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唸れ! 王者の一撃

 腕に巻き付いた鎖を見ながら、僕は思考を巡らせる。

 鎖は壁に打ち込まれた留め具から伸びていて僕達全員の自由を奪っていた。

 力づくで外すのは無理だ。試しにシェズにもやってもらったけれど鎖はビクともしない。

 ここで何か力が使えればいいんだろうけど……。

 魔法が使えるマリーナさんは念入りに眠らされているらしく、まだ目を覚ます気配がない。

 その隣に捉えられているエミカも相変わらず寝息を立てている。


「カニぃ……くひひ……エビもー……」


 ……夢の中でどうやら美味しい物を食べているようだ。


「緊張感ないわね、こいつ」


 ベルシャが眉間にしわを寄せる。

 まぁ確かに、その幸せそうな寝顔は捕まっていることを忘れさせてくれる程で。

 部屋の中に大きく「ぐぅ~」とおなかが鳴る音がした。


「アンタも緊張感ないわね」


 また呆れた顔でベルシャが睨む。


「僕じゃないよ」


 じゃあ王子か………視線を移すと、相変わらず神妙な顔で項垂れていた。

 そこにまた、さっきよりも大きな音がした。ベルシャの方から。


「緊張感ねぇ……」 


 僕が呆れ顔で見ると、ベルシャは顔を真っ赤にして口を開ける。


「アタシじゃないわよ!」


「思いっきり、そっちから聞こえたぞ」


「アタシじゃないってば!」


 僕とベルシャが言い争っている声に邪魔されたのか、ようやくエミカが顔を上げる。


「ふぁぁ……はっ、ロブスターが!」


「おはようエミカ……」


「おはようございます……って何ですかこの状況!?」


 ようやく捕まっていることを自覚してエミカが声を上げた。

 腕が自由なら口元のよだれを拭いてあげたい所だ。

 しかし、エミカが起きたところでリュックは無い。どこに行った……?

 部屋を見渡すと壁に掛けられた頭だけの鹿と目が合う。

 ハンティングトロフィーか……。狩った獲物の一部を剥製にして保存するものだ。

 金持ちの趣味はどこの世界でも変わらないのかね……。

 僕は鹿のつぶらな瞳から目を逸らし、部屋の隅へと向ける。

 そこに無造作に置かれたエミカのリュックを見つけた。

 

「なんとかして、あれを開ければ……」


 しかし距離は遠い。試しに足を伸ばしてみたけれど届くはずもなく。

 僕はただ唇を噛む。

 その時、またしても大きなおなかの音が……。

 音のする方を見て、ようやく理解した。

 

「いたじゃん……ここにも」


 僕は思わずニヤリと笑ってしまった。それを怪訝な顔で見ているベルシャの、その首元に目をやる。


「オーリ! オーリ起きて!」


 僕が呼びかけると、ベルシャのうなじからのっそりとオーリが顔を出した。     

   

「あそこのリュックの口を開いてほしいんだ」


 僕が視線で示すと、オーリはじっとそれを見た後。

 ゆっくりとベルシャの体を降りた。

 そして、ゆったりとしたスピードで歩いていく。

 足遅っ!


「オーリ、急いで!」


 僕が声を上げると、それを聞きつけたのか扉の方から足音がした。

 まずいぞ……。

 扉が開き、中にミザさんとヘルクが入ってくる。


「何を騒いでいる」


 ヘルクが部屋の中に入ってきた。

 オーリは地面にへばり付いて動きを止める。

 もともと小さなリス。ヘルクは気づく事なく部屋の真ん中まで入ってくる。


「よぉ、王様……」


 シェズが口を開いた。

 ヘルクはそれを見て眉を動かした後、近づいてきて僕の顔を掴む。


「こうなっては勇者もなす術があるまい」


 嫌らしい目つきでこちらを見た後、拳を握ってそれを腹部に打ち付けてきた。

 シェズが顔を歪める。

 

