顔立ちに映えるようなデザインを選んでおきました」


 ふふんと、得意げに胸を張り、エミカも並んで言った。

 いつの間に用意したんだ、こんなの……。

 それを二人がかり……いや、フレドさんも加わって三人で僕に鎧を着けていく。

 重……。だけど不思議と身体に馴染む気がした。

 なんだか勇者っぽくなったような。

 そんな僕の姿を見て、朝倉さんが微笑んだ。


「似合ってるよ……真島くん」


「あ、ありがと……」


 なんだか照れ臭い。

 思わず目を逸らすと、その視線の先にベルシャとエミカの顔が並んでいた。


「見せつけてくれるわねぇ」

「ですねですねぇ」  


 ニンマリと同じ表情を重ねる二人に背を向け、僕は改めて魔王の城に対峙する。


「行こうぜ、誠」

「うん」


 僕は城へと歩みを進めた。

 鎧は重たかったけれど、それ以上に重いものをとっくに背負ってるんだ。

 扉を開けると、中は薄暗く静寂に包まれていた。

 

「留守なんですかね」


 エミカが辺りを見回しながら呟き、すかさずランタンを取り出し前方を照らす。

 すると、突然甲高い声が聞こえ、天井から怪しい光が無数に向かってきた。


「ひゃあ!」


 光っていたのはランタンの光が反射した蝙蝠の瞳か。

 僕の右腕がエミカに迫った蝙蝠を叩き落す。


「邪魔しないっ!」


 隣に立ったベルシャが手のひらを突き出すと、蝙蝠たちはいっせいに天井へと戻っていく。


「……いいの?」


「どうせこんなのじゃ止まらないでしょ?」


 そう言ってベルシャは肩をすくめた。

 そしてそのまま階段へ向かって歩き出す。

 5階まで登ったところで、大きな扉が目に入った。


「ようやく戻ってきたわね」


 マリーナさんが呟き、シェズが黙って頷く。

 それじゃあここが……。


「魔王様の部屋よ」


 ベルシャが扉に手をかけようとするのを、僕は肩を掴んで止めた。

 そして、エミカと王子とフレドさん……最後に朝倉さんの顔を見た。


「みんなは、ここで……」


 僕が口を開いた瞬間、肩に乗せていた手が払われる。


「なに言ってるのよ。アタシはあんた達が魔王様にコテンパンにされるのを見たいんだから」


「それでは、わたくしはこの人が邪魔しないように見張っていませんと」


 言いながらエミカはベルシャの手を掴んで隣に立つ。

 

「盾無しで戦うつもりかい?」 


 王子が言うと、フレドさんが黙って上から兜をかぶせた。

 

「ここまで来たんだもん。みんな気持ちは一緒だよ」

「そうよ。あたしだって魔王には借りがあるんだから」


 朝倉さんが表情を変えながら言う。

 そして、また優しい表情に戻ると。


「それに……大丈夫って言ってくれたでしょ?」


 そっと微笑むその顔を見れば、僕は何も言えなくなってしまって。


「しかたねぇ奴らだな」


 シェズが呆れて呟いた。


「僕らの仲間だからね」


 再び扉の方を向いた僕達は、いよいよその中へと入っていく。

 また、中は薄暗かった。

 青白い光が壁にいくつか灯っていたけれど、それは広い部屋の全てを照らすには不十分で。

 奥の玉座に人が座っているのに気が付くのに少しだけ間ができた。


「ようやく辿りついたぜ、魔王アクノボス!」


 シェズの声が響いた。

 握った剣の先が向いた先、そこに佇む魔王は椅子に座ったまま項垂れている。


「ようやく……この時が来た……」


 ゆっくりと魔王が顔を上げ、手のひらを上に翳す。

 攻撃の予感に身構える僕の目の前に、空間の穴が開く。

 そして、その中に十字架に磔にされた二人の男女の姿が映った。

 金色の髪の男。項垂れていて顔は良く見えないけれど、それが誰なのか、僕にはすぐに理解できた。


「あれが……シェズ……」


 隣に磔にされているのはマリーナさんか……。

 銀の長い髪で、やはり顔は見えない。

 

「俺たちの体、返してもらうぜ!」


 シェズが飛び出すと同時に空間の穴が消える。

 代わりに魔王の右手に剣が握られ、シェズの振り下ろした剣を受け止めていた。


「……相変わらずだな、君は……」


 魔王が何かを呟くと、剣を引き僕の体勢が崩れた。

 次の瞬間、突き出された左手から衝撃波の様な物が放たれ、僕は遥か後方に飛ばされる。

 起き上がる僕の視線の先で、魔王はまだその場に立っている。

 追撃が来ない……?

