表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/36

決闘 力と技と


 いつから雨が降っていないのだろう、乾いた大地を撫でる風が砂を巻き上げる。

 思わず目を細めた僕達の前には荒れた大地が広がっていた。


「相変わらず殺風景な所ですねぇ……」


 遠くを見ながらエミカが言った。

 かつてはここが国境であり、その先は「夜の国」と呼ばれた場所だったという。

 折れた剣と朽ちた鎧があちこちに散乱していた。戦の跡だろうか。

 肉体のなくなった躯から目を逸らし、僕は前を睨む。


「君がこうならないためにも私が全力で守ろう」 

 

 言いながら王子は自分の鎧を叩いた。

 

「縁起悪い事言わないでください」


 エミカが言いながら、不安げに僕の腕をつかんできた。


「大丈夫だよ、エミカ」


 僕は言いながらエミカの頭を撫でる。根拠はないけれど、口に出しておくことで自分の気持ちもやわらいだ気がした。


「王子こそ、ここに来てよかったのかい?」


 本当に守りたい人は……。

 僕が何か言う前に、王子は黙ったままゆっくりと首を横に振った。


「誠様、今は魔王を倒すことこそ我々の使命です。それがひいては星の国……いや、他の国も含めての未来に繋がるのでしたら」


 王子はフレドさんの言葉に強く頷いた。

 頼りない王子だと思ってたんだけどな……。

 僕の中からまた一つ、不安が消えた気がした。


「だけど……そう簡単に抜けられるかしらね、この先を」


 一足早く歩き出し、こちらを向きながらベルシャは言った。

 不敵な笑みを浮かべたまま、後ろ向きに進んでいくのを、僕たちは慌てて追いかける。

 そのまま進んでいく僕らの前方に高くそびえる黒い建物が見えた。


「見えてきたわね」


 マリーナさんが呟いた。直後、朝倉さんが不安げな表情で息を飲むのが見えた。

 要塞の前には無数の槍の先が揺らめいていた。


「おうおう、大歓迎じゃねーか」


 シェズはいつもの様に余裕溢れる態度でそう言うと、遠くに見える軍勢を睨んだ。

 逆に僕の呼吸は微かに乱れる。

 ゆっくりと近づいてくる軍勢の先頭に、黒く大きな影があった。

 漆黒の鎧に身を包んだ姿には見覚えがある。


「……魔軍筆頭騎士ダン……!」


 僕の動揺も気にせずに、シェズは速度を上げて歩みを進めた。

 呼応するようにダンも歩みを早め、一人、僕達と向かい合う。

 立ち止まると足元の砂利が鳴った。

 その音さえ良く聞こえるのは空気が張り詰めているからだ。


「隊長が一人でノコノコ出てきていいのか?」


 シェズは相変わらず変わらない口調で言った。


「気にするな。最初から手を出すなと命じてある」


 ダンも冷静な口ぶりで返してきた。

 言葉通りか、遅れてついてきた軍勢は遥か後方で止まっている。

 

「いい心がけだ。部下の命を粗末にすることはないからな」


「ああ。そして俺には万全な状態のお前と戦う事に意味がある」


 ダンはゆっくりと背負った鞘から大剣を引き抜いた。

 切っ先を地面に突き立ててこちらを睨む。


「今度こそ、勝たせてもらう」


「上等だぜ」


 シェズは振り返り、エミカを近くに呼んだ。


「シェズ様も、一番大きいのだしますか?」


「いや……二番目のだ」


「りょーかいしましたです」


 リュックから取り出した剣を抜くと、一振りして切っ先を下に向ける。

 そしてエミカの方に背中を向けながら低い声で言った。


「久しぶりに頼む」


 そしてシェズは一度目を閉じると、小さな声で呟いた。


「誠……悪いな」





 久しぶりに脳天に一撃をもらった気がする。

 誠は……気絶したな?