「このハゲ……」


「お前も同じにしてやろうか」


 ヘルクは髪の毛を掴んで強引に下を向かせる。

 シェズは奥歯を噛みしめた。


「やめなさいよ、みっともない」


 ベルシャが声を上げた。

 ヘルクは僕から手を離すとゆっくりとベルシャの方へ移動する。


「この裏切者め……」


 ヘルクはベルシャの顔に瞳を近づけて鋭く睨みつける。

 ベルシャも負けじと眉をしかめて睨み返す。


「おあいにく様、アタシは今までもこれからも魔王様の味方なの」


「そうかそうか……見上げた忠誠心だ」


 言いながらヘルクの指先はベルシャの頬を撫でついで舌を出し這わせた。


「ひぃっ……」


 ベルシャは肩を竦ませた。露出した肌に鳥肌が立っている。

  

「痩せすぎは好みではないが……たまにはいいだろう」


 ヘルクは言いながら節くれだった指を、ベルシャの胸とそれに張り付くボンテージの間に滑り込ませた。


「いやっ……何すんのよ……あっ……」


 みるみる赤く染まるベルシャの顔。


「やめろ!」


 僕が叫ぶと、ベルシャはこっちを見て首を横に振る。

 そしてチラリと床に視線を送った。

 僕が下を見ると、床の上で匍匐前進を開始したオーリがゆっくりゆっくりとリュックに近づいていく。

 もしかしてベルシャのやつ、時間稼ぎをしてくれてるのか。


「んんっ……あん」


 ベルシャがまた声を発した。

 思わず視線を向けると、ボンテージがはだけ、露わになった上半身がヘルクの手の平に覆われていた。


「うえっ!?」


 思わず変な声が出てしまった。それを聞いてベルシャの顔がますます赤くなり、キツイ眼差しが突き刺さる。


「誠様、見ちゃいけません!」


 何故かエミカにまで怒られた。

 僕は慌てて顔を下に向けた。


「くくくくく……全く揉みがいの無い胸だ。背中と変わらんではないか」


「う、うるさ……んぁぁっ」


「ふははは……それでも感じるらしいなぁ」


 淫靡な声が響く中、僕はオーリの動きを追う。

 もう少し……もう少し……。


「……?」


 僕の視線に気が付いたのか、ミザさんが視線を下に向けた。

 まずい……。

 額に冷めたい汗が流れる。

 オーリは視線に気が付くと咄嗟に体を大の字に広げて横たわった。

 剥製と毛皮に紛れた……のか?

 冷や汗が背中にも浮かぶのが解る。

 なんとかミザさんの気を逸らさないと……。


「おい、メイド!」


 突然、シェズが声を出す。

 その声に思わずミザさんは顔を向けた。

 僕の口がやけにニヤついている……。なんか嫌な予感……。


「お前さんも、このハゲに可愛がられたりしてんのかい?」


 なに言ってんのこいつ……!


「胸はありそうだし、こいつより揉みごたえはありそうだしな」


 そう言って思い切りベルシャの方を見る。

 やめて!

 見えてるっ。そしてこっち見てる、すっごい怖い顔で!

 何とか動きを取り戻して僕は目を逸らす。

 そこで、ようやくリュックにたどり着いたオーリが、その口を開いている所が見えた。

 開いたリュックの縁から大きな尻尾が覗いている。

 やっぱり、待ってたな……。


「エゾ! シーマと一緒に大砲持ってきて!」


 僕が叫ぶと、エゾが驚いた顔を出した。

 キョロキョロと顔を横に振るエゾ。それにヘルクとミザさんも目をやった。

 いると思っていた朝倉さんがいないどころか、知らない人間の視線が集まる状況。エゾは尻尾をピンと立て慌ててリュックの中に消えていく。


「貴様、何をしている!」


 ヘルクが僕に近づいてきて再び拳を浴びせる。

 頬を、腹を。

 