 そう疑問に思う間もなく、魔王は右手で額を押さえ、そして蹲った。

 何かがおかしい。

 そう直感したとき、魔王の背中から黒い靄の様なものが溢れだすのが見えた。

 

「これ……」


 悪寒が全身を駆け抜ける。この感じは初めてじゃない。


「シェズ!」

「ああ……!」


 僕はみんなの前に立ち剣を構える。

 魔王の体からあふれ出した黒い靄は四枚の翼になり、大きく羽ばたく。


「マリーナさん! 王子!」


 僕が叫ぶと同時に無数の黒い羽根がもの凄い速さで降り注いでくる。


「サラマンドラ!」


 炎の精霊が弾幕を張り黒い羽根を打ち落とす。

 弾幕を逃れた羽は僕の剣が受け止める。


「ひゃあぁぁ……」


 王子はエミカ、フレドさん、ベルシャの前に立って巨大な盾を構える。

 全員……無事だな。

 

「誠、一気に近づくぞ!」


 言いながら体が前へ進む。視線の先に迫る魔王の仮面は変わらずに下を向いていた。

 シェズが構えた剣を振りかぶる。

 真正面から振り下ろされる剣。軌道が仮面を捉えた次の瞬間、魔王の右腕が動いた。

 黒い霧を纏ったその腕は瞬時に巨大化し、長く伸びた爪が剣を弾き返す。


「これ……月の国で戦った……」


 体勢を整え睨む先には、両腕を黒く巨大化させた魔王が玉座から立ち上がっていた。


「……久しぶりと……言おうか……勇者………」


 低い声が響く。


「この声……!」

  

 長く伸びた爪が襲い掛かってくる。

 シェズの振るう剣が伸びてきた爪を叩き切る。

 振りぬいたそれで一本、戻しながらもう一本。

 しかし、直後に残った三本の爪が鎧を叩き、さらに左腕の拳が体ごと弾き飛ばした。


「ぐわぁっ!」


「真島くん!」


 駆け寄ってきた朝倉さんがフェレットを呼び出す。

 

「シェズ……あの力……」


「間違いない……魔神だ!」


 朝倉さんの魔法を体に受けながら、僕は魔王を見据える。

 魔王はゆっくりと顔を上げ、歩いてきた。


「下がって、朝倉さん」


 僕も立ち上がり、朝倉さんの前に立つ。

 剣を構えなおして睨みつけると、魔王は足を止めた。

 握る拳に汗がにじむ。

 さぁ、どう来る……?

 息を飲むと同時に魔王の手から、黒い霧が消えた。


「……まだ……まだダメだ……大人しく……しろ……」


 仮面の奥から声が聞こえた。

 魔王の拳が震え、脚が地面に押し付けられているのが解る。

 何が……起きている?

 

「魔王様!」


 呆然とする僕の横を、ベルシャが駆け抜けていった。

 

「ベル……シャ……下が……れ……」


 魔王がベルシャの肩を押しのけ、その視線を僕に向けてくる。

 直後、左手に黒い霧が集まり、また掌を形作った。


「ベルシャ!」

「危ねぇ!」


 左手の爪がベルシャの立っていた場所に突き刺さっていた。

 腕の中でベルシャの体が小さく震えている。


「クククク…………フハハハハハハハ………」


 低い笑い声が響き渡る。背筋が凍るような嫌悪感。僕はそれをベルシャの肩を強く抱くことでごまかした。


「良く……ここまで……来てくれた勇者よ……礼を言うぞ……」


「てめぇに礼を言われるようなことはしてねぇよ」


 右手に力が強く入る。

 

「これで……ピースは……揃った!」


 両腕の黒い靄が、怪しく輝きを放つ。

 その瞬間、僕の体が硬直し、激しい重さで引っ張られる様な感覚が襲ってきた。


「な、なんだ……これ……」


 両膝が地面に引き付けられる。

 溜まらずに転げ落ちたベルシャが僕の顔を覗き込む。


「ちょっと、どうしたのよ!?」


「解らない……ぐっ……あああっ!」


 胸に締め付けられるような痛みを感じる。


「誠、ちょっと休んでろ!」


 俺は強引に身体を奪い取り立ち上がる。

 なんだこの重さ……鎧のそれとは比べ物にならない。

 体を持ち上げるだけで力を使っちまう。

 だが、目の前のこいつを倒さなければ……。

 俺は剣を握り、魔王に飛びかかった。

 本体の動きは鈍い。俺は魔王の心臓目がけて剣を突き出す。

 

「そんな……もので……」


 魔神の左手から爪が伸び、魔王の体の周りを囲んだ。剣はそれに阻まれて届かない。

 次の瞬間、魔神の右手が拳を握り俺の前面に迫ってくる。

 早い……! 目は動きを捉えた。だが体が追いつかない……!

 直撃を覚悟した次の瞬間、左腕が勢いよく動いた。


「何……!?」


 魔神の拳は目の前で受け止められていた。

 同じくらいの大きな影……黒い巨大な手が、魔神の拳を掴んでいる。

 そしてその手は俺の……誠の左腕から伸びていた。

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