 心臓が高鳴ってくるのが抑えきれず、俺は目の前の騎士を視界にとらえると、すぐさま切っ先を向けた。

 ダンは頷く様に剣を構え、その先端をこちらに向ける。


「今日はレフェリーがいないからな。とっとと始めさせてもらうぜ!」


 俺はつま先で大地を蹴り、ダンの元へ飛び込んだ。

 横なぎに剣を払い刀身を叩き付けるが、ダンはそれを一歩も動くことなく受け止めた。

 すぐさま剣を引きつつ後ろに飛び距離を確保する。

 それを狙っていたのだろう、すかさずダンは剣を突き出してきた。

 予想はしていたが、意外と動きも速い。

 横に体制をずらして何とかかわすが、脇腹すれすれを剣が通り過ぎていく。


「相変わらずの身のこなしだ……だが」


 その時、ダンの剣の動きが止まった。刀身に刻まれた彫刻がはっきりと見える。

 一瞬、血の気が引くのが解る。

 止まった剣はそのまま軌道を変えて俺の体を追いかけてくる。


「!」


 俺は咄嗟に剣を構えて刃を受け止めた。

 だが、その勢いを止めることは出来ず、体ごと遠くに弾き飛ばされる。


「シェズ!?」


 マリーナの声がやけに良く聞こえた。

 俺は地面に叩き付けられ、みっともなく背中を地面に着ける。

 なんて奴だ……。

 あのバカでかい剣をあの速さで突き出して、それを空中で止めて軌道を変えるだと?

 剣の重量、それが移動する力、そのどちらをも捻じ伏せるほどの力をこの男は持っている。


「くく……くくくっ……」


 面白ぇ……。

 立ち上がった俺は剣を構える、再び前進し距離を詰める。

 奴の左側、少し遠くから剣を突き、ダンの剣を引き寄せる。

 カンと軽い音がして弾かれた剣先をそのままに、俺はダンの背後を通り、右側に回り込んだ。


「でやぁぁぁっ!」


 左に寄った剣が戻る前に、再び突きを繰り出す。


「くっ……!」


 剣の先がダンの右腕に当たった。ちっ、流石に鎧の真ん中は抜けない。

 一振り同じ場所に剣を叩き込んでから、俺はまた距離を離す。


「ふふふ……流石だ勇者。もはや俺に当てられるのはお前しかいない」


「そりゃどうも……」


 ちっ、笑ってやがるぜ。

 その余裕が腹立たしいんだよっ!

 開いた距離を詰め、剣を下段からすくいあげる様に振りかぶる。

 ダンはそれを迎え撃つため、刀身を振り下ろしてきた。

 来た……!

 俺は咄嗟に地面を蹴り、斜め前方に飛ぶ。

 落下する剣にはさらに重さがかかる。

 同時に上半身に隙が出来る。

 俺は剣を引き寄せて構えた……その時、またダンの剣が空中で止まっているのを確かに見た。


「うおおおおおおっ!」


 剣が横を向き、そのまま滑る様に迫ってくる。

 受け止めようと剣の向きを変えようとするも、この速さ、間に合うはずがない。

 その時、地面に吸い寄せられる感覚がして、俺の体は仰向けに倒れていた。

 顔の上を大剣が通り過ぎていく。


「ぐぁ……背中痛い……」


 誠か……!?

 俺はそのまま全力で横に転がって距離を離した。

 慌てて起き上がり剣を取り直す。


「誠! てめぇ何起きてんだよ……!」


「ごめん……流石に今のは怖かった……」


「今のって……」


「ボサッとしてる場合じゃないぞ、シェズ!」


 誠の言葉で我に返る。

 ダンが再び剣を構え、次の勝負を待ち構えていた。

 

「誠、お前まさか最初から……」


「僕も寝てたかったけどね……エミカのやつ、手加減したのかな……」


「あいつ……あとでお仕置きだな」


 とはいえ、おかげで今立っていられるわけだが。

 

「シェズ……少しだけ、僕にやらせてくれないかな……」


 少し震える声で誠は言った。


「お前に勝てるってのか?」


 その問いかけに誠は首を横に振る。


「勝てるわけないだろ、僕一人で」 


 そりゃあ、そうだろうな。

 正直、俺だって勝てるか怪しい所だ。

 それだけ奴は強い。以前よりもだ。

 あの剣の動き、どれだけ鍛錬を積んだのか想像すらしたくないぜ。


「だけど……君と二人なら……」


 視線が真っ直ぐ、黒衣の騎士に定まる。

 剣の先が鈍く輝き俺を狙っている。

 それを真っ直ぐ見据える「俺」の視線。全くブレないじゃねぇか……。

 

「へへ……」


「何笑ってんだよ……」


「お前があんまり気持ち悪い事言ってるからだろ」


 んだよ、君と二人って……。そういうのは桜にでも言ってやれってんだ。

 ったく、緊張感が削がれちまったぜ。

 俺は改めて剣を構え、ダンを睨んだ。

 以前より強くなってるのはお前だけじゃあねぇ。

 

「勝つぞ、誠……!」


 体が力強く頷き、剣先が前を向く。

 再び緊張の糸が張り詰めた。


「勝負だ、ダン!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