「へへ……」


 僕は痛みに耐えて顔を上げた。


「お前、なに捕まってんだよ!」


 リュックの口が大きく開いたかと思うと、中から黒光りする鉄の筒が顔を覗かせた。その上に偉そうに腕を組んだポーズでシーマが立っている。

 前に僕を追いかけてきた砲台戦車だ。リスが使っているだけあって小さいけれど、室内で撃つにはこれくらいで丁度いい。


「シーマ! 大砲を撃って!」


「おうよ! 狙いはあのハゲだな!」


 それでもいいけど……狙いは……。

 僕は視線を腕の上の方に向けた。


「その小さな鎖を狙えってか?」


 シーマがニヤリと笑う。


「信じてるよ」 


 僕も笑って返してやる。


「良い度胸だぜ! エゾ、火をつけろー!」


 筒の先がこちらを向いた。


「撃てーーーーーっ!」


 ドンッ!と大きく音が鳴り、次の瞬間……!

 強い衝撃で部屋の中の空気が震えると、僕の後方の壁が崩れ、腕に絡みついていた鎖が外れる。

 自由になった腕を空間の穴から剣と共に引き抜く。


「シェズ!」


 右手の剣が左手の鎖を断ち切り、ついで仲間たちの体も解放していく。


「なんだ、何が起きた……!」


 ヘルクが床に座り込んだまま言った。

 その額にすかさずハイヒールの踵が跡をつける。


「よくもやってくれたわねぇ……」


 胸元を手で隠しながら、ベルシャはもう一度ヘルクの頭を蹴った。


「ヘルク様!」


 ミザさんがまた眠りの精霊を呼び出した。

 羊の周りの煙が広がり始めたその時……!


「シルフィー!」


 突風が吹き付けて煙が飛ばされる。そして直後にクリオネが煙のなくなった羊を凍らせてしまった。

 

「マリーナ! ようやく起きたか!」


「あんな大きな音出されたら、流石にね」


 言いながらマリーナさんは崩れた壁を見た。

 鎖が壊れなかったとしても、実はこっちも狙っていたのだ。

 形勢逆転だ!

   

「くっ……」


 ヘルクは蹴られた額を押さえながら、よろよろと立ち上がる。

 そして壁に掛けられた鹿の剥製にもたれかかると、その角を豪快に折った。

 角の先がこちらを向く。


「そんなんで戦う気かよ」


 シェズが剣の先を向けると、ヘルクは意外な行動をとった。

 手に持った角の先端は、ミザさんの首筋へと向けられた。


「動くな……!」


 シェズの動きが鈍ったのが、僕にもはっきりと解った。

 

「てめぇは……」

 

 シェズが奥歯を噛みしめる。


「何やってんのよ勇者! 相手は敵でしょ!?」


 ベルシャがこっちを睨んで言った。

 だけどシェズも僕も動けずにいた。


「くくく……思ったとおり、この甘ちゃん共にはお前であっても効果的な様だ」 


 嫌らしい笑みを浮かべ、ミザさんの肩を掴んだまま、ヘルクは後ろ向きにゆっくりと下がった。

 

「くはははは、いいか動くなよ。動いたらミザがどうなるか解っているな?」


 ヘルクが出口の扉を開けようとドアノブを掴んだ。


「まちやがれ……!」


 思わず飛び出しそうになる僕の体。その時後ろから肩を思い切り掴まれた。


「待ってくれ……」


 王子……?


「私が行く」


 そう言いながら、王子は真剣な顔つきで僕を見つめた。


「ま、今がいざって時かもな」


 シェズはそう言うと、王子の後ろに回り込んだ。


「エミカも手伝え」


「……はは、やるんですか、アレ……」


 エミカは少しだけ顔を引きつらせながら王子の手を掴む。


「何を……している?」


 ヘルクが呟いた。

 そうしている間に、シェズとエミカは王子の体を覆う鎧の留め金を次々に外していく。

 

「ミザ……動ないでいてくれ」


 王子が言うと、鎧がドサリと床に落ち、石で出来た床にヒビを入れた。

 次の瞬間……。


「ぐふぉっ!」


 うめき声が聞こえたと思うとヘルクはドアを突き破って部屋の外へと飛び出していた。

 僕らは慌てて部屋を飛び出す。


「き、貴様……今何を……」


 よろよろと顔を上げるヘルク。

 

「ふぅ……ほぉ……」


 重い鎧を脱ぎ捨てた王子の背中が微かに上下していた。

 鍛え上げられ均整の取れた背筋。太い腕にさらに盛り上がった上腕二頭筋。

 その腕に抱えられたミザさんが呆然としている。


「すまない……驚かせてしまった」


 そう言って優しいまなざしをミザさんに向ける金髪の男……。


「っていうか、あれ誰!?」


 はっきり言って違和感しかない。金色の髪が無ければ、別人と入れ替わったと信じそうだ……。

 王子はゆっくりとミザさんを下に降ろすと、再びヘルクの顔を睨む。

 腰を落とし、両手を前に構えるその姿……昔見たカンフー映画の様だ……。


「ほあぁっ!」


 雄たけびと共に王子の拳がヘルクの顔を掠める。

 青ざめたヘルクが立ち上がるのを忘れて、四つん這いのまま逃げていく。


「ゴーレム! ごーれぇぇぇむ!」


 ヘルクが情けない声を上げると、廊下の奥から石巨人が現れた。

 天井に頭を擦りつけながら近づいてきた石の巨体はヘルクの体を掴んだ。


「逃げるぞ!」


 僕が叫ぶと、隣にベルシャが立ち手を翳した。


「とまりなさいゴーレムちゃん!」


 凛と言い放つベルシャの声に反して、ゴーレムは天井を壊して上階に登っていく。

 

「ちょっと、止まらないじゃない!」


 マリーナさんが言うと、ベルシャの肩の上でオーリがぐったりとしていた。


「お腹空いて動けないってよ……」


 僕の肩に乗ったシーマが呆れた顔で言った。


「とにかく追いかけるぞ!」


 シェズが階段に向かって走り出す。


 

 外に出るとゴーレムの一団が待ち構えていた。その中の赤い色をした一体、その肩の上にヘルクが乗っている。


「貴様ら全員地獄に送ってやる!」


 激昂した声を合図にゴーレム達が襲い掛かってきた。


「アルフォンス……ボスは任せた」


「思いっきりやってきなさい」


 シェズとマリーナさんが言うと王子は黙って頷いた。


「シェズ……大丈夫なの?」


 王子の背中を見つめる僕の口元がニヤリと笑う。

 

「別にあいつは弱くねぇんだよ。誰かと一緒でな」


 言いながら目の前のゴーレムを蹴散らしていくシェズとマリーナさん。

 ヘルクのいるボスへの道が開くと、王子がもの凄い速さで近づいていく。

 普段のどんくさい動きは、鎧で制限されているからなのか……。

 

「ヘルク……覚悟しろ!」


 王子が助走から力強く地面を蹴ると遥か上方へ飛んだ。

 そして一度引いた拳を握りしめ、ゴーレムの顔面目がけて突き出す。


「はぁぁぁぁぁっ!」


 甲高い雄たけびと共に繰り出された一撃がゴーレムのバランスを崩した。

 仰向けに倒れる石の巨人。一緒にヘルクも投げ出され、驚いた顔のまま宙に舞う。

 たった一撃、あっという間の決着だった。



 ほどなくして全てのゴーレムを片付けた僕らは、屋敷の中に隠れていたエミカ、ベルシャ、そしてミザさんと合流する。

 のびているヘルクを嬉々としながらロープで縛るエミカとベルシャ。

 なんだかんだで仲良いな、この子ら……。

 そして屋敷の壁にもたれながら、オーリにご飯を上げている朝倉さん。その横にはちゃっかりエゾもいて。

 苦笑いを零しながら僕は剣を鞘に納めた。

 王子は……。

 僕が視線を向けると、王子はミザさんと向かい合っていた。

 一際強い風が二人を包む。


「ミザ……」


 王子は呟くと、ミザさんの前で膝をついた。


「すまない……君の主を傷つけてしまった」


 頭を下げ、右の拳を地面につける。

 ミザさんも膝をつき、黙ったまま首を横に振った。

 そして王子の頬に触れ、そっと上を向かせる。


「あなたは……ここまで強くなったんですね……」 


「強くなんか……ないさ……」


 王子はそういうと唇を噛む。


「かつて君と約束したじゃないか……私は民を守るための王になると……私は、人を傷つけてしまった……」


 瞳を硬く閉じた王子は拳を地面にめり込ませた。

 そういえば、王子はいつも盾と鎧で守ってくれるのは……。

 剣を取ったのだって、最初に星都で人形と戦った時だけ……。


「まぁ……街道でドラゴンにちょっかい出したことはわたくし忘れてませんけどねー」


 僕の隣に立ったエミカが言った。

 そしてリュックから新しい鎧を出すと。


「ほらほら、いつまでその似つかわしくない筋肉晒してるんですか。ハッキリ言ってキモいので早くこれ着てください」


 言いながら王子に手甲を押し付けた。

 全く……本当にエミカは王子には遠慮が無いよな……。  

 僕はそっとエミカの肩を掴む。

 すると、エミカは微笑みながらミザさんの顔を見ていた。

 

「ふふふ……確かに、似合ってはいませんね」


 ミザさんが笑っていた。

 こんな笑顔、初めて見たような気がする……。

 そして、それを見たら少しだけ王子の気持ちも解ってしまったようで。

 王子は顔を赤くしたまま、また俯いていた。

 




 月の城に戻った僕達は、ヘルクを地下牢に入れ、そのまま星の国の捕虜とすることを首都全域に宣言した。

 表面上は、星の国が王都を制圧した、という事になるのだろうか。

 とはいえヘルクは二度の逃亡により家臣からの信頼はすでになく、比較的容易に城の全権を仕切ることが出来た。

 まぁ、実際はフレドさんが上手くやった、という事なんだけど……。

 一夜明けて、また僕はメイドさん達に囲まれて目覚める事になる。


「おはようございます勇者様!」

「マコちゃん、おっはよー」

 

 うへぇ……勘弁してくれ……。

 

「みなさん、勇者様がお困りですよ」


 落ち着いた様子でミザさんが言った。

 その声を聴き、メイドさん達はピシッと背筋を正して整列する。  


「お目覚めはいかがですか、誠様」


「はは……おかげさまで」


 僕はようやく肩の力を抜く。

 ミザさんがヘルクにあそこまで従っていたのは、全部彼女たち、使用人を守るためだったのだと聞かされていた。

 彼女も守るために必死だったんだ。

 僕はメイドさん達に手伝って貰いながら身支度を済ませて寝室を出た。

 朝倉さんとエミカ、そしてやっぱりまだいるベルシャと合流し、王の間へと向かう。


「おはようございます誠様」


 フレドさんが一礼する。

 そして、その後ろにいる王子が振り返り、優しく微笑んだ。

 黙ったまま礼をしたミザさんの背中を、メイドさん達が揃って押した。


「何をするのです、あなた達……」


 僕も黙ってミザさんの背中を押す。

 王子はミザさんの前に立ち、少しだけその姿を見つめた後。

 踵を返して玉座に向かった。


「この国は我ら星の国が制圧した。よってこの城も星の国の領土となる」


 王子は玉座に腰を掛けると、その場にいる全員の顔を見渡した。


「ここにいる君たちも全員、私の大事な民となった!」


 力強く言った王子の言葉に、その場から盛大な拍手が巻き起こった。

 王子は立ち上がると、そのまま真っ直ぐにミザさんの前に立ち、そっと手を取る。


「ミザ……君の守りたい人たち、私にも守らせ貰うぞ」


 ミザさんの瞳が揺れると、大粒の涙がこぼれ。

 王子の指先がそれを拭った。

 

「ニヤニヤすんなよ誠」

「えー、君だろ?」


 隣を見ると、エミカもマリーナさんも、そしてベルシャまで、みんな同じような顔で笑っていた。


「ちょっと羨ましいかも」


 誰かが何か言った気がしたけれど、鳴りやまない拍手のせいで、よく聞き取れなかった。

 とりあえず、今は二人を祝福する方が大事だ。

 僕も大きな拍手を送った。

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